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救出 1

投稿時間がちょくちょく変わりますが、特に意味はありません。

 何度も何度も失敗した。

 ルークに少し仮眠を取れと言われて三時間ほど眠り、その後も失敗し続けて。

 それでも諦めないで作り続けた。

 そうして朝日が昇ろうと、空が黎明に染まる頃。

「………できた………」

 エラは目を開いた。

 手の中には水晶の魔石。

「……できた……できた…!店長!店長!」

 今度こそ成功した。その手応えがエラにはあった。

 大急ぎで二階でコーヒーを淹れているルークを呼び、ルークが素早く鑑定する。

「どうですか!?」

 勢い込んで尋ねると、ルークは大きく頷いた。

「完璧だ」

「っ……!」

 これでアルフィーを助け出せる!

 エラはスマホを手に取った。





 寝ていたマテウスは、朝早くにスマートフォンの音に叩き起こされた。

 鳴り止まない着信音に電話だと理解し、スマートフォンに手を伸ばす。誰からだ。部下からか、それとも捜査官か。アルフィーの誘拐に進展でもあったか。

 一瞬で色々考えたマテウスだったが、画面に表示された名前に眠気なんか吹っ飛んで、起き出しながら電話を取った。

「マテウス・グレイです」

『マテウスさん!』

 生気に満ちたエラの声に、望んだ物が完成した事が知れる。

『追跡魔法の魔石が完成しました!』

「ありがとう、エラちゃん」

 最低限の身嗜みを整えながら、マテウスは電話の向こうのエラに感謝した。

「すぐそっちに行くね。俺が置いていった魔法陣を俺が現れても問題ない所に置いて欲しい」





 マテウスはすぐにフランマに飛んだ。

 店内にあった魔法陣の上にマテウスが現れると、エラとルークが目を丸くしていたが、マテウスはマテウスでエラの有様に目を丸くした。

「どうしたの?その傷……」

「え?…あ……魔法付与で沢山失敗したので……」

 エラは手や顔、腕や胸に小さな傷をいくつもこさえていた。その全てがもう血が固まっているようだが、白い肌は怪我による炎症で怪我の周りが少し赤くなっているし、服は茶色く汚れていて、まるで上半身だけ崖でも転がり落ちたような有様だ。

「魔法付与に失敗すると石が割れるので、それで怪我をするんですよ」

 ルークの簡素な説明に、そういえば以前アルフィーが治癒魔法の本を開いていたので、どうしてそんな本を開いているのか聞いて、エラが魔石作りに失敗すると怪我をするからと言っていた事を思い出す。なるほど、こういう事か。

「それより、できました!」

 エラは全く自分の状態に頓着せず、マテウスに革紐にビーズ状の水晶を一つだけ通したブレスレットを手に乗せて差し出してきた。

「これでアルフィーの魔石を追えます。店長にもお墨付きをもらいました。…だから…っ…………アルフィーを助けて下さい…」

 最後のお願いは声が小さくなっていた。

 この国で好まれる、黄色がかった緑の瞳が今にも涙を零しそうなほどゆらゆらと揺れている。まるで、雨にけぶる妖精の月のようだ。

 マテウスはエラの手からブレスレットを受け取った。

 透明度は低く、宝石としての価値はほとんどない小さな水晶はあまりにも心許ないが、今はこれだけがアルフィーに繋がる希望だ。

 結局、軍も警察も、昨日一日ずっと探していたにも関わらず、デコイに引っかかっただけで、何も成果を上げる事ができなかったのだから。

「大丈夫。必ず助け出すよ」

 みすみすアルフィーを殺させやしない。

 エラは泣きそうな顔で頷き、ルークも何かに耐えているような顔でマテウスをひたと見てくる。この店でアルフィーはとても大事にしてもらっていた事が分かる。

 マテウスはアルフィーを助ける為に、再び転移魔法を展開しようとして止めた。

 本人はけろりとしているが、エラはあまりに痛々しい状態だ。

「その傷、治そうか?」

 マテウスも治癒魔法は使える。このくらいの怪我ならそう時間もかからず治せるだろう。エラだってこれだけ小さな傷を負っていると、手を動かした時に引き攣れて痛かったり、シャワーの時に石鹸が傷に沁みたりするだろう。

 しかし、エラは今にも泣きそうな顔でゆっくり首を振った。

「…アルフィーに治してもらうからいいです…」

 その一言に心打たれる。

 きっと彼女はアルフィーの誘拐現場に気付かなかった事を悔やんでいて、今もどこかに閉じ込められているアルフィーが解放されるまでその傷を魔法で治すつもりは無いのだろう。まるでその痛みが贖罪であるかのように。

 マテウスは目を閉じて感傷を追い出すと、魔法を展開した。

 のんびりはしていられない。人質である以上、アルフィーは無事である確率が高いが、あくまでも確率の話だ。

「じゃあ、次に俺が来るときは必ずアルフィーを連れてくるよ」

 転移魔法で帰る直前、やっぱりエラは泣きそうな顔で頷いた。





 マテウスが帰った後、入れ違いにシンディがやってきた。

 シンディは朝食を持ってきてくれ、三人でそれを食べると、エラは二人に一度しっかり休むよう言いつけられた。

「今日は急ぎの仕事もないし、私とダスティンで店は回すから、エラはちゃんと休みなさい」

 エラは渋ったが、シンディに説得されて一度アパートに帰ろうとした。

 しかし、そこへ予想外の客が朝早くからフランマの扉を叩いた。

「おい!おい、ルーク!見たぞ!テレビに映ってんの、お前んとこによく来る子じゃねーか!?」

「ちょっと、アルフィーが誘拐ってどういう……!」

 朝早くに来たのは商店街の顔馴染みの人達で、慌ててルークとシンディが口を塞ごうとしたが、ばっちりエラの耳に聞こえてしまった。

「テレビ……?」

 意味が分からず茫然としていると、ルークが諦めて正直にアルフィーの誘拐事件がトップニュースになっていると教えてくれて、初めてエラはスマホでニュースを見た。

 そうして愕然とする。

 北部解放戦線の残党は、アルフィーの身柄と引き換えに幹部の解放と多額の身代金が要求していた。映像もあり、手足を縛られているらしいアルフィーが目出し帽を被った男に拳銃を突きつけられている横で、別の男が口上を述べている。

 怖くて途中で映像は止めた。

 政府は今のところ要求を跳ね除けているようだが、本当にアルフィーは大丈夫なのだろうか。

 陰りを帯びた真っ青な顔のエラの様子にやっと顔馴染み達も失言だったと気がついたが、もう遅い。

「大丈夫よ。きっと、軍や警察の人が助けてくれるわ」

 固まっているエラの肩をシンディが撫でて宥めてくれるが、もう動悸が止まらない。眩暈がする。呼吸が苦しい。

「エラ、二階で休みましょう。寝てていいから…」

 母親のようにシンディが茫然としているエラの肩を抱いて二階の書斎に連れて行ってくれ、エラはもう何も考えられなくて、シンディの言う通りソファーに座った。泣ければよかったのかもしれないが、上手く泣けなかった。

 アルフィー…どうか無事で……。

 組んだ手を額に当てて、ひたすらアルフィーの無事を願うーーーそれしかもうできる事がなかった。




上手く書けてませんが、アルフィーが誘拐=王家の危機なので軍が出張ってます。アルフィーは軍の保護下ではないから常に守られはしないけど、アルフィーに何かあると国に打撃を食らうので、有事の際には軍が動くという、ラピス公国の歪みがあります。年金と生活保護で生活保護の方が金が多く貰える歪みとかと同じです。おかしいだろ!って思うけどなかなか是正されない。



あと、私のイメージする軍と警察の住み分けは、

国に関する事→軍  市民に関する事→警察

なので、この話の国の代表である王族は軍が守ります。

でもイギリス見てると王族守ってるのは警察っぽいですね。日本の皇室も警察。警察の方が一般的なのかもしれませんが、まあ創作という事で許して下さい。


追記

読者の方から、イギリス王室にはロイヤルガードと呼ばれる陸軍の警備もあるよと教えて頂きました。勉強不足で申し訳ない!


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