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夏の攻防 5

 フランマは二週間の長期休暇に入った。ルークは妻のシンディと旅行に行き、エラも実家の両親から旅行に誘われたので現地集合して久しぶりの家族旅行を楽しんだ。行き先は自然豊かな国立公園だ。

 そこには有名な、妖精が住むと言われるトネリコの巨木がある。

 エラも両親、妹とその木を見に行った。

 樹齢千年と言われている木はとても大きく、夏の強い日差しを遮って大きな木陰を作ってくれていた。木陰に入ったエラが上を見上げれば、葉っぱの隙間から零れ落ちる木漏れ日は緑の葉をキラキラと輝かせていて、茶色の太い幹は生命力を誇示するかのように大きく枝を四方八方に伸ばしている。

 アルフィーも一緒に見られたら良かったのにと思う。彼がこの木の下にいたら本当に樹木の妖精のように見えたかもしれない。

 エラの希望で連れて行ってもらった歴史博物館ではもう何の力も持たない古い魔石があって、エラは目を輝かせた。

 妹のレーナの希望で行ったのは有名なレストランで、そこではゆっくり食事をした。

 旅行最終日が近づいてくると、エラはお土産を選び始めた。

 旅行に行くとルークとシンディにお土産を買っていくのだが、今年は一つ多く買おうとエラは決意していた。アルフィーにだ。

 ルークとシンディには旅行先の名産品であるハーブ入りのソーセージとお菓子を買った。アルフィーには何を買おうか。物か食べ物か。

 色々悩んだがアルフィーには無難にお菓子と、あの木をモチーフに描かれたマグカップを買った。フランマにアルフィー用のマグカップがまだなくていつもお客様用の物を使っていたので、これを使ってくれたら嬉しい。

 旅行最終日はもう帰るだけで、お土産を持って名残惜しく思いながらも観光地から離れ、故郷のグリーンウィッチとコブランフィールドに枝分かれする駅で家族とも別れる事になった。

「うぉーーーん!エラぁぁーー!」

「お父さんうるさい!離して!」

 エラはギュウギュウと抱きついてくる娘バカの父親の顔を必死に両手を突っ張って離そうとしていた。

 が、趣味筋トレの父の腕は筋骨隆々としていて細腕のエラでは絶対に敵わない。

 この父親の過剰な愛情表現のおかげで、エラは家族と別れる時は寂しいよりも面倒くさいという気持ちになる。

「こんなに可愛い娘を一人帰すなんて…!パパは心配で心配で…!ああ!悪い男に連れ去られたらどうしよう!?世界一可愛い娘をだぞ!?」

「あなた、娘に嫌われたくなかったらさっさとその腕を離しなさい」

「毎年思うけど…私も家を出たらこうなるの?」

「レーナ、覚悟しといた方がいいわよ…っ!いい加減離せっての!」

「何でだ!?お父さんと結婚するって言ってただろ!?」

「言ってない〜〜っ!!」

「あなた、記憶力まで筋肉になったの?エラも、ついでにレーナもそんな事言ったこと無いわよ。エラはダニー君と結婚する、って言ってたけど」

「何ぃ!?」

「ダニー君って近所のダニー?お姉ちゃん、そんな事言ってたの?」

「覚えてないわよ。小さい頃、一緒に遊んだのはぼんやり覚えてるけど……もう、お父さん離してってば!」

「可愛かったわよー。レーナはニック君のお嫁さんになる、って言ってたわね」

「うっそ!?ニック兄さんと!?」

 ちなみにニックとはエラより五歳年上の従兄弟だ。

 娘に求婚されていないショックを受けて固まっている父親の腕から何とか逃げ出したエラは、母と妹とごく普通のハグをして家族とは別の電車に乗り込んだ。

 今生の別れのようにおいおい泣く父と、手を振る母と妹を電車の窓から見送ってエラはコブランフィールドの一人暮らしのアパートを目指した。

 そうだ。お土産を渡すためにもアルフィーに連絡しないと。

 ルークは仕事が始まれば毎日会えるが、アルフィーは毎日来るわけじゃない。

 エラはスマホを取り出してアルフィーにいつフランマに来るのかとメッセージを送った。




 フランマの夏期休業明け四日目にアルフィーはやって来た。

「お菓子と……マグカップ?」

 休憩時間のエラから渡されたお土産を開けたアルフィーは不思議そうにマグカップを見た。

「うん。店にアルフィー用のマグカップ無かったでしょう?それにこのトネリコの木、色合いがアルフィーに似てたからつい」

「俺に?」

「うん」

 さすがに樹木の妖精みたい、とは恥ずかしくて言えないが、聡いアルフィーは自分の髪と瞳の色を思い出したらしく「確かに木みたいな色合いかも」と呟いた。

「今度からアルフィーに飲み物を淹れる時はこれを使わせてね」

「…ありがとう、エラ。俺の居場所ができたみたいで嬉しい」

「どういたしまして」

 どうやら気に入ってもらえたようでエラは上機嫌に返事をした。

「俺からはこれ。大した物じゃないけど」

 今度はアルフィーが鞄を漁り、鞄の中から緑色のリボンとクリーム色の包装紙でラッピングされた円柱を取り出した。

 受け取ったエラは嬉しさにそわそわしつつも「開けていい?」と尋ねる。

「どうぞ」

 許可が貰えたので丁寧にリボンや包装紙を外していくと、中からは瓶に詰め込まれた可愛い砂糖菓子が出てきた。カラフルな砂糖菓子は半透明で光を透き通しまるで宝石箱のようだ。

 甘い物も綺麗なものも大好きなエラは思わず目を輝かせる。

「きれい…!」

「旅行、っていうかまた祖父の家に行ってきたんだけど、そこのケーキ屋のお菓子だよ」

 エラは瓶を開けて黄色の砂糖菓子を一粒口に放り込んだ。爽やかな甘さが口の中に広がる。レモン味だろうか。

「美味しい。ありがとう、アルフィー」

「どういたしまして」

 こうして夏期休暇のお土産交換は終わった。





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