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魔石工房フランマ 3

今日は午後からルークがいない。何やら病院から呼び出しを受けたらしく、エラは再び店番を頼まれた。

「いらっしゃいませ」

「すみません。子どもに持たせる魔石が欲しいのですが…」

「お子様に持たせる魔石でしたら、店頭にあるのは迷子防止や防御系ですが…どういったものをお探しでしょうか?」

 やってきたのは疲れ切った顔の母親で、彼女の足元にはそっくりな顔のやんちゃそうな幼児が二人いる。どうやら双子らしい。

 商品を触ろうとする幼児二人を必死に捕まえながら母親は「命が守れるものを」と言った。

 幼児を守るための魔石はいくらでも存在する。初めは裕福な子どもが誘拐されないようにと作られたそれは、現在は形を変えて、交通事故に会っても命を守る防御魔法や迷子防止のための追跡魔法、魔力暴走を抑えるものと様々な魔石へと変化した。

 人によって求める魔石は違う。この母親は一言に「命を守れるもの」と言うが、できれば彼女から詳しく話を聞きたい。

 それに、双子達はとても静かに待てそうにない。店の備品を壊されては困る。

 エラは工房側へ母親と双子を招き入れた。工房側にはオーダーメイドの魔石を希望する客用の応接スペースがあるのだ。

 双子にはルーク特製のアニメ映画を投影する魔石を使って少しの間静かにしてもらった。母親にはコーヒーを出す。

 ほんの少しだけ母親の余裕が戻った所で、エラはカタログを取り出して話を切り出した。

「先程、命を守る魔石と言われましたが、具体的にはどのようなものをお探しですか?」

「…この子達、見ての通り双子なんです。片方に気を取られているうちに片方が道路を飛び出すなんてザラで……窓から落ちそうになった事もあるし……この前なんて、息子がいないと思ったらトラックの下に潜り込んでて……」

 それは肝が冷える。母親は生きた心地がしなかっただろう。

 双子の育児って大変そう、と少し母親に同情しながらエラはカタログをめくり、黒い魔石を指さした。

「お話を聞いているとこちらがよろしいかと思います。こちらは防御の魔石で、交通事故にあっても命は守れます。ただし窓から落ちた場合は当てになりません。防御魔法はあくまで防御魔法でしかありません。例えば盾を使って剣を防ぐ事はできますが、盾を使って落下の衝撃は相殺できないでしょう?」

「なるほど……」

「落ちる事を前提にするなら、こちらの黄色の魔石がおすすめです。これは風魔法を込めた魔石で、一定のスピードに達した瞬間に発動するので、安全に地上に降りれます。ただし、説明した通り一定のスピードに達しないと発動しないため、交通事故は防げません」

「そのどちらも、というのは……」

「残念ながら難しいです。風魔法に防御技は無いのです。風魔法の得意な魔法使いであれば風で防御するより吹き飛ばした方が効率的ですから」

「二つの魔法を一つの魔石に…は、無理なんですよね?」

「はい。魔石に込められる魔法は一つだけです。それに仮にお客様のお望みの魔法があったとして、今度は発動条件が難しくなります」

「発動条件?」

「魔法を発動する条件です。今回お求めの魔石は基本的に魔力を込めたら一日中いつでもオートで発動しますが、オートという事は魔石にいつ発動するのか組み込む必要があります。今回の交通事故防止と落下防止では発動条件が違います。交通事故の方は時速20km以上で物質が突っ込んで来た時に発動するよう当店では設定しています。風魔法の方は魔石保持者がそのスピードに達しないといけないので……条件を二つも盛り込むのは危険なんです。魔法が必要な時に発動しなかったり、不要な時に発動してしまうので」

 魔石に組み込む魔法は「いつ、どんな条件で魔法を発動するのか」を考えなければならない。意思を持たない魔石は常に魔法を発動するか、しないかの二択しかないからだ。交通事故防止のための防御魔法は、時速と物質の条件がなければ自分に近づく全てのものを防御してしまうため、人や物に触る事もできない。あまり条件をつけ過ぎても同じ現象が起こるので、条件はシンプルにが魔石工の共通認識だ。

「どうしても両方欲しいという事であれば、二つの魔石を通した装飾品を準備しますが……」

「それだと高いわね…なんて言ったって二人分だし、それにプラス母親しか取れない、みたいな魔石が更に付くんでしょう?」

「そうですね。子供はブレスレットにしろネックレスにしろ、鬱陶しくなって取ってしまう子もいますから、当店ではそういう魔石も追加で付ける事をお勧めしてます。もちろん要らなければ付けずにお売りできますが…」

「いいえ、必要よ。この子達、絶対に取ってしまうもの。それじゃあお守りの意味がないわ」

 母親はしばし迷った後で交通事故防止の魔石を買い求めた。もちろん、大人しか外せない魔法を組み込んだ魔石も一緒にだ。

 エラは作り置きしてあるブレスレットを改めて説明しながら渡し、会計をしてから双子に見せていたアニメを止めた。双子のブー垂れた声は誰もいない店側まで響き、母親が慌てて静かにするように叱った。今はお客さんも誰もいないから気にしないのに。

 母親は双子を叱りながら、さっとブレスレットを子ども達に付けーーもちろん魔力を込めて魔石を発動させてからーー小さな手を引っ張っていく。

「ありがとうございました」

「こちらこそ、ありがとうございました。ほら、ジャック、マイク、行くわよ」

「これやだー」

「外せないー。何で?」

 早速魔石のブレスレットを外そうとする幼児と手を繋いで去る母親を手を振って見送り、店内にエラは戻った。

「魔石って、結構面倒な制約があるんだね」

「きゃあ!?」

 そしたらアルフィーがいた。

「な、ななな、なん、でいるんですか!?」

 さっきまで誰も店内にいなかったはずだ。店のドアが開いた音だって聞いてない。

 アルフィーは笑って「魔法」っと言った。

「そんなわけないでしょ!?出入り口には店長が作った魔法無効化の魔石があるもの!」

「あ、もしかしてドアのベルの事?内側に天然石が仕込んであったから、何かの対策だとは思ってたけど」

 なんなの、こいつ。たった三回の来店でそこまで見抜くとは。

 ちなみに、ベルの内側には様々な魔石が仕込まれている。万引き防止やら武器持込防止やら、色々。

 ぐぬ、とエラが押し黙るとアルフィーは「ごめんごめん」と人好きのする顔で謝った。たぶん、本気で謝ってはいない。

「ちなみに店内には普通に入ったよ。接客に集中してて気づかなかったんじゃない?」

「うっ………」

 なんて事ない種明かしに、エラは再び押し黙る。確かに集中してるとたまに外の音が聞こえなくなる事があるのは分かってる。

「じ、じゃあ店内で消えてた理由は?」

「これ、試してた」

 見せられたのは紫水晶の魔石。お試しでおいてある姿が認識されにくくなる目眩し系の魔法が込められた魔石で、この魔石を発動するとその人はそこら辺の壁や木などに誤認されやすくなる。ただし声を出したり、発動した時点での足の位置を動かしたらバレる。よく女性が買い求めていく魔石で、暗い夜道を一人で歩く事が多いとかストーカー被害に悩む女性などがお守りとして買っていく魔石だ。エラも月光干しの日にはルークに必ず持たされるし、重宝している。

「すごいね、これ。エラ達、本当に俺の事スルーするんだもん」

「…そうよ、店長の魔石はすごいのよ」

 純粋に魔石を褒めてくれるアルフィーに怒るのも馬鹿らしくなって、エラは溜め息混じりに応える。

 実際、ルークの魔石工としての技術は凄い。魔石工とて得意不得意があるので、どうしても得意な魔法を込めた魔石を作りがちだし、大きな店だと『この系統の魔石しか作りません!』みたいな所もある中、ルークはどの系統の魔石も作れるのだ。しかも効果は絶大。だからこそエラは頼み込んで弟子入りしたのだ。

「神秘系の魔法って自分で習得するのが難しいから結構売れるの」

「そうだろうね。同じ魔術科の奴でも習得しきれていない奴もいるし」

「……魔術科?」

 聞こえてきた単語にエラはアルフィーを振り返った。

「…え、あなた、コブランカレッジの魔術科なの…?」

「うん」

 あっさり頷くアルフィーに、エラは目も口も開けるという間抜け顔を晒した。

 嘘でしょ!?コブランカレッジの魔術科って、世界一の魔術科って言われてるはず…。

 ラピス公国はどうしてか魔法適正の高い人間が多く、それに伴って魔法技術が他国より抜きん出ている。だから、本物の魔術師になりたければラピスのコブランカレッジにある魔術科へ行け、と言われているほどだ。

 そんな所に目の前の青年が通ってる?

「そんなに凄くないよ」

 先手を打つようにそう言われて、エラは言葉を失くす。でも凄くないわけがない。魔術科なら世界で一番と言われる場所で彼は勉強をしているのだ。

「俺、元々魔法得意で好きなんだよね。なんか、色んな魔法を試してたらいつの間にかカレッジに通ってるけど」

 それを天才と世の人はいうのでは?

「あと俺の場合、周りの環境が良かったからなー。両親も魔法得意だし、父さんは魔法省で働いてるから古代魔法に詳しいし、その部下もしょっちゅうやって来ては魔法教えてくれるし、家政婦のリサも便利な生活魔法教えてくれたし、庭で攻撃魔法とかの練習もできたし」

 つまり子供の頃から英才教育を受けてきたということか。

「…もしかしなくてもアルフィー……さんって……」

「アルフィーでいいよ。わざわざミスターって付けなくっても。同い年なんでしょ?俺もさっきからついミス無しでエラの事呼んでるし」

 途中から驚きのせいでどのかへやってしまった客への敬語を敬称として思い出して引っ張り出したエラに、当のアルフィーが遮る。

 それならもういいや、とエラは敬語を取っ払った。それより気になるのは、先程から会話の端端で感じる金持ち感だ。

「…アルフィーって、お金持ちのお坊っちゃまだったりする?」

「うーん…エラの言うお坊っちゃまがどれくらいかによるけど、家政婦が一人いるくらいだよ」

「それを世間一般では金持ちって言うのよ!!」

 くわっと目を見開いてエラはアルフィーに食ってかかった。一般家庭に家政婦がいると思ってんのか、このやろう。



近いうちに次の話も投稿できるよう頑張ります。たぶん。

ちなみに、アルフィーの名前も妖精に関係します。Alfは古い言葉でエルフの事らしいです。間違ってたらすみません。

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