表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
104/114

また始める 1

 緑眼ハンターは逮捕された。

 逮捕されても緑眼ハンターはエラを探して血走った目を四方に向けており、恐ろしくて思わずアルフィーの上着を掴むと、アルフィーが何故かエラの髪の色を魔法で変えた。瞬く間に濡羽色の髪が綺麗な金髪になる。ちょっとした変装なのだろうか。

 緑眼ハンターはアルフィーとマテウスに気がつくとギロリと二人を睨み、アルフィーの斜め後ろに立つエラには気がついていない様子だった。

「邪魔しやがって!お前らのせいで万能の魔石が出来なかったじゃないか!あの女はどこだ!?あの女の目ならできるはずなんだ!あの目は魔石になりたがってたのに!お前らのせいだ!」

 理解不能な事を怒鳴り散らす緑眼ハンターは、アルフィーやマテウスに文句を言う事に必死だったが、急にアルフィーの斜め後ろに隠れるようにいたエラに目を留めた。

 その視線の動きにエラがビクつくと、庇うようにアルフィーが動き、マテウスも二人を守るように前へ出る。緑眼ハンターは信じられないものを見る目でエラを凝視しながら、警察に急かされて歩かされているが抵抗し始めた。

「おい!どういう事だ!?何故髪の色が違う!?お前じゃない!金髪なんか…!どこに隠した!?必要なのはあの黒髪の女だ!!おい!」

 睨まれて身を竦ませる。何故自分に執着するのか分からず震えていると、アルフィーが呆れたように呟いた。

「あいつ、やっぱり黒髪を狙ってたんだな」

「……黒髪って…?」

 緑眼ハンターがエラに執心の理由をアルフィーが知っているような事を口走ったので、気になって恐々尋ねると色を変えられた金髪を一房取られた。

「たぶん、あいつの狙いはエラみたいな黒髪を持つ妖精の月の瞳だったんだと思う。最近の被害者は全員黒髪だったから」

「それでエラちゃんの髪の色、変えたの?」

「ああ。黒髪じゃなくなれば意識が逸れるかなって」

「ふぅん。ああ言ってるし、黒髪を狙っていたのは本当だろうけど、それでエラちゃんを付け狙う理由は?」

「たぶん、髪が青く光るからじゃないかな。あいつと自分が同じ感覚だと思うと虫唾が走るけど、エラの髪と目って夜を象徴してるみたいだろ?エラの目を妖精の月、髪を夜だと仮定したら……あいつの思考は理解はできないが納得はできる」

「なるほどね…そういえばエラちゃんって、この辺では珍しいくらい真っ黒な髪だったね」

 マテウスの指摘にそういえば『夜の妖精』なんて言われたなと出会いを思い出す。思わず自分の髪に目を落とすが今は金髪だった。

 抵抗する緑眼ハンターを警察が何とかパトカーに乗せて走り去ると、アルフィーは指を鳴らしてエラの髪に掛けた魔法を解いた。色が染み出すように金色が消えて、元の黒髪に戻る。日の光に当たり、黒髪は青く光った。

 そんなエラを見てアルフィーが柔らかく微笑んだ。

「狙われた原因だけど、やっぱりエラは黒髪の方が似合うよ」





 その後、エラは警察に保護された。

 助けてくれた家の人と女性には何度もお礼を言って、帰る足の無いエラは警察署に連れていかれた。

 アルフィーはマテウスが迎えに来たせいで軍の保護下になるらしく現場で別れたが、珍しくアルフィーが渋り、マテウスが懇懇と規則を説明していた。どうやら緑眼ハンターとエラが同じ警察署に連れて行かれる事が心配だったようだが、さすがにマテウスは警察を信用しろと言って譲らなかった。

「近いうちに会いに行くから……待ってて欲しい」

「…うん、待ってる」

 結局折れたアルフィーからの少し自信なさげな頼みにエラがゆっくり頷くと、彼はほっとした様子で頬を緩めた。

 警察署に着くと、連絡でも入っていたのかシンディとダスティンが待っていて、シンディには思いっきり抱き締められたし、ダスティンにも「心配かけさせんな」と小突かれた。

 二人によればルークも無事らしい。どうやら出力を弄ったスタンガンというのは本当だったらしく、ルークは感電してしまったので様子見の為に数日入院するそうだ。

 それからエラが行方不明だった為、シンディがエラの両親に連絡したので両親もこちらに向かっているらしい。一応、シンディのスマホを借りて両親に連絡を入れたが、父も母もエラの無事を確認しに来ると言って聞かなかった。

 ダスティンの運転する車でフランマまで帰ってきたエラは、商店街の顔馴染み達にも散々無事を喜ばれた。短時間とはいえ、かなりの人に心配をかけたらしいと気づいて申し訳なくなるが、思った以上にこの商店街に自分は馴染んでたんだなと気が付く。

 その後駆けつけた両親には抱き締められた。母には泣きながら抱き締められ、父には母ごと抱き締められて、改めてホッとした。

 何故狙われたのか尋ねられてエラは犯人の妄想やアルフィーから聞いた話を話していると、涙が出てきて母にあやされた。ダスティンもいる場で恥ずかしかったが、流石にダスティンも馬鹿にしたりしなかった。それどころか補足までしてくれた。どうやらアルフィーが店に駆け付けた時に彼にいろいろ聞いたらしい。

 でもショックを受けた母に田舎に帰ってこいと言われて、エラは即座に反発した。

「まさか狙われてたのがエラだったなんて……ねえ、やっぱりグリーンウィッチに帰ってこない?都会は危険よ」

「ええっ?嫌よ!私まだ魔石工になってない!」

「ママ、もう犯人は捕まったんだ。大丈夫だよ」

「でも……」

「エラは魔石工になりたくてここに来たんだよ?この子が家を出た時にサポートしようと決めただろう?シンディさん達もいるし大丈夫だ。それに今回の経緯を聞く限り、エラやルークさんに落ち度があるわけでもないし、私達がいてもいなくても結果は変わらなかったよ。寧ろ、アルフィー君に感謝だね」

 父の冷静な言葉に母が鼻白んだ顔で黙り込み、それでも諦めがつかないのか何度か父と言い合ってから渋々認めてくれた。

 娘の危機に取るものもとりあえず来た両親は、どこかホテルに泊まるつもりだったらしいが、シンディがエラも含めて家に泊めてくれるというので好意に甘えて泊めてもらった。

 そして翌日、シンディから三日くらい休めと言われてエラがそれを断るより早く、両親が了承してしまった。

 何だか早く日常に戻りたくて反発しようとしたエラを止めたのはシンディだった。

「ルークがいないし、エラだって大変だったんだから店は臨時休業にしましょう。ちゃんと休まなきゃダメよ。ご両親だって心配してるんだから」

「でも、確か今日受け取りに来るオーダーメイドの魔石もあるし…」

「なら店番に私が行くわ。ダスティンにも臨時休業だって連絡しておいてくれる?」

 そう言われてしまうとエラは反論できなくなってしまう。

 仕方なくその日はルークのお見舞いに行った後で家族と過ごした。話を聞いたレーナも大学を休んで、商業観光地の方へ出掛け、そこで一日を過ごした。

 夜には両親にアパートに送られて、両親はホテルに宿泊した。

 翌日は警察署に赴いて事情聴取だ。

 両親も付いてきたが、エラは一人で事情聴取を受けた。アルフィーに会えるかと思ったが、残念ながら会えなかった。

 でも色々と知れた。

 緑眼ハンターに狙われた原因だが、緑眼ハンターは普段はトレーラーパークで働いていたらしく、旅行で来ていたエラをたまたま仕事中に見つけたそうだ。そこで彼曰く、天啓を受けたらしい。それまでは妖精の月の瞳なら誰でも良かったのに、濡羽色の髪を持つエラの目なら万能の魔石ができると妄想が爆発し、後を付けてエラを誘拐しようとしていたようだ。

 でも旅行中はずっとアルフィーが隣りにいたせいで、緑眼ハンターはエラに手出しができなかった。それで腹が立ち、何とかアルフィーを排除しようとして国立公園での凶行に走ったが、エラが何処にいるかよく確認していなかったせいで、アルフィーではなくエラに銃弾が当たる事になったらしい。緑眼ハンターは確実に命を奪おうとアルフィーが立ち止まっていたあの時に彼を狙って発砲し、そうしたらたまたまエラがタイミング良く(悪く?)立ち上がってしまい、アルフィーではなく手前にいたエラが被害を受け、アルフィー自身はエラの魔石に守られたようだ。

 そして今回はテレビ出演が狙われた原因だった。視聴率の高い番組に出たせいで再び緑眼ハンターの目に留まってしまい、職場がバレてしまった。でもすぐに命を狙われなかったのは前回アルフィーが狙われたと思って軍が動いたせいで緑眼ハンターがエラを狙う事に関しては慎重になっていた事、そしてストーカー被害に遭っていたせいでエラが一人で行動する場面が少なかったおかげなようだ。それで痺れを切らしてフランマの動向を観察し、彼にとって一番の障害となりうるダスティンがいなくなる時間を狙ってやって来たらしい。ダスティンは若い男性で体も鍛えているから抵抗される事を危惧したようだ。

 緑眼ハンター曰く、ルークは殺すつもりだったらしい。でもフランマはルークの魔石によって守られており、ナイフや銃は持ち込めなくなっている。エラが襲われる前にも実は来店していたらしいが、ナイフを持っていた為弾かれて入店できなかったようだ。ただスタンガンは盲点で、魔石の条件に設定していなかったので持ち込めてしまい、ルークは気絶してしまった。

 そこまでは緑眼ハンターの計画は上手くいっていた。アルフィーが狙われているのはエラだと気付いて転移魔法を使うまでは。

 それからはエラの知っている通りだった。

 翌日、家に帰るエラの両親は何度もエラの心配をしていた。いつもの調子を取り戻してきた父の強烈なハグ付きだったけれど、何だかいつもみたいに突き放す気になれなくて、口で文句を言うだけに留めた。

 そうしたら普段と違う様子である事を気にして、両親に本当に大丈夫か、もう少し休んだら、と更に心配をかけてしまい、ちょっと失敗したと思った。

 何とか平気だと言い張り、両親には帰ってもらった。

「…はー……やっと元通り…」

 ぽす、とソファーに腰掛ける。

 両親も帰り、明日からは普通に出勤。

「……夕飯、どうしようかな」

 何だかやる気が起きない。

 ダラダラしていると、風に吹かれて窓がかたんと鳴った。

「っ………」

 驚いてエラは窓を見た。何とも無い。

 はあ、とまた溜め息をついてエラは夕食の準備の為に買い物に行こうとした。

 でも出掛けた所でうっかりポストを見て、またあの白い封筒に気が付き、エラは回れ右をして部屋に戻った。

 結局エラはぼんやりと部屋で過ごした。





あと3話!もう少しお付き合いください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ