魔石工房フランマ 2
ルークは結局夕方に帰ってきたが、彼の母親は骨折はしたものの、大事では無いらしい。
それにホッとしてエラは朝の青年客の事を伝え、ルークは下準備の終えた青い瑪瑙に魔法付与を始めてくれた。
「私も早く魔法付与できるようになりたいなぁ…」
「魔力付与がようやく一人前にできるようになったばっかりだろうが。それにエラは基礎はできてる。後は練習あるのみだ」
ルークのぶっきらぼうな褒め方にエラの頬が少しだけ緩む。
褒められれば嬉しい。また頑張ろうという気になる。
そうしていつも通りに過ごして三日後。
「いらっしゃいませーーーあ」
「こんにちは」
氷の魔石を求めてあの青年がやってきた。
「お待ちしておりました。氷の魔石、できてますよ」
エラは笑顔で、青年に青い瑪瑙の魔石を三つばかり革紐に通したブレスレットを箱に入れて渡す。
「魔力を込めれば氷の魔法が発動して、発動者の周りのみ気温を下げてくれます。魔石一つで五度ずつ温度を下げますので、三つとも発動すれば十五度下がります。もしかしたらお年を召された方には寒く感じる可能性もありますので、夏用の上着があるといいかもしれません。確認してみます?」
青年に一通り説明してから魔石のブレスレットを差し出すと、青年はブレスレットを取って軽く魔力を込めた。
「お、本当だ。涼しい」
「良かったです」
にっこり微笑んで、エラは青年から返して貰ったブレスレットを箱に入れて蓋をした。
「お買い上げでよろしいですか?」
「うん。これで祖父も喜ぶよ」
「よろしければラッピングもしますが、どうしますか?」
「じゃあお願いしようかな」
青年に言われてエラは箱をラッピングする。この小さな店には包装紙が三種類あるので、見本を見せてから青年に選んでもらい、テキパキとラッピングをしてお会計をしてしまう。
「ありがとうございました」
「いや、こっちこそ助かったよ。祖父に是非とも夏にも買ってきてくれ、って言われてたからさ。ありがとう、えーっと……」
言い淀んだ青年の言いたい事を正確に把握したエラは少し警戒して名前だけを自己紹介をした。
「エラです。エラ・メイソン」
若いというだけでエラにちょっかいをかけようとする客は一定数いる。ルークもいるので面倒な客が来ると助け舟が出される事もある。でもここで働き始めたばかりの頃に面倒な客の口車に乗って自分の個人情報を漏らしてしまい、ストーカーじみた目にあってからは名前のみを教えるようにしている。
そんなエラの警戒を知ってか知らずか、青年は「エラ」と呟いてから微笑んだ。
「妖精の乙女か。君にぴったりな名前だ」
「…ありがとうございます…?」
エラなんて、この国ではよくある名前だ。ラピス公国では妖精の土着信仰が生きているのと、妖精は神の末裔だと言われているため、妖精や神に関する名前を子供に付ける事が多い。次点で月や光に関する名前が多い。これは妖精の月から来ているのだろう。
ああでも、そういえばこいつ、初対面で「夜の妖精」とか訳の分からない事言ってた。だからそんな発想になるのかもしれない。
「俺、アルフィー。アルフィー・ホークショウ」
青年ーーーアルフィーはにこにこと手を差し出した。エラもとりあえず握手を交わす。
真正面からしっかりアルフィーを見ると、彼は人好きのする顔をしていた。特別かっこいい!とかイケメン!って感じではないが、優しい顔とでも言えばいいのか、何でも話したくなる顔というか、上手く言えないが、こう嫌悪感のない顔をしている。
それにどっかで見た事があるような気がする。
そう思ってエラは知り合いをありったけ思い浮かべたが、彼に合致する顔は無かった。
「エラさんはここの店長の娘さん?」
「いえ、見習い魔石工です」
「あ、じゃあ俺より歳上かな。俺、もうすぐ二十歳なんだよね。コブランカレッジの二年生」
「コブランカレッジ……!?」
エラは思わず固まった。
コブランカレッジって、国内最高峰の大学じゃない!
つまり、目の前のアルフィーはエラには足元にも及ばないくらい、とてつもなく賢いという事だ。
「そんなに驚く?」
「…驚きますよ」
こちとらブルーカラーだ。
「同い年の人がコブランカレッジって十分驚きます」
「え?同い年なの?」
「はい。私は高卒で働いてますので」
「じゃあ自分で稼いでるんだ。すごいなぁ」
「そんなにすごくないですよ。どちらかと言えば、コブランカレッジの学生であるホークショウさんの方がすごいです」
エラはまだ見習い魔石工なので、見習いに見合った給料しか貰ってない。そんな人、巨万といる。
でもアルフィーは「自立してるってだけですごいよ」と笑う。
「また魔石を買いに来るよ。今日はありがとう」
「またのお越しをお待ちしております」