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花の日 4

 ヨルクドンに連れて行ってもらった車に乗り二十分もした頃、小洒落たレストランに連れて来られた。

 思いっきり普段着のエラは、レストランの見た目からドレスコードがあるのでは!?と慌てたが、アルフィーの「俺も普段着でしょ」というツッコミに、エラならともかくアルフィーがそんな間違いや下調べもせずに来ることはないかと一人慌てた自分を恥ずかしく思った。

「本当はもっと上級のレストランに連れて行けたら格好がつくんだろうけど、さすがに俺のバイト料じゃ無理」

 苦笑するアルフィーにエラは慌てて首を振る。

「身の丈に合った場所の方が好きだから、突然高級な所に連れていかれても困る…」

「そう言ってくれるエラで良かったよ。ーーーとりあえず、エスコートだけならそれなりに自信あるから格好付けさせてくれる?」

 す、と差し出されたアルフィーの手を見つめてから、エラは頬を赤らめた。アルフィーは楽しそうに笑っている。

 何でわざわざ聞くのよ。逆に緊張しちゃうじゃない。

 というか『それなりの自信』じゃなくて『絶対』じゃないだろうか。なんせ王族が習うのと同じものを習っているんだから。

 普通に手を繋いでくれた方が気が楽なんだけどなぁ、と思いつつ、差し出された手にそっと手を重ねる。

「…よろしくお願いします」

 観念して呟くと、楽しそうにアルフィーがエスコートをしながら店の中へ案内してくれた。

 店の中はレトロモダンというのだろうか、古風に見えるが普通に現代風のカジュアルレストランで、確かに店の客層や服装見るとドレスコードなど必要ない店だった。

 アルフィーは予め予約をしていたらしく、すぐに二人はテーブルに通された。

 料理もコースを注文済みらしく、エラが何もしなくてもいいようになっている。

「お酒飲みたかったら飲んでもいいよ」

 それが唯一の選択だったが、エラは首を横に振った。

「酔っ払うからやめとく」

 記憶が無くなるほど飲んだ事ないが、折角のデートらしいデートだから覚えておきたい。

 運ばれてきた料理はどれも美味しく、二人は楽しくおしゃべりをしながら舌鼓を打った。

 デザートを食べ終わる頃にはいい感じの満腹加減で、美味しいものを食べられて幸せな気分だ。

 さすがに今日の会計はアルフィーに任せるくらいの常識はエラにもあった。少しだけ食事代を払わせてしまった罪悪感があったが、今日くらいアルフィーが格好付けたい気持ちも分かるので財布を出したい気持ちを抑えつける。

 車に戻ってしまえば、もうデートも終わりだなと少し残念に思った。

「この後は何かしたい事ある?」

 したい事はある。

「何も予定がなかったら、うちに寄ってかない?」

「エラの部屋?」

「ちょっと渡したいものがあるの」

 少しばかり曖昧に答えると、アルフィーが車を発進させながら「渡したい物って何?」と尋ねてくるものだから、エラは何となく秘密にしたくて「秘密」と繰り返した。

 アパートに着くと、二人でエラの部屋に入った。

「お邪魔します」

「どうぞー。お茶淹れるから待ってて」

 ソファーを指差してアルフィーを座るよう促し、エラはポットでお湯を沸かしつつ、冷蔵庫からアップルパイを取り出した。

 三日前に渡したアップルパイは少しレモンが強すぎたので、また作り直したのだ。

 アップルパイを切り分けて、軽く電子レンジで温め始めた頃にポットのお湯が沸いたので、ティーバッグの紅茶とドリップコーヒーを淹れる。

 それを手に持ってローテーブルに載せるとアルフィーが目を瞬いた。

「コーヒー?買ったの?」

「うん。アルフィー、紅茶よりコーヒー派でしょ?買っておいたの」

 私は苦くて飲めないけど、と続けて呟いてアルフィーを見ると、何故かアルフィーが照れ臭そうにしている。

「どうかした?」

「あー…いや、こうやって少しずつ俺のものが増えてくのかな、って」

 言われて気が付いたエラは頬を赤らめそうになるのを必死に耐えた。

 言われてみれば、アルフィーの事がなければ絶対に買わなかった。エラはブラックコーヒーを飲まないので、わざわざ買ったりしない。

 気恥ずかしくってエラはわざと話題を変えた。

「…アップルパイ作り直したけど、食べる?」

「作り直した?」

「この前あげたアップルパイ、ちょっと酸っぱかったでしょう?レモン入れ過ぎたから、今度は少なめにして作り直したの」

 アルフィーにあげてから、自分用に作っておいたアップルパイを食べたら甘いというよりは甘酸っぱい感じだったので、もう一度作り直したのだ。

 今回は先に食べたので大丈夫だ。

「あれはあれで美味しかったよ」

「そう?でも私は不完全燃焼だったのよ。だからリベンジしたの。今度は美味しいわ」

 アップルパイを持ってくると、アルフィーの目が気持ち輝いたように見える。

 本当に好きなんだなぁ、と思いながら出すと、アルフィーはすぐに手をつけた。

 もぐもぐと口が動くのを見つつ、自分の紅茶に息を吹きかけて冷ます。陶器越しの温かさで指先の冷えが緩和される。

 ごくん、とアルフィーがアップルパイを飲み込んだ。

「美味しい」

「よかったぁー」

 今度は自信があったが、やはり美味しいと言ってもらえるとホッとする。

「性懲りも無くまたワンホール作っちゃったから良かったら持っていって」

「いいの?」

「もちろん」

「やった。ありがとう、エラ」

 アルフィーが嬉しそうにしてくれるので、エラとしても嬉しい。

 そうだ。あれも渡さなくちゃ。

 まだ紅茶が冷めないので、エラは一度席を立って棚の上に置いていたプレゼントを取り上げるとアルフィーの隣りに戻り、同じソファーに腰を下ろした。

「はいどうぞ」

「何これ」

「今日に間に合わせたくて頑張ったの。花の日に男の人に贈るのも変かもしれないけど」

 はい、と小さな箱を差し出すと、アルフィーが礼を言って受け取った。

 ちょっとドキドキしながらアルフィーが箱を開けるのを見ていると、箱を開けたアルフィーが目を瞬いた。

 そこにあるのは片方だけの黒水晶の六角柱がついたピアスだ。

「ピアス?じゃあこれは魔石?」

「正解。片方だけなのは察して」

 小さく笑ってエラは魔石の説明をした。

「アルフィーは魔法得意だから、あんまり意味無いかもしれないけど、破邪退魔の魔法を込めた魔石で……」

「破邪退魔!?」

 説明しようとしたらアルフィーが出した大声にエラが驚いて思わず口の動きが止まった。

 ぱちくりと瞬きをしてアルフィーの様子に不安になる。

 魔法の中には国が禁止している魔法がある。あとちゃんと許可を持っている人しか使えない魔法とか。そういう魔法を勝手に使えばもちろん罰せられるわけで。

 ちゃんと調べたつもりだったが、もしかしてエラが使ってはいけない魔法だっただろうか。

「…もしかして何か問題ある魔法だった?」

「い、いや、問題ないよ。単純に驚いただけ……」

「?」

 明らかに様子のおかしいアルフィーを不思議に思いつつも、エラは説明の続きを口にした。

「図書館で調べた本に載ってたの。防御とか魔法無効化とか、呪詛返しとか、そういうの全て包括した古い魔法なんでしょう?」

「そうだけど………」

 アルフィーの返答に安堵する。よかった。間違ってはいなかったようだ。

 結局、ルークの蔵書の中にも目ぼしい物がなくて、休日に図書館に出向いて魔法書をひたすら漁った甲斐があった。

「これ、作るの大変だったんじゃない?」

「めっちゃくちゃ大変だった!」

 気遣わしげなアルフィーに、エラは力一杯頷いた。

「だってその魔法、魔法陣は複雑だし、呪文は長いし、もう魔法陣を読み解くだけで五日もかかっちゃったわ。しかも魔法陣の付与も初めてだし、なんとか魔法陣を付与できたと思ったら呪文を書き込むだけの魔力足りないし。練習用の石散々無駄にして、やーっとフランマの石だと小さいから今の私の技量だとどんなに頑張っても付与できないって気づいてさ。自分で大きめの石買って練習したんだけど本当に失敗しかしないの!もーこの二ヶ月、何回挫折しそうになったことか!ことごとく失敗して、それがほぼ唯一成功した魔石なの。といっても三回も使ったらダメになると思うけど」

 そこまで言ってエラは溜め息をついた。

「…ごめん、その魔石が今の私が作れる精一杯の魔石。本当は店長みたいにそう簡単にダメにならない魔石が作れたらいいんだけど、まだ私には作れないから…」

 しょんぼりと肩を落とす。ルークなら三回使ったらただの石になる魔石なんて作らない。ついでに言うとあんなに大きな石にもならないだろう。

 まだ見習いの自分が師匠ほどできないのは当たり前だが、やはり落ち込む。

「エラ、三回も使えるって言った?」

 アルフィーの問い掛けにエラは俯けていた顔を上げた。

 そこにはピアスを摘み上げて、真剣にエラを見つめるアルフィーがいて、エラはよく意味が分からず頷いた。

「三回か…下手したら一回かも…」

「ちょっとごめん、尋問みたいになるけど、これってどんな条件付けてあるの?」

 面食らったエラだが、どうやら叱られるらしいと分かれば声が小さくなる。喜んでもらおうと頑張ったが、逆効果だったらしい。

「本来はその魔法陣の中にいるか、守る物の中心に魔法陣を置かないといけないんでしょう?でも魔石だと無理だから、魔力を流し込んだ人を守るようにしてる……発動条件は特に作ってない。この魔法って外からの武器や魔法の攻撃にのみ反応するってあったから」

「対象が人って事だよね。エラ、そんな事できるの?」

「?そんな事っていうか……古い魔法陣って、魔法陣の中心に物があればそれが魔法対象になるんでしょう?だから、魔法陣を必要とする魔石を作る時は流し込まれた魔力が魔法陣の中心に行くように回路を作ってるの。そうしたら流し込まれた魔力が魔法陣の対象になるから、その魔力の持ち主が対象になるようにするんだけど……えっと、意味分かる?」

 不安になって尋ねると、分かるよ、とアルフィーが頷いた。

 魔力はDNAなんかと同じで個人によって全く違う。その魔力を魔法陣の真ん中に置く事で、同じ魔力を持つ人間に対する魔法になるのだ。

 これがあれば、少しくらいアルフィーが油断しても不意打ちから身を守る事ができるだろうかと考えていたのに、どうやら駄目らしい。

 何を叱られるのだろう、と少し身構えながらぼそぼそと言い訳を並べる。

「その、少しくらい役に立てるかな、って思って作ったの…。そういう魔法があれば、少しくらいアルフィーが安心できるかなって…でも迷惑だったみたいね。…ごめん……」

「え、ちょ、待って待って待って」

 肩を落とすエラを慌ててアルフィーが止めた。

「俺がこの魔石を迷惑に思ってるとか考えてる?そんなわけないよ!」

 驚いてエラが目を瞬くと、次の瞬間、アルフィーに抱きつかれた。

「わ……っ…」

「この魔石すごいよ!ありがとう、エラ!」

 珍しく喜びを全身で表現するアルフィーに目を白黒させつつも、どうやら叱られると思ったのは自分の早とちりらしいと気がつく。

「エラ、破邪退魔の魔法が何に使われてるか知らないでしょ?」

 体を離して顔を覗き込んでくるアルフィーに戸惑いつつも頷くと、やっぱり、と彼は笑った。

「この魔法、王宮とか国会議事堂とか、軍本部とか、国の重要機関に使われるほどの防御魔法なんだよ。現存する防御系の魔法で最強だと言ってもいい。それをこの小ささで再現してなおかつ人を対象にできるんだからすごいよ。たぶん、こんなの作れる魔石工がいるなんて知ったら王宮やら軍やらがこぞって飛びつくんじゃないかな」

 エラはまた目を瞬いた。そんなに凄い魔法なのだろうか。ちょっと規模が大き過ぎてびっくりする。

「で、でも三回使えるか使えないかって魔石よ?」

「破邪退魔の魔法は一度魔力を込めれば数年保つよ。王宮の破邪退魔の魔法は二年に一回、魔術師数人がかりで張り直されてるから、それくらい保つんじゃないかな」

「二年…」

 エラは呆然と復唱する。確かに魔法陣の中に長期的な魔法の意味があるトネリコの芽が描かれていたが、そんなに保つのか。せいぜい数ヶ月だと思っていた。

 王宮が数人がかりなのは、単純に王宮が大きくて王宮全体を包むような大きさの魔法にするのに多くの魔力を必要とするからだろう。

「魔法だから絶対じゃないけど、それでもこれがあるのと無いのじゃ、安心度が違うよ。ありがとう、エラ」

 礼と同時にコツ、と額が重なる。

 どうやら喜んでもらえたらしい、と分かってエラもやっと笑えた。

 ただ、その微笑みはすぐに消えた。

 互いの鼻先が戯れるように触れ合ったからだ。

 あ、と思った。

 至近距離で自分と同じ妖精の月の瞳と視線が合う。その視線にいつもの優しさとは別に、緊張と熱が宿っている事に気がついてしまい、頬に熱が集まってくる。

 その先の予感にほんの少し緊張したけれど、嫌な感じは一切しなくて、エラはそっと顎を上げた。

 不器用に、けれど確かな恋情を伴って唇が触れる。

 触れるだけの優しいキスは数秒触れ合って、すぐに離れた。

 恥ずかしくて顔を伏せてしまったエラに、またコツ、とアルフィーが額を合わせてきた。

「好きだよ、エラ」

 いつもよりずっと優しい声音で、囁くように告げられた想いにじんわりと胸が温かくなる。

「…私も好き」

 恥ずかしくて顔は上げられなかったけれど、同じように恋を囁くと嬉しそうにアルフィーが笑った。

 その笑い声に釣られてほんの少し視線を上げると、さっきより気持ち強引に唇を奪われる。

 思わず腰が引けてしまうが、エラが身を引くより先に腰に腕を回されてキスを受け入れるしかなくなった。

 抱きしめられながらキスを繰り返しているうちに、思考が蕩けていく。何を考えたらいいのか分からない。

 長いような短いようなキスが終わってから、赤らんだ顔でぼんやりアルフィーを見ると彼もほんのり頬を赤くしながら笑った。

 その笑顔が幼い少年のようで、胸がきゅう、と切なくなる。

「エラのこと、夜の妖精って俺が言ったの覚えてる?」

 エラに腕を回したまま、唐突にアルフィーが尋ねてきた。

 蕩けていた思考が質問のおかげで正常さを取り戻し、当時を思い出してエラは少し笑った。

「覚えてる。なんだこいつ、って思った」

 初対面で妖精とか言われて、なんだこいつ、以外の感想なんかないだろう。

 この国では妖精は愛すべき存在で、妖精に喩えられる事は褒め言葉に値するが、さすがに初対面で言われたら嬉しいなんて思わない。

「大体、夜の妖精って何?聞いた事ないけど」

「妖精の月の瞳だし、エラの黒髪が光に当たって青く光るから、瞬間的にそう思ったんだよ。一瞬、デイヴみたいに妖精が見れるようになったのかと思ったくらいだから」

 髪を一房、取られる。

 確かにエラの黒髪は真っ黒過ぎて青く光る。ラピス国内でも黒髪はいるが、青く光るのは珍しい、と行きつけの美容師にも言われた。家系図なんて物がないから分からないが、もしかしたら別の地域の血でも入っているのかもしれない。東の方の国ではたまにいるらしい。

 エラの髪を一度だけ梳いて、アルフィーが手を離す。

「でも今は心底エラが普通の女の子で良かったって思ってるよ」

「どうして?」

「妖精の女の子だったら、人間の男の元から去るのが定番だろ?」

 確かに。

 思わず納得してしまったエラだが、いや人間の女でも愛想尽かせば去る…なんて意地悪な事を考えた。口には出さなかったけれど。

 アルフィーがエラを腕の中から解放して、エラが名残惜しく思う一瞬の後に、そっと手を握った。

「俺のせいで危ない目に遭わせるかもしれない。でも絶対に守るから」

 そんなに心配しなくても、と思わなくもないが、エラには分からない苦労がアルフィーにはあるのだろう。

 でもできれば守られるだけなんて嫌だ。頭脳も魔法の腕もアルフィーには敵わないけれど、一方的に守られてアルフィーの負担を増やしたくはない。

「私も足引っ張んないようにするね」

 今はアルフィーの出自を秘密にするくらいしかできないけれど、エラだってアルフィーを守りたい。

 手を握り返して伝えると、アルフィーが苦笑した。

「足引っ張るどころか、俺も負けてられないんだけど」

「え?」

「破邪退魔の魔石を作ってもらったから。この魔法、外からの攻撃には本当に強いんだよ」

 片方だけのピアスを左耳に付けて、アルフィーが魔力を込めた。

 しかし、途端にアルフィーが眉を顰める。

「う、わ。これ結構魔力使う…」

「あ、そう。私、試作品でぶっ倒れた」

「何やってんの…倒れるって魔力使い果たしてるじゃん…」

「うん、魔法で魔力使い果たしたの初めてだからびっくりした。休みの日で良かったわ。翌日もふらふらだったもの」

「いや、本当に何やってんの?……でも理解した。この魔法は魔石には不向きだ……一般人なら発動する前に魔力使い果たして倒れる……」

 魔力を込めただけで疲れ切ったアルフィーが力なく言う。

 そうなのだ。この魔法、強力過ぎておそらく基本的には魔術師しか使えない。生まれ持ったままの魔力では扱えない魔法なのだ。スポーツ選手が鍛えて体力があるように、魔術師も魔法を繰り返し使う事で魔力が多くなっていくので、こんな強力な魔法が使えるのだろう。

 しかし、アルフィーでもふらふらになるとは。

 王族は魔力量が遺伝的に多いというし、更にアルフィーはコブランカレッジの魔術科で確実に魔力量は多いだろうから、もう少し平気そうな顔をするかと思ったが、そうでもなかったらしい。

 ちなみにエラは魔力を込める途中で、根こそぎ魔力を奪われると本能的に察知して魔石を離したため、倒れただけで済んだ。そうでなければ昏倒していただろう。

 試作を使ってみなければアルフィーにあげられないため、エラはしばらく魔力をどう調達するか悩んだほどだ。

 最終的に自分ではどうにもできなかったため、エラは悩んだあげく、魔力量の多そうなエレノアに頼んだ。

 新しい商品にならないか試しに作った魔石の実験台になって欲しい、と嘘をついて呼び出したエレノアは快く引き受けてくれたものの、ごっそり魔力を持っていかれてふらふらだった。

 ちなみに石を投げたり、攻撃魔法としても応用できる火の生活魔法で攻撃してみたが、ちゃんと魔法としては発動していたので今アルフィーにこの魔石をあげられるのだ。

 エレノア、ごめん。と心の中で友人に謝る。今度何かでお礼しよう。

 しかし、次のアルフィーの呟きでエラは失態に気がついた。

「ちょ…これは使うタイミング間違えた…運転……」

 エラはサッと顔色を変えた。

「あ!!ごめん!そこまで考えてなかった!」

 今日アルフィーは車を運転している。

 なのに今魔力を相当量使ったせいでふらふらなのだ。まともな運転ができるわけがない。

 どうしよう。

 しかし悩んだところでどうしようもできない。エラは運転免許は持っているが、ほぼペーパードライバーだから首都圏を走る自信がないし、万が一事故でも起こしたら保険の問題もある。

 本当にどうしよう。使う前に忠告すればよかった。

 しかしアルフィーはひらひらと手を振った。

「いや、いいよ……しばらくしたら回復するはず……」

 絶対嘘だ。そんなすぐに魔力は回復しない。魔力は体力なんかと同じなので寝れば回復するだろうが、それだって使い果たした体力が少しの休憩で全て戻らないのと同じく、多少の休憩で全ての魔力が回復するわけがない。

 アルフィーの家の人に迎えに来てもらう?

 オロオロしながらエラは考える。

 たぶん、無理。

 が、すぐに否定した。昼間のニュースで王宮の神事でプリンセス・エイブリーが映っていたから、たぶん母親は公務だろうし、父親ならいるかもしれないがそもそもアルフィーの乗っている車は父親のものだ。足がない。軍のお迎えはたぶん緊急事態の時しか使えない。

 となると。

「ア、アルフィーって外泊ってできるの?」

 それしかない。短絡的かもしれないけれど、タクシー代だって馬鹿にならない距離だろう。

 アルフィーが首を傾げた。

「……うん?何のこと?」

「うちに泊まっていって」

「え?」

 その発言にアルフィーが固まる。

 勿論エラはただアルフィーを休ませようと言っただけなので他意はない。

 エラはクローゼットから以前使ったブランケットやらを取り出して、アルフィーを泊める為の準備を始めた。





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