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見習い魔石工の妖精乙女  作者: 小雪
番外編
114/114

ダスティン 3

「彼女できた」

『えー!?私という女がいながら!?』

「おいふざけんな」

『あはは!冗談よ、冗談。私とあんたがどうこうなるなんて天と地がひっくり返っても無いわ。おめでとー』

「どーも」





「よーす。お、怪我してない」

「まぁな。ほとんど怪我しなくなった」

「おーすごい。あれ?今日は指輪してないの?彼女に貰ったとかって言ってたじゃん」

「ああ、別れた」

「早っ。え?本当に?仲良かったじゃん」

「仕事優先したらフラれた」

「あらー…仕事と私、どっちが大事なの!?って事?」

「端的に言えば。固定休じゃないって何度も言ってんのになぁ…」

「お、ついにダスティンも私の仲間ね。仕事優先。というわけで付き合お!」

「却下」

「ちっ。おばあちゃんが黙るアイテムを手に入れれると思ったのに」

「おい」





「おう、久しぶり。あれ?どうした?今日は一段と荒れてるな」

「っ……!!うわぁぁぁん!」

「だーーっ!?何だどうしたくっつくな!」

「ぐすっ……ひっく……」

「……どうした?」

「…彼氏に、ふ、フラれた……」

「あ?彼氏いたのかよ」

「…ひっく……ま、また軍属魔術師はい、嫌だって……」

「あー…ご愁傷様。お前、ろくでなしとしか付き合わねぇなぁ。もっと理解ある奴と付き合えよ、俺みたいな」

「うう……ダスティンが優しい……でもあんたは無い」

「俺も無い。お前だけはない」

「酷い!優しいって言ったの撤回する!」





『ダスティン、付き合おー』

「嫌だ。要件何?」

『あはは。冗談はさておき本当に困ってんの。助けて』

「どうした?」

『コブランフィールドの手芸店に来たんだけどさ、追突されて車が動かない』

「……はあ!?」





『もしもし。珍しいじゃん、そっちから電話とか』

「まぁな。付き合ってやるからちょっと教えてくれ。叔父さんも困ってるんだよ」

『ふふん、彼氏できたから大丈夫。何ー?』

「おーめでたい。で、何か変なオーダーメイドの注文が大量に入ってさ、最近流行りの転売じゃないかって。注文された魔法が変だし、悪質なら断ろうかと」

『どんな魔法?』





「ダスティン!ダスティン!これどう思う?」

「ブレスレット?男物だよな、どうしたんだよこれ」

「作った。最近男物にも手を出してみたんだけど、どう?」

「すげぇ。いいんじゃね?彼氏にやるのか?」

「いや別れた。浮気ばっか疑ってくるんだもん。嫌になっちゃってこっちから別れた。というわけで付き合……」

「わない」

「あははは!この感じ久しぶりー!」





 何だかんだエレノアとの付き合いが続いている。

 お互い二度ほど恋人がいたが、結局別れてしまっては付き合う?と冗談を真顔で言い合っている。

 このまま気兼ねない友達付き合いをしていくんだろうなと思うし、最近はエレノアの面倒な愚痴にも慣れてしまった。というか彼女は喋る事がストレス発散になっているので、愚痴じゃなくても近況を話させたりしたら満足すると気づき、最近は愚痴も少なくなってごく普通の内容をマシンガントークされている。これも慣れた。

 そんなある日、店に訪れた女性客に商品説明をした後で手に名刺を渡された。

「良かったら電話して」

 魔石を買ってから流し目をして店を出て行った女性客を礼儀正しく見送り、貰った名刺をひっくり返すと彼女の個人的な電話番号が書かれていた。名刺の表にはどこかの企業の営業だと書かれている。

「……うーん、掛けてみるか?」

 ぽつりと独り言を呟く。

 自分に自信がありそうな女性客だった。丁寧に巻かれた髪にバッチリ化粧をしてスタイルも良し。それにあの雰囲気は軽いノリで遊べそうな人だ。

 昔なら一も二もなく電話しただろう。後腐れなく遊んで別れるのは楽だから。

 でももう魔石工として独り立ちはしている。エラのように新たに店を構えようとは思っていないが、叔父に店を継いでいいかと尋ねたら嬉しそうに了承してくれたので、今は店の経営を学びつつ一人の魔石工として研鑽を積んでいる状態だ。

 そろそろ身を固めるべき相手をちゃんと見極め始める時期なのかもしれない。

「………うーん…ここ最近の彼女二人は真面目に付き合ってたんだけどなぁ……」

 なんか長続きしない。何でだ。

 ちなみにエレノアが彼氏と長続きしない理由は明白だ。付き合う男が悪い。軍属魔術師なんて生身で敵地に突っ込む奴の正気が知れないと言われて破局。男社会の軍で働いてるのに嫉妬深い男と付き合って浮気を何回も疑われて破局。もう少し相手を選べと言いたい。

 とりあえず名刺は取っておこう。

 貰った名刺をポケットに捩じ込み仕事に戻る。

 しばらくすると名刺の事なんて忘れた。

 思い出したのは家に帰ってシャワーを浴びようとした時で、結局面倒になってその名刺は捨ててしまった。




 

「…っていう事があった」

「勿体無い」

 エレノアと飲みに行った時に貰った名刺を捨てた話をすると、エレノアは目を丸くしてそう言った。

「何だろうな。昔なら連絡したのにする気にならねぇんだよな」

「よっぽどエラの事引き摺ってるとか?」

「別にそんなつもりない」

「よねぇ。吹っ切ってる感じするもん」

 二人で首を傾ける。

 すると目の前で酒を煽ったエレノアがにんまり笑った。あれは揶揄おうとしている時の顔だと知っているのでダスティンは身構える。

「という事は、目の前の美女に気がついてしまった?」

「誰が美女だ、誰が」

「酷い!お世辞くらい言ってよ!」

「言う価値が無い」

「なにおう!?私、これでもコブラン卒の軍属魔術師よ!?彼女としてお買い得よ!?仕事辞めるつもりないから結婚相手としても申し分なし!将来安泰!」

 自分で言うのかよ、とつい突っ込もうとしてダスティンはふと動きを止めた。

 ……あれ?

 目の前の女をマジマジと見る。

「?何よ」

 不思議そうにこちらを向く薄茶の瞳。最初はあんなに鬱陶しかった高い声もいつの間にか当たり前になってしまっている。気付けば普通に飲みに行く仲になってるし。

 別にエレノアの容姿は悪くないし、彼女の方がダスティンより頭はいいがそれを鼻にかける事もしない。元々自立しているせいで依存してくる事もないし、ダスティンと休みが合わなければ趣味の手芸にでも没頭してくれるだろう。

「………ありかもしれないと思った」

「はあ?何の話よ」

「お前と恋愛」

「…………はあ?」

 心底訳が分からないという顔をエレノアがするのでダスティンはチーズを摘みながら口を開いた。

「少なくとも俺はお前に嫌悪感ねぇし、まあいいかなぁと」

「えー何それ。私もう少しロマンチックな方がいい」

「無茶言うな。俺とお前だぞ」

「それはそうだけど……ええー…何か思ってたのと違う。ていうか、あんたと付き合う利点って何」

「俺ならお前が軍属魔術師でも文句言わねえな」

「それは……確かに」

「浮気する前に要らない男を捨てる女だってもの知ってるから軍で働いてもとやかく言わない」

「あら、よく分かってるわね。……ふむ」

 眉を顰めてエレノアが考え込んでしまったので、ダスティンは摘んだチーズを口に放り込んだ。

 別に悪い提案じゃないと思う。誰もがエラとアルフィーみたいに運命的な経過を辿るわけじゃないし、奇妙な友人関係から始まる関係も悪く無い。

 それにダスティンもエレノアも、ベタついた恋愛より、適度に距離感があって好きな事をお互いにやってはたまにスキンシップを取るくらいが丁度いいタイプだ。

 ……ああ、だからか。だから長続きしなかったんだ。

 急に腑に落ちてダスティンは心の中で納得した。

 真面目に付き合ってみたのに長続きしなかったのは、あの女の子達はベタついた愛情をダスティンに求めてきたからだ。記念日だの指輪だの同じ日に休んでデートしたいだの、別に構わないけど微妙に煩わしくって少しでも回避しようとすると「私の事、好きじゃ無いの?」とくる。そうじゃない、たまには一人で自分の好きな事をするのに休日を使いたいと言っても「なら私も一緒にする」と理解されない。結果、上手くいかない。

 元々適度に遊べる女としか付き合ってこなかったから、思っていたより自分の恋愛は淡白だったようだ。

 こてん、とエレノアが首を傾けた。

「今の関係の名前が変わって、なんか色々付随するだけよね。そう考えると悪くないかも」

「だろ?」

「んー…じゃあよろしくお願いします」

 お酒を持ったままエレノアが笑う。

 その笑顔を見て可愛いとか、抱きしめたい、とはならないけれど、笑顔のエレノアは活発で自立した彼女らしいとは思う。

 そのくらいには彼女の事を知っている。





 その後、魔石工房フランマは店主の甥が継ぎ、手芸が趣味の妻が今までは革紐に魔石を通すだけだったのを、若い女性受けがいいアクセサリーに変えるオプションを追加料金で受け始め、繁盛し続けたという。

 新しい店主夫婦はまるで親友のように冗談を言い合う仲だったそうな。




エレノアは軍属魔術師は辞めません。

ダスティンはこの話の中で一番モテる。

イメージ的にはダスティン≧マテウス>>>>>その他。

アルフィーは素っ気無いのでモテません。じゃあなんでエラと仲良くなれたかというと、アルフィーが自分の知的好奇心を抑えられなかったのと、エラが女性としてアルフィーを警戒したのに気がついたから。あとエラが魔法陣教えろ、なんて変な事言い始めたので、そんなに警戒しなくていいかなと油断したのが大きい。


ここまでお読みくださりありがとうございました!

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