オータムフェスティバル、再び 3
オータムフェスティバルは去年と変わらなかった。
並ぶ屋台の呼び込みやフリーマーケットで賑わう市民の間をエラはアルフィー達と進んでいく。今年からゴブランフィールドに住む妹も大学の友達とどこかにいるだろう。
エラの祭りの目的はフリーマーケットである。
なんせ一人暮らし。多少古くてもいいから使い勝手のいいものを見つけて買いたい。具体的に欲しい物はないが、行ってみたら何か掘り出し物があるかもしれない。状態のいい物はすぐに売れてしまうから本当ならすぐにフリーマーケットで掘り出し物を見つけに行きたいが、エラは午前中働いたせいで空腹だった。
腹を押さえながらぐったりと肩を落とす。
「お腹減っちゃった」
「どこかで適当に食べようか」
「適当、つってもどこも混んでるぞ」
「そこなのよねぇ…」
祭りなので、昼食時の今はどこも普段以上に混んでいる。
決まりきらず三人で祭りを回り、たまたま外の空きテーブルが出たカフェで場所を取って軽食を食べた。
出てきた軽食はエラにはそこそこ十分な量だったが、男性であるアルフィーやデイヴの腹が満たされるのかは微妙な量だ。でも二人とも文句を言う事はなかった。
昼食の後はフリーマーケットへ。
普段は観光街の大通りだが、今はそこかしこでテントが張られたり、露店のように地べたにシートを敷いたりしたお店が所狭しと並び、お値打ち価格であらゆる物が売られている。
「わあ、可愛い!」
エラはフリーマーケットでアンティークのティーポットを見つけた。
白い陶器製で、金の縁取りと花柄がとても上品だ。
これは掘り出し物…!しかも安い!できればカップもセットで売ってないだろうか。
ティーポットを見つめたまま固まっていると、隣りの店をひやかしていたアルフィーがやって来た。
「何か見つけた?」
「ティーポットよ。ほら、ここ。分かる?これ魔石入れが付いてるタイプなの。今は全然流通してないのよねぇ…保温できるし、冷めた紅茶とかも温め直せるし、アイスティーもすぐに作れるから便利なんだけど」
今はティーバックという便利な物があるし、保温の為の魔石もまず見かけないので、魔石入れの付いたティーポットなどエラの持っている魔石入れ付きのマグカップ以上に廃れているのだ。
エラは思い切って店主に話しかけた。
「すみません、このティーポットってカップのセットはないですか?」
「ん?…ああ、それが無いんだよ。それは私のおばあさんが持っていた物で、昔はカップが二脚付いてたんだけど、カップだけ使っているうちに両方共割ってしまってね。今は古びたティーポットだけだ」
「そうですか…」
ちょっと残念に思いつつ、店主に断ってティーポットを持ち上げる。
やっぱり可愛い。カップが付いてないのは残念だが、ほとんど流通していない魔石入れ付きのティーポットは欲しい。お値打ちだし。
でも、カップが付いてないなんて。やっぱりポットとカップは同じ柄がいい。
いや、もしかしたらこれだけ大きなフリーマーケットだからどこかにセットで売ってるかも?
うー…と散々悩んで、エラはティーポットを戻した。
「買わないの?」
「買わない…カップとお揃いが欲しいし、今買ったら荷物になるし…」
んんん、あーでも……と何度も変な声で唸りながら結局エラはティーポットを諦めた。
デイヴを探すと、デイヴは少し先のフリーマーケットで何か買っていた。
「何買ったんだ?」
「精密ドライバー」
「何それ」
「スマホとか眼鏡のドライバー」
デイヴの回答の意味が分からなかったエラだったが、買った物を見せてもらって納得した。先が物凄く細かいというか小さいというか……。
「何、スマホでも解体すんの?」
「…まあ、してみたくはある。色々使えるし、ただ欲しかっただけだ」
アルフィーとデイヴの短い会話に、エラは内心で驚く。スマホって解体できるものなのか。いや、機械なんだからできるだろうけど。なんか、こう……びっくりだ。
その後も三人でフリーマーケットを回り、全部回り終わる頃にアルフィーとデイヴが空腹を訴えた。
「あのカフェ、量少なかったからなぁ」
「同感」
やはりあの軽食の量では少なかったのだろう。
「女性向けのカフェだったもんね。何か屋台で食べる?」
「そうしよう」
そんな訳でフリーマーケットから屋台や店が立ち並ぶ方へ向かう。
ふらふらと三人で店を回ると、デイヴがピタ、と足を止めて口火を切った。
「俺、あそこのチキン買ってきていいか?」
デイヴが指差したのは屋台ではなく近くのお店で、祭りに来た人をターゲットにお店とは別口でチキンを売っている。
「俺の分も頼む。代わりに少し戻ってジュース買って来るよ」
「じゃあ私、あっちのお店、覗いてきていい?」
三者三様の場所をお互いに提示する。全員方向が違う。
となれば当然、三人は一時別行動する事になる。
集合場所を決めて、アルフィーに飲み物の注文をして、三人はそれぞれ行きたい方向へ散る事を決めた。
アルフィーの茶髪とデイヴの焦茶色の髪を見送った。目で追っていたアルフィーの茶髪が黒い服の誰かに隠れて一瞬で見えなくなる。人混みに紛れてしまったようだ。デイヴの方を見れば、彼はチキンのお店に一直線で、エラも見つけた雑貨屋を覗こうと歩き出す。
ーーーこの時は、この後に起こる事なんて少しも予想できなかった。




