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ヨルクドン 1

 翌日、エラは早速ルークに休み希望を伝えた。

 ルークはあっさり「いいぞ」と許可をくれたので、エラは拳を天に突き上げて喜んだ。

「どこか行くのか?」

「ヨルクドンです。アルフィーと一緒に」

「アルフィーと?」

 ルークが微妙に剣呑な目をしたのには気が付かず、エラは嬉々として言い放った。

「はい!もう資料館が楽しみで!」

「……砦の方じゃないのか」

「砦も楽しみですよ?でもやっぱり資料館が……!ヨルクドンの結界魔石ってどんな魔石なんでしょう?どんな魔法が込められてたのかなぁ…設置されてた、って事は大きいものだったのか、それとも石碑みたいな感じだったのか……本物が見たい。それにどの天然石を魔石にしたのかな。単純な防御なら黒系統だけど、雪を溶かす事に関連するなら赤系統か…それとも無難に水晶かなぁ。クズ石の水晶なら盗賊に取られる事もないだろうし……あ!いくつか魔石持って行ってもいいですか?きっと資料館ならどんな魔法が込められてたのか教えてくれるだろうから、私も作ってみよう。そしたらミニチュアの砦が作れるかも!」

 もうエラの頭の中は大好きな魔石で一杯だった。

「………変な心配をした俺が馬鹿だった…」

 まだ見ぬ資料館へ思いを馳せている弟子に、ルークが思わず呟いた囁きは、エラの耳に入らない。

「魔法付与の練習してきまーす」

「はいはい…」

 鼻歌でも歌いそうなエラは、やっぱり呆れている師匠の様子には気が付かなかった。





 それからしばらくエラはアルフィーと連絡を取り合い、旅行の予定を立てた。

 初日は移動して、アルフィーは夕方まで砦でメンテナンスのバイト、エラは自由行動。

 もちろん、自由行動中のエラの行き先は結界の資料館だ。

 夜は合流して食事。ヨルクドンは青雪の砦が成功してから冬の間限定の観光名所なので、それなりに観光地として成熟しており、ちらほらとレストランがある。砦のメンテナンスの日もバイト学生のために開いている所があるので、そこに行く予定だ。

 食事を摂ったらアルフィーは砦へ戻り、エラは車で寝る。

 翌日はもうバイトはなく、朝から合流して二人でヨルクドンのお土産屋を巡る予定で、慣れない雪道と渋滞が心配なので昼過ぎに帰ると決めた。

 そんな事を決めているうちに年が明け、両親は帰って来ないのかと言い、妹は大学見学にそっちに行きたいと言い、正反対の事を言い始めた。

 もちろんエラは妹の味方で、レーナがゴブランフィールドへやってきてエラと一緒に過ごした。何でも都会の大学に行きたいと言ったところ、両親がレーナまでいなくなるなんて、と反対して一波乱あったらしい。最終的に父が提示した大学なら許す、と幾つか父が都会の大学をピックアップしてきて、その中でも今の学力じゃ難しいが興味がある大学がゴブランフィールドにあるらしく、レーナはそこの見学に行った。

 アルフィーは北の祖父の家に行くと言って、フランマで買った火の魔石を土産に持っていった。

 そしてレーナが家に帰り、入れ違いでアルフィーが帰ってくるといつも通りの生活になり、日々を過ごしている間にいつの間にか旅行当日になっていた。

 エラは防寒着を着込み、火の魔法を込めた魔石を革紐に通して腕に嵌め、前日のうちに旅行の準備を済ませた鞄を持ち、アパート前でまだ日も登っていない早朝からアルフィーを待っていた。

 火の魔石のおかげで寒くはないが、吐き出す息は白い。

 そこへ一台の黒い車が近づいてきた。車に移動手段としての興味以外はないエラは車種も分からないが、町中でよく見るファミリーカーだ。

 運転席にはアルフィーが座っていた。

「エラ、おまたせ」

「ううん。車出してくれてありがとう」

 お礼を言ってから後ろのドアを開けて、荷物を積み込もうーーーと、したところでアルフィーが運転席から出てきて、荷物の詰め込みを手伝ってくれた。

 ちらりと後ろを覗くとアルフィーの荷物とクーラーボックスくらいの箱が乗っていた。何だろう、あれ。

「さ、出発しようか」

「うん。よろしくお願いします」

 助手席に乗り込んだエラはしっかりシートベルトを締めてから、腕にある魔石に触れて火の魔法を解いた。

 それを横目で見たアルフィーが車を出発させながら呟く。

「魔石、ちゃんと持ってきたんだね」

「そりゃあ夜に凍えたくないもの」

 今回エラは旅費を浮かせるために車中泊だ。

 しかし、北の大地であるヨルクドンに停めた車に車中泊など、何の装備もしなければ凍死間違いなし。アルフィーは夜に魔法を色々掛けてくれるらしいが、エラも念の為いくつか魔石を持ってきた。凍えないための火の魔石を三つ、暴漢対策としての拘束の魔石、防御の魔石、明かり代わりの魔石、それから温かい物が飲める魔石とそれを仕込んだマグカップ。

「全部ルークさんの魔石?」

「ううん。ディランおじさんの作った魔石もあるよ」

「ディランおじさん?」

「話した事無かったっけ?近所に住んでた人で、魔石工だったの。私が魔石工を目指したきっかけよ」

 エラは道中長いし、と昔話を始めた。





 エラの故郷、グリーンウィッチにディランは住んでいた。

 ディランは魔石工だったが、両親の病気で故郷に戻ってきて、両親が亡くなった後もそのまま住みついた人で、故郷のグリーンウィッチでは魔石工ではなく農夫として両親の畑を受け継ぎ、働いていた。

 魔石工としての腕前は良いものだったのか、悪いものだったのか、エラは知らない。もう彼は病気で亡くなってしまったし、エラは当時十一歳の子どもで魔石工見習いですらなかった。ただ今手元に残っている魔石から判断すると、ルークと同等の腕前を持つ魔石工だったのではないかと思っている。

 友達と遊んでいたエラは、夕方になったので帰ろうと友達と別れて家に向かっていた。夕飯は何だろうとか考えて日の傾いた道を歩いていた気がする。

 そんなエラが近所の家の前を通りがかった時、ウッドデッキにいた男の周りにキラキラと星が回っているのを見てしまった。

 エラの目はそれに釘付けになった。非現実的な光景だったけれど、確かに男の周りにはキラキラと光の線を残しながら光る星が浮いて回っていて、さながら彼を中心に銀河でも形成されているようだ。

 熱心に見ていたせいか、男がエラに気づいて星を消した。

 気づかれた事に気まずさを感じてエラは慌てて立ち去ろうとしたが、男に「待って」と声をかけられて足を止めたのだ。

 男はウッドデッキからさほど距離のないエラのいる門の方へやってきて、門に手を付いてエラを見た。

 エラは今にも逃げ出したい気持ちでいた。

「近くに住んでる子だね。メイソンさん家の子かな、それともベイカーさん家だったかな」

「あ、えと、メイソンです。私、エラ・メイソン」

 戸惑いつつも自己紹介すると、彼はにっこり笑って自己紹介を返してくれた。

「僕はディランだよ。ディラン・エドワーズ」

「エドワーズさん」

 それがディランとの出会いだった。

 見知らぬ男に不用心な、と都会なら言われそうだが、近所だし、それほど広くない町なので何となく大人達の会話から知っている苗字であり、人だったので、緊張はしていたが、逃げ出すほどの警戒はしていなかった。

「あの、さっきの何ですか?」

 だからこそ緊張しながらも、さっきの現象が気になったエラはディランの様子を伺いながら訪ねた。

 ディランは笑いながら手の中にある小さな紫色の石柱を見せた。それは小さなチャーム仕様になっていて、子供のエラには小さくて鈍い煌めきを宿した不思議な石に見えた。

「魔石だよ。これは幻影の魔法が込められた魔石」

「魔石?魔石って夏に涼しくなるよう使うあれ?」

「そう。でもこれは幻影の魔法が込められているから涼しくはならないけどね。昔、姪が喜ぶかなと思って作ったんだけど、いらないって言われちゃってね。まあ星が出てくるだけの幻覚だから使い道もないんだけど…」

「えー勿体ない。すごく綺麗だったのに…」

「おや、気に入ってくれたのかい?」

「はい。宇宙みたいで綺麗でした」

 子供騙しの幻しを子供なりの言葉を使って素直に褒めたエラをディランは気に入ってくれたらしい。

「なら、これは君にあげるよ。僕が持っていても仕方ないからね」

 ディランは子供のエラの手の中に小さな魔石を落とした。

 自分の手の中にある小さな魔石にエラは瞳を輝かせ、弾けるような笑顔を見せる。

「本当?ありがとう!」

 これがディランとの出会いだった。




ちなみに、本当に雪と氷でできたホテルが海外にあります。泊まってみると案外大変らしいです。なんせトイレもシャワーも外に出て別館に行かないといけないとか。

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