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間話 アルフィーとデイヴ 2

 夕飯を食べてから映画が始まるまでの空き時間、エラが女ものしか置いてない服屋に行きたがったため、デイヴはアルフィーと近くのベンチに座ってエラを待つ事にした。

「デイヴは彼女は作らないのか?」

「俺にできると思ってんのか」

 間髪入れずに幼馴染の質問に返すと、幼馴染は「俺より早くできると思ってた」と返してきた。

「何で」

「歳は俺より上だろ?だから…何となく?」

「それだけかよ。……お前はエラと順調みたいだな」

 何気なく幼馴染に恋愛事情を返す。

 冬に付き合い始めたという報告を、デイヴは早いうちからアルフィーから知らされていた。

 アルフィーとは長い付き合いだし、オータムフェスティバルでエラにだけ違った顔を見せていたので好意を持っている事にはすぐ気がついた。収まるところに収まって良かったと本当に思う。アルフィーは人を信用する事に臆病な面があるから。

 エラも良い子だし、本当によかった。

 そう本気で思っているデイヴに、アルフィーが照れ臭そうに、でもどこか困ったような顔をした。

「おおむね順調、かな」

「あ?何かあるのか?」

「…母さんが早く会わせろってうるさい」

「ああ…おばさんか」

 それは会わせろと言われても会わせにくい。

 なんたってアルフィーの母はプリンセスだ。デイヴだって子供の頃から面識があるとはいえ、アルフィーの母親がどういう立場の人かを理解した時はどうしたらいいのか分からなくなった。

 あの時はどう接すればいいのか分からないまま、少しだけアルフィーを避けるようになり、それを敏感に察知したアルフィーがーーー自分の微妙な立ち位置を理解した頃だったのもあってーーー静かに荒れ始めた。

 デイヴにまで避けられて自暴自棄になったアルフィーは、誰かに当たり散らすという事はしなかったが、代わりに誰にも近づかなくなり、誰も寄せ付けなくなった。

 結局、デイヴがアルフィーを避けていたはずなのに、アルフィーに避けられ始めた事に気がついたデイヴが幼馴染の様子を心配し、家を訪ねたことでアルフィーとの仲が復活した。

 だから、アルフィーが母親にエラを会わせるのに難色を示すのも分かるつもりだ。

 子供だったとはいえ、幼馴染のデイヴでさえ一時的に疎遠になったのだ。大人とはいえ、エラがアルフィーを避ける可能性がないとは言い切れない。

 無責任に「エラなら大丈夫だろ」なんて言えない。

「会わせてもいい、って思えるようになるといいな」

 だからそう言った。

 そうしたらアルフィーがぽかんと間抜け顔になり、すぐにおかしそうに笑った。

「何でこれでデイヴに彼女ができないのか本当に謎」

「あ?」

「お前が良い奴だって事だよ」

 よく分からない。

「お待たせ!」

 アルフィーにどういう事だと尋ねる直前にエラが戻ってきた。

「おかえり。そろそろいい時間だし、行こうか」

「そうね。あ!デイヴ、デイヴはポップコーン買う派?買わない派?」

「え……買わない派」

「ええー…残念」

 しょんぼりエラが肩を落とすので、何だか悪い事をした気分になって慌ててデイヴは付け足す。

「飲み物は買う事もあるぞ」

「そんな所までアルフィーと一緒〜」

「…えっと」

 どうしていいか分からず、アルフィーに視線で助けを求めるとアルフィーは肩を竦めた。

「ちぇー…ポップコーン我慢する…」

「あれ、高いじゃないか」

「うるさい。私の映画館の醍醐味なの!」

「はいはい」

「…自分だけ買えばいいんじゃないのか?」

「なんかそれは嫌」

 謎な事を言うエラにデイヴが疑問符を飛ばすが、そのうち勝手にエラは納得したので、その話題は終わった。





 映画が終わってから二人でエラを家まで送ると、石っぽい妖精もエラに付いていき、二人に手を振るエラの肩の上で飛び跳ねていた。

 エラが家の中に入った事を確認してから、二人でストーナプトンに向かっていく。

 夜空には僅かに雲がかかっているが、二つの月が煌々と輝いているので明るい。

「明日には大学戻るんだよな?」

「ああ」

「またそっち遊びに行こうかなぁ」

「就活で忙しいから来んな」

「うわ……現実的な事を。希望する会社には入れそうなのか?」

「分からん。アルフィーは大学卒業したらどうするんだ?」

「んー……院に行ってもいいかなぁと最近思い始めてる」

「へえ」

「院に行った方が研究所への道が開けるからさ」

 ポツポツと会話をしながら公共交通機関を乗り継ぎ家へ向かう。

 お互いの家が近くなり、別れ道に差し掛かった頃、またあの茶色のもじゃもじゃがアルフィーの肩に現れた。

 どうしたのかと見ていると、もじゃもじゃ妖精はぴょーんと大きくジャンプしてアルフィーの肩から降り、近くの木によじ登っていった。風に吹かれて木が鳴ったような音がしたので、もしかしたらあの木がもじゃもじゃ妖精の家なのかもしれない。

「ブラウニーみたいな奴、そこの木が棲家みたいだ」

「ん?…ああ、夕方の妖精か。帰れたのならよかったよ」

「そうだな」

 普通に妖精について話して、デイヴは溜め息をついた。

「どうした?」

 目敏く気がついたアルフィーにデイヴは渋面で答える。

「お前がいると妖精の存在を普通に話しちまう。明日から気をつけないとと思っただけだ」

「何で皆信じないんだろうなぁ。デイヴに妖精が見える事」

「非科学的だからだろ」

「非科学的でも何でもいるものはいるんだけどなぁ。だいたい、まだ科学で説明付かない事だって沢山あるだろ」

 苦笑しつつ、本気で首を捻っているアルフィーの方が珍しいのだとデイヴは知っている。

 だからこの幼馴染の前では気を抜いてしまうのだけれど。

「じゃあまたな。帰ってきたら連絡しろよ」

「おう」

 お互いに軽く手を振って別れる。

 するとざあ、と水音が響き、アルフィーの背後の宙空に彼がモルガンと勝手に呼んでいる水の乙女が現れた。

《またね、デイヴィッド》

 彼女はそれだけ告げると踊るように身をくねらせて、アルフィーの後ろに付いていく。

 そしてアルフィーを護るようにその近くに浮遊しながらくるくると回っている。

 ーーー人間の言葉で言うなら、ああいう妖精をフェアリー・ゴッド・マザーと言うのだろう。あの水の乙女はずっとアルフィーに付いているのだから。

 ちなみに、アルフィーの家には最初にデイヴがアルフィーが食われると勘違いした水の馬も住み着いているし、居心地がいいのか他にも沢山の小さなの妖精もいるし、母親も好かれる質らしく母親にも花弁の妖精が付いている。

 あそこの家に遊びに行って妖精達を見かけない日はない。この都会であれだけ妖精がいる家は珍しい。

 同じくらいデイヴに理解を示してくれる人は珍しく、だからこそ大切な幼馴染なのだ。

 大人になるに連れて子供の頃のように頻繁に会う事はなくなったが、大事にしたい関係だと強く思った。






 家でベッドに寝転がったアルフィーは一つ欠伸をすると、自室の窓から見えるニワトコの木を見つめた。

 デイヴによるとあのニワトコの下によく水の馬がいるらしい。

 見てみたいなぁ、と子供の頃から思っているが、どうにもそういう才能がないので、アルフィーは妖精を見た事がない。

 でも本当に見てみたいと思っているからデイヴが羨ましいし、モルガンや水の馬、今日の茶色のもじゃもじゃなど、彼から伝えられた姿を想像する事も多い。

 デイヴから聞く妖精達の姿は、絵画にあるような羽を背負っていたり、小さな小人だったりはしない。自然物がそのまま動いたり、人や動物なんかを形作っている事が多いように思う。

 …だから初めてエラを見た時、本当に妖精かと思ったんだけどさ…。

 夜空のように真っ黒なのに、光に当たると青く光る髪に彩られた妖精の月の瞳ーーーまるで夜が抜け出してきたかのような錯覚を覚えて、夜の妖精かと思ったのだ。

 まあ、完全な勘違いで人間だったわけだが。

 それにしても、全くもってデイヴと自分は似ている。

『お前がいると妖精の存在を普通に話しちまう。明日から気をつけないとと思っただけだ』

 そう言った先ほどのデイヴを思い出して、アルフィーは苦笑を禁じ得なかった。

 アルフィーもデイヴも人を信用する事が苦手だ。

 アルフィーはその出自から自分や親族を狙われるから危険を少しでも遠ざける為に人を完全に信用する事ができない。

 デイヴも妖精が見える能力を人に話したりしない。大抵は馬鹿にされたり、嘘だと言われたり、頭がおかしい奴だと思われるからだ。

 妖精を信じているアルフィーからすると信じられないが、エラや自分のように言ったそばから信じてくれる人は珍しいらしく、デイヴの能力を知っている人間はごく僅かだ。

 その僅かな範疇に自分もエラもいるが、二人とも簡単に人を信用できない難儀な人種だと改めて思った。

 珍しくデイヴがすぐエラを信用していたのは、アルフィーの信用する人間だからだろうか。最初に能力を教えたのは完全な事故だろうが、エラがすんなり受け入れたから彼女の前でも妖精の話をしていた。

 ……ちょっと狭量な事を言っていいならば、デイヴにエラを奪われないかが心配だ。デイヴはお人好しで優しいし、彼の良い所は身内にほどよく発揮されるから。

 こんな事を言うと二人に嫌われそうだから言わないが、二人で映画の話をしていると少しだけ嫉妬してしまうのだ。

 でも、大切な二人が仲良くしているのも嬉しい。

「また三人で遊べるといいなぁ」

 なかなか時間が合わないし、エラとデイヴが仲良くしていると嫉妬に駆られるから心が忙しいのだけれど、気兼ねなく遊べる相手だから。

 アルフィーはまた欠伸を一つすると、部屋の電気を消した。




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