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エラの家族

 ホームパーティーから四日後、レーナがコブランフィールドに引っ越してきた。

 といっても引っ越し当日はエラは仕事で手伝えなかったし、レーナが住むのは大学寮でそれほど荷物は多くなく、両親が荷物運びを手伝えば十分だと言う。

 そんなわけで、エラは仕事をしていた。両親もレーナも昼間に来て終わり次第帰るとのことだったので、家族には会えなかった。コブランフィールドから故郷グリーンウィッチは車で数時間かかるのだ。

 少し寂しく思っていると、アルフィーがバイト帰りにフランマに寄ってくれた。

「家族には会えた?」

「ううん。引っ越し終わったら帰るって言ってたから」

「そっか。遠いもんね」

 それ以上、アルフィーはエラの家族について何も言わなかった。

 それよりエラは気になる事があった。

「ところで今日はどうしたの?午前中は大学で用事があるとか言ってたし、午後もバイトがあるからって言ってなかった?」

 会えた事は嬉しいが、アルフィーは今日一日中用事があるとかで会えないと思っていたのだ。

 ちなみに何のバイトかと言うと、エラからするとさすがコブランカレッジ生という感じのバイトで、何でも魔法の指南書の編集を手伝うらしい。勿論本を編集する中心はどこかの教授だったりするようだが、分かりやすく間違えずに編纂する為に専門知識を持った人が必要で学生バイトを募集するらしい。

 だから今日は会えないと思ったのだが、アルフィーは鞄に手を突っ込み、何かを取り出した。

「バイトはもう終わったよ。これをルークさんに渡そうと思って。仕事中かな」

 アルフィーが取り出したのは封筒のようなもので、それを持ったままアルフィーは工房側を覗き込み、ルークと話し始めた。

 しかしすぐにルークが間抜けな声を上げた。

 何だろう、と気になるがもうすぐ閉店とはいえ店番中のエラはレジカウンターから離れるわけにもいかない。

 聞き耳をたてながら待っていると、ルークは感激したような声を上げた。

「こいつは驚いた……!」

「いつもお世話になってるので。…まあ父のツテなのであまり大きな顔はできないんですけどね」

「いや、嬉しいぞ。仕事が捗るな!」

 上機嫌なルークの声が工房から聞こえてきて、すぐにアルフィーが工房から戻ってきた。

「何をあげたの?」

「サッカーのチケット。ボックス席」

「ボックス席?」

「そう。父さんが知り合いにチケット貰ったんだけど、父さんは仕事が入っちゃったし、母さんはあまり興味ないし、俺一人で行ってもさ……。ちょうどルークさんが贔屓にしてるチームの試合だからあげた」

 アルフィーが肩を竦める。

 そこへほくほく顔のルークがやってきた。こんなにご機嫌のルークを見るのは珍しい。

「そろそろ店を閉めるぞ、エラ」

「はーい」

 返事をして閉店作業に入る。

 十五分くらいで作業を終え、ルークと別れた所でアルフィーがスマホを差し出した。

「ところで、ここ行かない?」

「なあに?」

「今度こそ泊まりがけで遊ぶ為に」

 エラはスマホを見て喜色を見せた。

「トレーラーパーク?本当に!?」

 トレーラーパークとはとある映画会社のあらゆる映画をテーマにした遊園地だ。コブランフィールドから電車で一時間半で行ける。

 世界に何箇所かあり、ラピス国内に一つある。エラも映画好きとして一度行ってみたかったが、故郷にいる頃は遠過ぎて行けず、コブランフィールドに来てからも結局行けていない。

 そこにアルフィーと行ける?

「やっとバイト料が目標金額まで貯まったんだよね。オフィシャルホテルは無理だけど、近くでホテル取って泊まりがけで行こう。ヨルクドンの挽回させてくれる?」

「別にヨルクドンはヨルクドンで楽しかったわよ。…でも…嬉しい!」

 エラは嬉しくて思いっきりアルフィーに抱きついた。

「一度行ってみたかったの!」

 抱きついてきたエラの勢いをアルフィーは上手くエラの身体ごと回して消すと、柔らかく降ろす。

「はは、よかったーーー」

「エラ!?」

 突然の太い声に名前を呼ばれてエラは驚いて振り返った。

 笑顔だったアルフィーが表情を引き締め、エラの腰に回していた腕に力を込めて警戒心を顕にしたが、エラは聞き覚えのある声に固まる。

 そして視線の先には案の定、父がいた。

「お父さん!?」

 というか父だけでなく母も妹もいる。

 アルフィーが目を丸くしてエラを見た。

 が、驚いているのはエラも同じだ。

「エラーーー!」

「ひっ!?」

 泣き顔で向かってくる父に変な恐怖を感じて、エラは思わずアルフィーの影に隠れようとする。

 盾にされたアルフィーは戸惑いつつもとりあえずエラの盾になった。

 さすがに見知らぬ青年が間に立ったせいか、涙を湛えた泣きそうな顔で両手を広げたまま父は止まる。

 エラは抱擁を家族に見られていた羞恥が怒りに変換され、アルフィーの肩から顔を出すと、キッと眉を吊り上げた。

「何でお父さん達がいるのよ!?帰ったんじゃなかったの!?」

「帰ったのは嘘だよぉ…サプライズで驚かせようとしたのに…したのに……!」

「サプライズ!?」

「なのに…なのに…!そいつは何なんだぁーっ!」

 ビシィッと父がアルフィーを失礼にも指差す。

 その態度にエラは益々眉を吊り上げる。

「ちょっと!アルフィーに失礼な態度取らないでよ!」

「アルフィー!?」

「…えっと、アルフィー・ホークショウです。エラさんとお付き合いさせて頂いてます」

「っ…」

 父に突然睨まれたアルフィーがとりあえず自己紹介し、あっさり恋人だとバラしたのでエラは思わず隠れたまま頬を赤くする。

「やっぱりお姉ちゃんの彼氏なんだ!」

「レーナ、お母さん」

 そこへ妹と母がやってきた。

「こんにちは。レーナ・メイソンです」

「初めまして。エラの母です」

「初めまして。アルフィー・ホークショウです」

 なし崩し的に家族が勢揃いして自己紹介する流れになってしまっている。

「今日はエラを驚かせたら夕飯を一緒に食べようと思ってたんだけど思わぬ収穫ね。彼氏がいるとは聞いてたけど…優しそうな人ね」

「パパは彼氏なんて認めないぞ!」

 母には好印象みたいなのに、父は頭ごなしに否定する。うざい。

 ぴき、と青筋がエラに立つ。

「パパより強くて賢くなきゃエラの彼氏だなんて認めんぞ!」

「間違いなくお父さんより賢いわよ!」

「どうしてそんな事が分かるんだ!?」

「はあ!?分かるわよ!アルフィーはコブランカレッジに通ってんのよ!?お父さんより絶対に賢いわよ!」

「コブランカレッジ!?」

「エラ、落ち着いて…」

「筋肉はパパの方が上だぞ!?」

「筋肉達磨なんてこっちからお断りよ!」

「き、筋肉達磨……」

「私もお父さんみたいな筋肉達磨は嫌だなぁ…」

「レーナ!?」

「だってお父さんのハグ、キツイもん」

「いっつも暑苦しいのよ!」

「そんな…!うう…ママ、娘達が冷たいよ…」

「はいはい」

「コブランカレッジってあのコブランカレッジ?お姉ちゃん、どうやってそんな頭いい人捕まえたの?」

「捕まえたって……古代文字を教えてもらってたのよ」

「パパ、泣いちゃうぞ」

「古代文字ぃー?何でそんなの必要なのよ」

「仕事で必要なの。でも難しいでしょ、あれ」

「娘達が無視する!」

 コブランフィールドの一角でカオスになりながら夜は深けていく。





 家族水入らずで過ごしなよ、とアルフィーは帰っていった。

 そんなわけでエラは家族と食事に来たが。

「パパより頭がいい人がいいのか…」

「そういうつもりはないけど、頭はいいに越した事はないでしょ」

「あんなヒョロヒョロがいいのか…」

「アルフィーはヒョロヒョロじゃないわよ」

「ちゃんとエラを守ってくれるような奴じゃないと認めんぞ!」

「…スリから守ってくれたけど」

「ぐぬ!?…じ、じゃあ魔法はどうだ!?」

「アルフィーは魔術科。神秘魔法も使いこなしてるわよ」

「し、しかし、あのくらいだと女の子の扱いなんて雑……」

「雑じゃない」

 まあ父がうざい。ずっと彼氏なんか認めないとあれこれいちゃもんを付けている。

 それを一つ一つ言い返していると、何だかアルフィーに弱点が無いみたいだ。

 というか、当たり前に言い返していて気が付かなかったが、言い返せば言い返すほどアルフィーの事を好きみたいで恥ずかしいからやめて欲しい。

 別に頭がいいから好きなわけでも、父のような筋肉達磨じゃないから好きなわけでもないのに、何だろう、この拷問。

「いいなぁ、お姉ちゃん。私も彼氏欲しい」

「…それっぽいのいなかったっけ?」

「トーマスの事?合わなかったのよねぇ」

 対して妹のレーナはずっと興味津々で恋バナばかり振ってくる。恥ずかしいし、うっかりアルフィーの秘密を暴露しそうだからやめてほしい。母は苦笑しながら聞いているだけだ。

 家族に会えたのは嬉しいが帰りたい。

「ねえねえ、それより!スリから守ってもらったって何?」

「え?…何ってそのままだけど…スリに遭いかけたんだけど、アルフィーが気づいて追い払ってくれたのよ」

「スリって気がつくものなの?」

「観光客のフリして近づかれたのよ。地図を見せて、ここに行きたいんだけど、って。でも二人組のスリだったみたいで、その人に気を取られているうちにもう一人が盗むっていう手口だったみたい。アルフィーが気が付いて、盗まれる前に追い払ってくれたの。そういう手口があるのを知ってたのと、今時スマホで目的地まで行けるのに、わざわざ地図持ってたせいでおかしいって思ったみたいね」

 正直言うと、あの時の事をあまりエラは覚えていない。何だか知らない間にアルフィーがスリを追い払い、エラは怖くて震えていただけだ。

 ただ、震えるエラの手をアルフィーがずっと握って慰めていてくれた事は鮮明に覚えている。

 ああいう所がアルフィーが優しいと思う所以だろう。怯えるエラの横でスリに罵詈雑言を吐く事もなく、そんなエラを置いて追いかけたりもせず、エラの恐怖に寄り添ってくれる。

 隣りにいる人の心情に寄り添える所がアルフィーのいい所だ。

「何それ、頭いい。私だったら今時地図?アプリ使ってよ、とは思うかもしれないけど、スリには気がつかずに盗まれてるわ」

「私もアルフィーいなかったら盗まれてた」

「うう…さっきから聞きたく無い話ばかり…」

「ねえねえお姉ちゃん、冬から付き合ってたんでしょ?」

「冬から!?パパ聞いてない!」

「お父さんうるさい!花の日は?花の日は何かもらった?」

「う、うん…魔石入れ…」

「魔石入れ?何それ」

「魔石を入れるものよ。ネックレスとかピアスとかブレスレットとかチャームとか…形は色々あるけど」

「うっわぁー、お姉ちゃんの事よく分かってる。お姉ちゃん、魔石関係なら何でも好きだもんねぇ。で?で?どんな魔石入れ貰ったの?」

「…秘密」

「ええええええ。教えてよー!」

 若干馬鹿にされている気がするが、会話が気恥ずかしいから段々面倒くさくなってきた。アルフィーとの恋愛事情ばかり聞かないで欲しい。アルフィー自身の特殊な事情を除けば、至って普通の恋愛しかしていないのに。

 ………そのはずよね?

 うっかり去年のオータムフェスティバルやら、ヨルクドンの帰りの件などを思い出したが、特殊な事情に分類して勝手に納得する。

 何とか憂鬱になってしまった夕食を食べて、父の車に乗りエラはアパートに帰ってきた。

「金輪際、サプライズ禁止!」

 そう最後に家族に言い渡して。





「行け行け行け!」

 隠れ家が見つかった。

 不当な王に従う警察が迫ってくる。

 彼は必死に逃げた。背後ではドンドンと銃の発砲音が響いており、近くで彼を守っていた男が短い悲鳴を上げて倒れる。

 捕まってなるものか。

 私達は、不当な王を排除し、ティモシー王の正当な子孫を王としなければならないのだから。

 彼は味方を犠牲にしながら警察から逃げ延びた。

 味方の犠牲は必要なものだった。彼らの大義のために。

 そうして彼はーー数人の仲間と共に消えた。





 その日、北部解放戦線に警察の捜査の手が入ったとニュースになった。


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