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ホームパーティー 1

 二人の交際は順調だった。喧嘩もしたけれど、それは恋人としての絆も深めていったとも言える。

 花の日から五ヶ月、長期休暇中のアルフィーは一ヶ月ぶりにフランマにやってきた。

 というのも、珍しく母が二週間の長期休暇をもぎ取り、それに合わせて父も休みを作り、親子三人で国内旅行に行ってきたからだ。

 母の警備に振り回されていたマテウス以下護衛官達は大変だっただろうが、家族三人で旅行なんて数年ぶりだったので、魔法館へ行って父と勉強したり、母に付き合って外でランチを食べたりと楽しんだ。

 二週間の旅行が終わると母は公務が入っていたし、父も仕事があるので二人はストーナプトンに戻ったが、入れ違いに母方の祖父母が休みに入って避暑地にある王家の別荘に行ったので、その祖父達に会いがてらコーリーの父方の祖父にも会いに行っていた。

 とりあえず、お土産渡しがてら報告にフランマにやってきたアルフィーはいつも通りフランマの扉を開けた。

 いつもなら、レジカウンターにエラかルークが店番をしている。ごく稀にシンディの事もあるが、基本的には魔石工師弟のどちらかで、いつもまるで家に帰ってきたかのように自然と迎えてくれる。

 けれど、その日は違った。

「こんにちーーー」

「アルフィー!!」

「うっわ!?」

 ドアを開けた瞬間、エラが飛びついてきたのだ。首元を飾る魔石入れのネックレスもエラの動きに合わせて跳ねる。

 珍しく、というか初めての行動にアルフィーも驚いて仰反るが、抱きついてきたエラを受け止めはした。

 アルフィーに抱きついてきたエラは、満面の笑みを見せながらアルフィーからすぐ離れると、手にしていたスマホを見せた。

「見て!レーナがこっちの大学合格したの!」

「え?」

「ほら!サリヴァン女子大学!だから秋からこっちに住むんだって!わー嬉しい!レーナがこっちに来るなんて…あの子、ずっと都会に行きたいからって勉強頑張ってたの!お父さんが女子大以外認めないって意味分かんない事言うから、大学のレベル上げて猛勉強して合格したんだから!」

 弾んだ声で教えてくれるエラにアルフィーは目を瞬かせた。

 ちなみに、工房からルークも顔を出しているが呆れて物も言えない、と顔に書いてある。

「こらエラ。嬉しいのは分かったから店番しろ、店番」

「すみません、でも本当に嬉しくて…!」

 よほど嬉しいのかエラはずっとにやにやとスマホの画面を眺めている。

 そういえばエラと妹のレーナは三つ歳が離れているらしいから今年大学入学なのか。

 よかったね、とエラに声をかけてからアルフィーはルークに持ってきたお土産を渡した。

「何だ?」

「旅行のお土産です。よかったらどうぞ」

「毎回律儀だな、お前さんも」

「二階を使わせてもらってますから。エラにもあるよ、はい」

「ありがとう。私も後で渡すね」

「俺は悪いがないぞ。今年はそんな暇が無くてな…すまん」

 何故か謝るルークにエラと二人で首を振る。せっかくの夏期休暇だったが、ルークとシンディは身内が入院して身の回りの世話を引き受けていたため休暇が潰れたのだ。だからお土産はないし、アルフィー達だって元々強請るつもりもない。

 仕事の邪魔にならないように二階に移動したアルフィーは、初めてルークに魔法について相談された。持ち込まれたオーダーメイドの依頼に相応しい魔法は分かっているし、何に使うのかも聞いたが、持ち込まれた依頼の魔法が攻撃魔法の部類なので人への攻撃に使わないか心配らしい。

 が、魔法を聞いたアルフィーはすぐに動物への罠だと気がついた。

 確かに人に向かって使えば害になる魔法ではあるが、この魔法を使うのは害獣対策が多い。

 本来なら叱られるが、依頼者についても教えてもらい、大きな農場の主だということなので、ほぼ間違いなく害獣の罠として使うのだろう。

 持ち込まれた依頼が真っ当な依頼だと分かり、ルークはほっとしていた。

 それからは二階で店が閉まるまで勉強して待った。

 店が閉まるとルークと別れて、エラと一緒に彼女のアパートへ向かう。

 アルフィーは魔法を使って盗み聞きができなくしてからやっとエラに報告したい事を告げた。

「エラ、春に会った俺の従妹覚えてる?ハンナって俺が喧嘩した従妹」

「覚えてるわ。金髪の女の子よね?」

「そう。あいつが今度また来るんだよ。大学見学に来るんだってさ」

 コブランフィールドにはアルフィーの通うコブランカレッジや、エラの妹が通う予定のサリヴァン女子大学の他にもいくつか大学がある。

 ハンナは一応、エラの妹と同じサリヴァン女子大学を見学に来るらしいが、ちょっとコブランカレッジも覗いてみたいらしく案内を頼まれた。

 まあそれはいい。カレッジ内の案内くらいできる。

 問題は。

「で、エラに一個頼みたいんだけど…」

「なぁに?」

 可愛らしく首を傾げながら仰ぎ見てくる恋人に、アルフィーは口を開くのを躊躇した。

 しかし、そろそろせっついてくる両親を押し留めるのも限界だ。

「…母さんに、会ってくれる?」

 ぴしり、とエラが一瞬固まったのをアルフィーは見逃さなかった。

 それはそうだろう。アルフィーにとっては母親以外の何者でもないが、エラにとっては自国の王女殿下だ。気が重いのは悲しいけれど理解できる。

 だからアルフィーは慌てて言い募った。

「無理にとは言わないよ。ただ、母さんも父さんもエラに会わせろ、ってうるさくて……ハンナが来る日は他にも来客があるらしくて庭でパーティーしようとしてるんだ。そこにエラも招待しろって言われてる」

 大きく目を見開いたままのエラが、無理!と叫ぶのを予想してアルフィーはついエラから目を逸らした。

 幼馴染のデイヴでさえ、母の王女という立場を理解してから一瞬とはいえ疎遠になったのだ。それはデイヴだけでなく、アルフィーを避けた当時の友人は何人もいてアルフィーは傷ついた。

 だから、エラまでそんな態度を取られたらーーー。

 その先を考えたくなくて、エラから目を逸らしたまま、アルフィーは歩きながら続けた。

「ほら、このピアス…魔石を作ってくれただろ?父さんなんか古代魔法に詳しいから興味深々だし、母さんも是非自分にも作って欲しいって言ってて…」

 違う、母の話題なんて出したら余計にエラが萎縮してしまう。

「マテウスも会ってみたいって言ってるし、なんか俺の周りの人がこぞってエラに会ってみたいらしくて。無理ならいいんだ。気が重たいだろ?無理ならそれで…」

 言いたい事が分からなくなりそうだったその時、エラがアルフィーの緊張で冷たくなった手を握った。

 驚いてエラの方をつい見ると、不安そうに眉を下げている。

「会う、のはいいんだけど…普段着しかないわよ?頭もよくないし、言葉遣いだって、その、お嬢様言葉じゃないし……本当に私なんかでいいの?私なんて、魔石に関する事くらいしか……きゃ……!」

 エラの後半の答えなんて聞いてなかった。

 否定の答えでないだけでよかった。

 人目も憚らず愛しい恋人を抱きしめると、エラが困惑しているのが伝わってきたが、胸が一杯になったアルフィーは構わず細い体を抱きしめる力を強くした。

 どうせ魔法で自分達の存在は分かりにくくしてあるし、人通りが少ない場所だというのはこの後でエラに責められるアルフィーの言い訳である。

「ちょ、アルフィー…」

「……ありがと、エラ」

「??…どうしたの……?」

「嬉しいだけだよ」

 本当にエラの答えが嬉しかった。

 今まで避けられてばかりだったから余計に。

 嬉しさと切なさで、エラを抱きしめる以外の行動が取れないくらいには感動していた。

 なかなか離そうとしないアルフィーに困惑しながらもエラがそろそろと背中に手を回す。

 しばらく二人はその場から動かなかった。




いいねや感想、ありがとうございます。励みになります。

間が開かないように投稿ってなかなか難しいですね。頑張ります。

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