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オータムフェスティバル、再び 1

 コブランフィールドは来たるオータムフェスティバルに浮き足立った雰囲気を醸し出していた。

 それはフランマも同じで、紫水晶や水晶のビーズの月光干しが始まっている。

「でも今年は仕事だろ?」

 夜、フランマの泊まり込み部屋もとい書斎でクッキーを摘みながら、エラはアルフィーに頼んで魔法陣の勉強をしていた。

 明日も平日の為、終電に間に合うように彼は一時間もしたら帰る。

 出会ったばかりの頃から比べると、随分アルフィーの口調がエラに対してぞんざいになっているのを喜ばしく思いながら、エラは雑談に応じた。

「うん。もう、聞いてよ。去年も店は開いてたらしいのよ!店長達にいっぱい食わされたわ!」

「まあ、そうだろうなとは思ってたけどね、俺。だからあの日フランマの方に近寄らなかったんだし」

「何で教えてくれなかったのよ!」

 むすっとした顔でエラは目の前のアルフィーを睨むが、アルフィーは苦笑するだけだ。

 エラが頬を膨らませているのは、去年のオータムフェスティバルの件だ。

 去年、エラはシンディが『店を閉める』と言ったので渋々アルフィーとデイヴと一緒にお祭りに参加した。エラは店は閉まっていると思っていたのだ。

 でも実際はエラが抜けた穴をシンディが埋めて、夫婦二人で店を開いていたらしい。

 シンディがエラに祭りを楽しんで欲しくて行かせてくれたのは分かっているが、騙されたのは納得いかない。

「俺だって確証があったわけじゃないよ。幻影の魔石をいくつ作るか話してたのに、突然閉めるなんておかしいなぁって思ったから、何となくシンディさんの意図を汲んだだけ。まあ結局、あんな事になったからエラを連れ出せてよかったのかは疑問だけど」

 そう言われ、エラは瞬きをして去年を思い出す。

 駅でアルフィーと、そしてデイヴというアルフィーの幼馴染と合流してしばらくは祭りを楽しんだ。アルフィーの好物がアップルパイだと知ったのもあの時だ。

 人混みは嫌だと言いながらも楽しんだのは覚えている。デイヴがいたせいか、普段より子供っぽいアルフィーも見れたし、フリーマーケットなんかで掘り出し物がないか楽しんだ。

 でも目標にしていた魔法花火の打ち上げはできなかったのは残念だった。

 あの時はアルフィーが狙われたのだ。軍からの迎えが来て魔法で帰ってしまい、その頃アルフィーの特殊な出自を知らなかったエラは困惑して祭りを楽しむ所じゃなくなってしまったので、デイヴにアパートまで送ってもらった。

 でも楽しかったは楽しかったのだ。

「楽しかったわよ」

「そう?ならいいんだけどさ」

 それにしても残念だなぁ、とアルフィーが呟いた。

「残念?」

「デイヴ、今年も来るんだってさ」

「え!デイヴに会えるの?」

 大学を卒業したデイヴが国内の自動車会社に入社したとは聞いている。アルフィー曰く、昔から黙々と機械弄りをするのが好きらしく、一般企業以外にも空軍で飛行機の整備士になるのも視野に入れて就職活動をしていたようで、何が決め手になったかは知らないが最終的に自動車会社の技術者として働くと決めたらしい。

 エラはクッキーを摘みながら、デイヴが来る事を喜んだ。フランマに来てくれるといい。

 新生活の準備や会社の研修なんかでデイヴは忙しくしており、たまに連絡はしているが映画の話なんてここ三ヶ月ほどしていない。

 落ち着いたらまた映画の話ができたらいいなぁ、と思っているとアルフィーが思いがけない事を言った。

「あいつ、配属先がコブランフィールドにある支社になったらしいよ。こっちで一人暮らしするってさ。だからオータムフェスティバルだけじゃなくて今後も会えるんじゃないかな」

「そうなの!?」

 じゃあ今年一年は三人は同じコブランフィールドにいるらしい。……いや、アルフィーはストーナプトンに住んでるんだけど。

 嬉しい知らせにスーパーのクッキーがとても美味しく感じられる。

「じゃあ今年はお祭りの終わりがけにフランマに二人で来てくれる?そうしたら三人で花火をあげましょうよ。去年はできなかったから」

 去年はできなかった事を提案すると、アルフィーが微笑む。

 今年こそは仕事があるのでお祭りには行けないだろうが、それでも楽しむ事ができそうだ。

 エラは来たるオータムフェスティバルを待ち遠しく思った。





 ルークとエラが花火の為の魔石をオータムフェスティバルに備えて売り始めた頃。

「初めまして、ダスティン・フレッチャーっす。今日からよろしく」

「…俺の甥だ。今日から見習いとして働く」

 フランマに新しい弟子がやってきた。

 エラは紹介された青年をぱちくりと瞬きして見つめた。

 ルークの甥というが、あまりルークに似ていない。職人気質のせいか、気難しそうに見えるルークに対して、紹介されたダスティンは軽薄そうでいかにも今時な若者、という感じだ。

 軽薄に見える理由は甘い顔立ちをしているからだろう。それにかっこよくセットされたダークブランドは、根元が黒っぽいので染めている事が分かるし、服装だって特に服装に規定がない職業とはいえ、なんか派手派手しい。店に合ってない。

 こんな人と一緒に働くの?

 まあでも、あくまで第一印象だ。見た目で人を判断してはいけない……。

「へー!叔父さんのとこ、可愛い女の子の見習いがいるって聞いてたけど、マジで可愛いね!名前何?よかったら今日の仕事終わりに飲みに行こうよ」

 ……前言撤回。中身も軽そうだ。

 あまりに軽薄な態度にエラは思わず顔を顰めそうになったが、その前にルークが拳を振り上げてダスティンを殴った。

「いってえ!」

「エラに手出ししたら許さんぞ。それにエラはお前より歳は下だが魔石工としては先輩だ」

「何だよー。別に名前聞いただけだろー?」

「飲みに誘ってただろうが」

「あんなん挨拶みたいなもんじゃん。ねぇ?」

「……そんな事はないと思います」

 同意を求められたが、エラは正直に返す。少なくともアルフィーもデイヴも、これまで出会った男性達は出会った瞬間に酒の席について話さない。

 変な人。

 その後、ルークから聞いた話によるとダスティンは大学を出てから大言壮語は吐くばかりで真面目に働かず、ずっとふらふらしていた人らしい。

 ここ数ヶ月働きもせずに家で管を巻く息子に堪忍袋の緒が切れたルークの兄が、ちゃんと働いてこい!とフランマに突っ込んだのが実情のようだ。

「…というわけで、たぶんあいつは魔石工になるつもりは無いと思う」

 ルークは力なく言う。

「当分は店番だ。魔石の説明やなんかをあいつにやってもらう。最低でも三ヶ月は続けないと魔石工としては鍛えてやらんつもりだ。エラもそのつもりでいてくれ」

 エラがフランマに就職した時と同じ条件だ。ただしエラは本当に魔石が好きで、商品の魔石についてはあっという間に覚えてしまったし、掃除や商品出しなんかの雑務も真面目にこなしたので、就職して一ヶ月で魔石工として教えを請う事ができた。

 今までの経歴を聞くだけで早々に根を上げそうなダスティンにどこまで務まるのか疑問である。

 しかし、店長はルークなのでエラはその決定に従うだけだ。

 その日からフランマに新しい仲間が増えた。

 ダスティンはやはり経歴通りの男だった。

 歳はエラより三つ上だが、すぐに店番をサボろうとするし、何回説明しても商品の魔石について覚えないし、掃除だって適当。今は大学生達が姿隠しなどの魔石を買う繁忙期も終わりかけとはいえ、ちゃんとやって欲しい。もう何度もエラやルークが商品説明を代わったか分からないし、何よりお客様の女子大生に粉をかけないで欲しい。フランマのイメージダウンだ。

 それにエラを酒に誘う回数も多い。

「彼氏いますから結構です」

 何回そう言って断った事か。

 しかし彼はめげない。

 仕事が終わり、三人それぞれ帰る方向が違うのだが、エラは最初のうちはダスティンと同じ方向なのでよく絡まれる。

 しかもルークに殴られた事が効いているのか、ルークが見えなくなってから絡まれるので、エラは一人で対処しなければならない。

 ただし、今日は違った。




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