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異変 1

不穏パートの始まり。

この話のヒロインはある意味アルフィー。

 エラが覗きたかった店は小さな雑貨店で、可愛い雑貨やお洒落な雑貨を見るのは純粋に楽しい。

 一通り見たが特に欲しいものは無く、目の保養だけしてエラは集合場所に戻った。

 距離的に一番近いデイヴはもう戻っているだろう。アルフィーは少し離れていたからまだかも知れない。

 エラが戻ると、丁度デイヴが戻って来た。手には美味しそうなチキンが入っているボックスが抱えられている。

「あれ、意外。私より早く戻ってるかと思った」

「買おうとしたら突然並び出した」

 それは不運な。

「アルフィーはまだか」

「みたいね」

 最後のアルフィーを待とうと二人は通行人の邪魔にならない位置でアルフィーを待つ。

 けれど五分経ってもアルフィーは帰って来ない。

「どうしたのかな…」

「何やってんだ、あいつ。チキンが冷めちまう」

「混んでるのかしら」

 これだけの人だ。祭りで他所から来た人も多い。ジュースを買いに行った先が混んでいるのかもしれない。

「待つか」

「うん」

 ーーー更に五分。

「もう先に食う」

 デイヴがチキンに手を伸ばして口を付けた。

 食べにくそうだったので、エラはチキンのボックスを受け取り、デイヴの両手を自由にした。

 ーーー更に五分。

「……いくら何でも遅すぎない?」

「そうだな…」

 デイヴがチキンを食べ終わり、二人はまんじりとした時間を突っ立って過ごしていた。

 すでに三人が散ってから二十分は経過している。

「ちょっと電話してみる」

 エラはスマホを取り出してアルフィーに電話を掛けた。

 どこかで道に迷ってるのだろう、なんてアルフィーらしくない失敗を思い浮かべながらスマホを耳に当てるが、コール音ばかりが耳に響く。

 何で出ないの…?

 焦燥感が胸の内に広がるのを感じながらエラは焦れた。

「出ねえのか?」

 デイヴが険しい顔でエラを見つめてきて、エラは段々と顔色を悪くした。

 アルフィーが黙っていなくなるなんて事、今まで無かった。

「…ねえ、まさか…」

 そんなわけない。そう思いながらも去年の今日を思い出して心の片隅から不安は広がっていく。

 アルフィーと出会って一年半弱、彼が危険な目に遭う理由は知っているし、今まで二回ほどその憂き目にもエラは立ち会っている。

 一度目は去年のオータムフェスティバル、二度目はヨルクドンの帰り。

 でもどちらも実質的に何も無かった。アルフィーは害される事なくピンピンしていて、ちゃんと軍のお迎えがやってきて、数日後にはいつも通りフランマに顔を出していた。

 でも信じられない。アルフィーは魔法が得意で、身を守る為に魔法を鍛えられ、姿を隠すのも、防御するのもある程度ならできると豪語していた。

 だからアルフィーに何かが起こるわけ……。

 その時、ふとデイヴが不自然な動きをした。

 まるで何かに呼ばれたように中空を見つめ、ぎょっとしたように走り出す。

「え!?デイヴ、待って」

 エラは慌ててデイヴを追いかける。人混みで見失いそうだったが、彼はすぐに止まった。

「モルガン!」

 女性の名前を呼ぶデイヴに、知り合いでもいたのかと思ったがすぐにエラは思い直した。

 モルガンはアルフィーのそばによくいる妖精の事だ。

 デイヴに追いついたエラは足を止めて、デイヴの様子を伺った。周りの人は立ち止まっているエラとデイヴには構いもせず、あるいは不思議そうに、または迷惑そうに目を遣りながらも祭りの喧騒に戻っていく。

 デイヴが小さく「クソッ」と悪態をついた。

「アルフィーが攫われた」

 続いた言葉にエラは瞠目して言葉を返す事ができなかった。





 マテウス・グレイは三ヶ月後に始まるプリンセス・エイブリーの外遊公務の護衛プランを立てていた。

 今回行く国の中には情勢が不安定な国があるため、万が一暗殺されそうになっても彼女を守る為の布陣を考えていく。

 そんなマテウスの机の上でスマホが震えた。

 パッと手を伸ばして画面を見ると、エラ・メイソンと表示されている。

 姓と同じ職業を目指している、アルフィーの彼女。

 それを認識した瞬間、マテウスはすっとブルーグレーの瞳を鋭利に細めた。

 彼女はマテウスが電話番号を教えた意図を正確に把握していたとアルフィーが言っていた。つまりこの電話は良く無い事が起こったから掛かってきたという事だ。

「もしもし?エラちゃん?」

 声に剣呑さは微塵も出さず、マテウスは意識して優しい声を出した。初めから強い口調で話してはエラが萎縮して聞きたい事を聞き出すのに時間が掛かってしまう。

 そしてマテウスの予想通り、電話口のエラの声は震えていた。

『マテウスさんですか?ど、どうしよう…』

「エラちゃん、落ち着いて。アルフィーに何かあった?」

『アルフィーが誘拐されちゃった…!』

 マテウスは机の上にあるメモ帳に手を伸ばした。





「いらっしゃ……あれ?エラじゃん」

「エラ?どうしたの?」

 フランマの扉をくぐったエラは、レジカウンターにいるシンディと商品を補充しているダスティンに、真っ青な顔で何をどう説明しようか悩んだ。

 この二人も今は見えないが奥にいるルークもアルフィーがどこの生まれかは知らないのだ。

 そんなエラの代わりにデイヴが口を開いた。

「ちょっとアルフィーとはぐれてしまったんです。その、ここを待ち合わせ場所にしたので…」

「アルフィーと?」

 デイヴの説明にシンディは訝しそうにするが、エラが青い顔でこくこくと頷くと不思議そうにしながらも了承してくれた。

 今エラとデイヴがフランマに戻ってきたのはマテウスの指示だった。

『たぶん二人が狙われる事は無いと思うけど一応安全策を取るね。エラちゃんの職場に二人で戻れる?あそこなら一先ず安心だ。俺もすぐに向かうから』

 アルフィーが誘拐されたのは間違いなかった。何度電話しても繋がらない電話、デイヴによると妖精は《愛おし子が攫われた。鉄の車で追えない》と嘆いていたという事からもほぼ確実だ。

 だからエラは震えながらマテウスに電話して、マテウスはすぐに状況を把握すると的確な指示をくれた。

 そしてエラはデイヴとフランマに帰ってきた。

 数時間前には三人でここを出たばかりなのに。

 青い顔をしながらも、店内にいては商売の邪魔だからとエラはデイヴと工房の方へ入れて、応接スペースの椅子に座ってもらった。

 工房にいたルークにも同じ嘘の説明をして、エラは落ち着かない気分でマテウスが来るのを待った。

 ふと目についたのはルークが作った黒水晶の魔石。

 その黒水晶を持ち上げて、エラは手のひらに包むと祈るように両手の拳を唇に当てた。

 ーーーどうか、お願い。私の魔石。アルフィーを守って…。

 アルフィーはエラがあげた破邪退魔の魔石のピアスを必ず付けている。あれがあるから一回は守られたはずだ。

 三十分も経った頃、さすがにこんな長時間アルフィーが戻らないのはおかしいとルーク達も気付き、シンディと二人がかりでどうしたのかエラに尋ねて来たが、エラは青い顔をしながらも頑として口を開かなかった。

 そんな時、カラン、とフランマのベルが鳴った。

「いらっしゃいませー」

「すみません。エラちゃんとデイヴ君がこちらにいるはずですが」

 その声を聞いた瞬間、エラは弾かれたように工房から店側に移動した。

 ダスティンにエラ達の所在を聞いたのは、淡い金髪とブルーグレーの瞳を持った神様もびっくりするほどの美青年で、エラはその姿を認めた途端泣きたくなった。

「マテウスさん…」

「遅くなってごめんねぇ。今、全力でアルフィーを探してるからね」

 探している、という事はまだ見つかっていないという事だ。

 我慢していた涙が零れ落ち、エラは近くにいたシンディに縋り付いた。

 何が起こっているのか分からないはずなのに、ゴブランフィールドに来てから母親の様に接してくれるシンディは優しくエラの頭を撫でながら、そっと抱きしめてくれた。





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