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疑惑の魔石 3

 アルフィーから経緯を聞いたルークとエラはとりあえず魔石を鑑定する事にした。

「エラ、やってみるか?間違っても魔力を込めるなよ」

「はい」

 鑑定するだけなら危険はないので、エラは魔石鑑定をルークとアルフィーの目の前で行う事になった。物が物なので、エラの後にはルークも鑑定を行う予定だ。

 すっかり絆創膏を貼るのも忘れたままの手のひらを魔石に翳した。

 鑑定は魔石に手を翳し、己の魔力で石の中の魔法を探るだけだ。余談だが魔力付与か魔法付与ができないと鑑定はできない。技術的には根本的に同じ事だからだ。

 エラが魔石の魔法を探る。石の中に育った魔力に書き込まれていたのは魔法陣で、一瞬戸惑ったが魔法陣に書かれていたのは現代語だったのでほっとした。

「魔力を込めればオートで発動するみたい。魔法陣が書き込まれてる。魔法陣の呪文は……昏き夜を染めるは業火」

 魔力で書き込まれた魔法陣の呪文はエラの知らない魔法だったので呪文を読んでアルフィーとルークに伝える。天然石のカラーである程度どの魔法かは絞り込めるため、赤い石なら恐らく炎系統の魔法だろうが、普通の生活魔法では無さそうだ。

「業火は地を這い…」

「『全てを囲い込み、愚かな願いを焼き尽くさん』」

 エラの呪文の続きを引き取ったのはアルフィーだった。

 エラは鑑定をやめてアルフィーを見ると、アルフィーは厳しい顔をしてエラの手にある赤い石を睨んでいた。

 何となく呪文の感じから炎の攻撃系の魔法なのはエラでも分かるが、アルフィーの顔つきからすると恐ろしい魔法なのだろうか。

「…ルークさんも鑑定をお願いします」

「分かった」

 エラからルークに魔石が渡り、一流の鑑定がされる。

 結果はエラと同じで、アルフィーは更に魔法陣に描かれたマークなども確認していた。

「これはどんな魔法なんだ?」

 ルークも知らない魔法らしい。

 しかしアルフィーは恐ろしいものを見る目で石を睨み、石を受け取るとすぐに袋に仕舞い込んだ。

 そして厳しい顔でルークの質問に答えないまま、とても学生とは思えない畏まった態度で口を開いた。

「ルークさん、エラ、悪いんですが、この事は他言無用でお願いします」

「…それは構わんが、その反応を見るに北部解放戦線のものなのは間違いないんだろう?」

「…ほぼ間違いなく」

 苦渋に満ちた顔でアルフィーはルークの質問に答える。

「警察は?」

「俺の先輩に軍で働く人がいるので、そこへ持っていきます。警察に持っていくより早いので」

「分かった。信用するぞ、アルフィー」

「はい」

 何だか物々しい雰囲気に少しエラの気分が落ち着かない。北部解放戦線は過激で、王族に関係する物を燃やしたり、壊したり、王族が泊まっているホテルなどに爆弾を仕掛けたりとたまにニュースになる。自分には関係ないと思っていたのに、そんな脅威がすぐ近くで燻っているなんて思いもしなかった。何だか胸の奥が重い。

 落ち着かなくて、何となく手を擦り合わせる。

 するとそれを見たアルフィーが、そういえばと切り出した。

「エラ、その手、どうしたの?」

「え?」

「さっきから気になってたんだけど、何かで切った?」

「ああ、これ?」

 エラは手のひらをアルフィーに見せた。さっき魔法付与の失敗で傷付けた手だ。

「魔石作る時に失敗したのよ。まだ魔法付与が下手だから練習してるんだけど、失敗すると石が内側から粉々に砕けるからどうしても怪我するのよね」

「ま、見習いの頃には付き物の怪我だな」

「ふーん…」

 さっきまでの雰囲気がいつもの穏やかなものに変わり、エラは肩の力を抜いて微笑んだが、アルフィーはエラの手を覗き込むと、自分の手をエラの差し出した手の上に翳した。

「アルフィー?」

「ーーーはい、治ったよ」

「え!?」

 何でもない事のようにそう告げられてエラは本日ニ度目の驚きを叫んだ。

 慌てて手を目の前に持ってくれば、確かに小さな怪我は跡形もなくなっていて、乾いてこびりついた血だけが残されている。

「ほー、大したもんだ」

「え?今、呪文無しで発動したの?詠唱破棄?」

「いや、大した事ないから。治癒魔法は小さな怪我を治せるくらいしかできないし」

「でも詠唱破棄したじゃない!すごいわ!」

 謙遜するアルフィーをエラとルークの二人がかりで褒めれば、彼は少しだけ戸惑ったような顔をしてから小っ恥ずかしいのか首を撫でた。

「ああ、丁度いいじゃないか。アルフィー、今度またエラが怪我したら治してやってくれ」

「え!?」

 思わぬ事をルークに言われて、エラは三度目の驚きを口にした。

 言われたアルフィーの方は意味が分からないのか目をぱちぱちと瞬いている。

「魔法付与が完璧にできないうちは怪我ばかりするからな。こればっかりは仕方ないんだが、男ならともかくエラは女の子だからなぁ…顔に傷作るのは親御さんに申し訳ない」

「私これっぽっちも気にしてませんけど!?」

「顔にも怪我するんですか?」

「魔法付与で派手に失敗すると顔まで破片が飛んでくるんだよ。目だけはゴーグルで守らせてるが、防護マスクは嫌がるし」

「だってアレ気が散るんですもん」

「というわけで、エラが顔に怪我した時だけでいいから治してやってくれ。お前さんに時間がある時だけでいいから」

「店長!」

 エラの文句もどこ吹く風でルークが話を纏めようとする。

 ならば、とエラはアルフィーに顔を向けた。

「アルフィー、受けなくていいから」

「いや、受けるよ」

「何で!!」

 きゃんきゃん吠えるエラに、アルフィーが笑う。

「だって部外者なのに夜の店に入れてもらったりしてるし、お礼何もしてないからさ」

「ぐぬ……」

 一理ある。

「いいじゃないか、怪我を治すくらい」

「そうだぞ。嫁入り前の娘なんだから顔も大事にしろ」

 二人がかりで説得されると分が悪い。

 そりゃあ怪我は早く治った方がいいけどさぁ…。店に立つ時に顔に絆創膏なんかしてたりすると心配してくれるお客さんもいる。

 でも何だかルークはともかく、アルフィーにも未熟者だと言われているようで悔しい。いやまだ未熟者なんだけど。魔力付与はできるようになったのに。

 でももう二人の中ではエラの怪我の治療は決定事項らしい。くそう。何でこうなった。

 エラはムカつきを抑え、大変不本意です!と顔に出しながら結局は「分かりました」と答えたのだった。





 家に帰ってきたアルフィーはすぐにマテウスに経緯を話し、魔石を預けた。

「火の籠目囲いの魔法が入ってるらしい」

「…本当に?」

 どんな魔石なのかマテウスに伝えると、マテウスは息を呑んだ。

 火の籠目囲いーーー火炙りによる虐殺の魔法だ。しかも広範囲に及ぶ。やろうと思えば村一つ滅ぼせるほどの恐ろしい魔法だ。過去の世界大戦中に考案された魔法で、あまりの凄惨ぶりに戦後は禁術となった。エラやルークが知らないのは当たり前だ。アルフィーだって魔術科で禁術として学ばなければ知らないままだっただろう。

 マテウスはすぐに軍のどこかに連絡して、母の前を辞した。にこやかに笑ってないマテウスを見るのは久しぶりで、いかに深刻な事かを思い知らされた。

 マテウスが出て行ってしまうとやり遂げた虚脱感からアルフィーはソファーに座って天井を見た。これで自分にできる事はもうない。

 家族に害が及びませんように。

 そう願うしかなかった。




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