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魔石工房フランマ 4

「というか、あなた、今日は何をしに来たのよ」

 目の前の青年が金持ちだという衝撃が消えてからエラはアルフィーに首を傾げた。もう彼は氷の魔石を買ったから特にこの店に用事はないはずだ。

「魔石に興味があってね。俺、今まで魔法で解決してきたから」

「コブランカレッジの魔術科に通うくらいなんだから、そうなんでしょうね」

 基本的に魔法使いは魔石を必要としない。熟練した魔法使いは魔石に頼らなくても自力で色んな魔法が使えるからだ。アルフィーも同じだろう。

 魔法は学問だ。誰もが操れるものではあるが、達人の域まで達しようなんて思う人はなかなかいない。生活に必要な分が使えればいい、そういう人は魔石を必要とするから魔石工がいる。

「でも、アルフィーなら魔石なんていらないでしょう?」

「まあ必要ではないね。暑ければ自分で氷魔法を使うし、寒ければ炎の魔法を使えばいい。でも、自分で使った事がないからこそ興味が出た。俺の周りは魔法使いばかりだから魔石なんて使った事がなかったんだよね」

 一切触れて来なかったからこその興味らしい。

「でも魔石って結構面倒みたいだね。魔力送って魔法が一つできるようにするだけかと思ってたけど、発動条件を付けなきゃいけないんだね」

「ええ、そうよ」

 魔石の話ならいくらでもできる。エラはアルフィーに魔石工としての説明をした。

「魔法を込める事はもちろん難しいけど、何より難しいのは発動条件なの。一般的に出回ってる魔石ならある程度どういう発動条件がいいのか分かるけど、うちの店みたいにオーダーメイドの魔石を作ってる所は世の中に出回っていない魔石を作る事もあるから、ちゃんと魔石が発動するように条件を考えなければならない」

「発動条件がめちゃくちゃなら?」

「魔法が常時発動しっぱなしか、発動しないか、または予期せぬ時に発動してしまうわね」

「へえ、でも考えてみればそうだよな。俺が防御魔法使う時は防御が必要な時だけど、石にいつ防御が必要かなんて判断できるわけないもんな。物語みたいに都合の良い時だけ発動する魔石なんてないわけか」

「ええ、そう」

 コブランカレッジに通う学生に教えるって変な感じ。目の前のアルフィーは自分より確実に頭がいいのに。

「ねえ、コブランカレッジってどんな感じなの?」

 そんな質問が口を突いて出た。単純に国内最高峰大学への興味と、通った事のない大学への憧れだ。

 別に魔石工として高卒で働いている事に後悔はしていない。まだ今は夢の途中。

 でも必要ないと切り捨ててきたものに未練が無いわけでもない。友達の中には大学へ行った子もいる。全く未練も興味もないと言えるほどエラは割り切ってはない。

 そんな憧れと未練と興味が入り混じった質問だった。

 しかし、アルフィーの答えはエラの斜め上を行った。

「興味あるなら来る?」

「は?」

「カレッジ。別に入れるよ」

 入れるの!?と大学への知識が無いエラは驚愕する。だって普通学校って、授業中は門を閉めてないか?関係者以外立ち入り禁止なんじゃないの?

 エラの無言の驚愕を読み取ったのかアルフィーがくすくす笑う。何か馬鹿にされたみたいで面白くない。

 が、アルフィーはお構い無しに「いつ行く?」と聞いてくる。もう彼の中でエラの大学訪問は決定事項らしい。

 しかし、エラも働いているため予定はある。

「ありがたい申し出だけど、明日からしばらくは無理よ」

「何で?」

「明日から魔石の月光干しをしなきゃいけないの。この店に泊まり込むから昼間は家で寝るわ」

 少なくとも十日間、エラは店に泊まり込む。天気が良ければ暇だが、途中から雨が降りそうな日や雲が多い日は月光干しのタイミングを見極めなければならない。空き時間には天然石の勉強もするし。

 だからしばらくエラの体は昼間は空いてない。

「この店に泊まり込むって……え、店長さんってここに住んでないよね?」

「当たり前でしょ。表が店で裏が工房。二階は物置と泊まり込む時用」

 何を当然の事を、とエラは答える。アルフィーが思わず確認した真意には気付かない。

「だよね。……月光干しって魔石を妖精の月に十日間くらい当てるんだっけ?」

「そうよ」

 おお。さすがコブランカレッジに通う学生。魔石の工程を知っているらしい。

「どこでするの?」

「屋上」

 あっさりそう告げると、アルフィーが目をぱちぱちさせる。変な事は何も言ってないんだが。

「……一人で?」

「当たり前じゃない。見習いがまずできるようになるのは日光干しと月光干しよ。何の技術もいらないもの」

 エラがこの工房に来て初めてやった作業はそれだ。それでも最初の頃は油断して雨に濡らしたり、寝こけた間に雪が降ったりしてやり直し作業をした。

 晴れていれば何もしないし、曇ったり雨が降ってくれば石を屋内に入れるだけという地味な作業だが、魔石の出来にも関わるとても大事な作業だ。

「石の中の魔力が感じ取れるようになると楽しいのよ?日光に当てた魔力が育って、妖精の月に当てると魔力が安定するのが手に取るように分かるから」

 最近やっと分かるようになってきた石の変化を思い出して、エラはほんの少し頬を緩めた。



一話ってどのくらいの長さがいいんだろうか。そんな所も手探りです。

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