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エラのピンチ 2

 エラは恐怖で体を震わせていた。

 スタンガンで脅されてワンボックスカーに乗せられた。男曰く、彼のスタンガンは出力を弄ってあるとかで、簡単に人を殺せるらしい。

 本当かどうかは分からないが、ルークが倒れた事実からエラは恐怖で従うしかなかった。

 手を縛られたエラは暗い車の荷台で怯えながら、何とか逃げられる隙はないかと犯人の様子を窺うが、どうすればいいのかさっぱり分からない。頭の中が真っ白だ。

 車は何処かへ向かい、唐突に止まった。

 びくびくしながら様子を窺っていると、荷台のドアが開かれた。

「下りろ」

 命令されて、そろそろと動き出す。

 車から降りた景色は知らない家のガレージのようだった。そんなに長い時間を車で走ってないはずなので、コブランフィールド、あるいはその近郊の何処かだろう。

「歩け」

 男は家の中に続くドアに向かって顎をしゃくった。

 エラは目に涙を溜めた。

 こんな知らない家に入れられてしまったら、もう逃げられない気がする。

 でも迷っていると男は大声を出した。

「歩けって言ってるんだ!」

「…ひっ……!」

 驚いて男を見れば、車から猟銃のような物を取り出してエラに向けた。

 結局、言われた通りにしか動けない。

 エラは怯えながら家の中に進んでいく。

 家の中は埃を被っていて、家具もなく、どうやら空き家を勝手に使っているようだ。

 どこか、逃げられる所は。

「そこの部屋だ。入れ」

 そろそろと部屋に入ったエラはその光景に目を見張った。

 そこにはどう考えても人を磔にする為の鎖が付いた固い台が置かれていた。

「お……お願い……助けて……」

 涙交じりのか細い哀願は無視された。

 それどころか男はうっとりとした顔でエラの目を見つめてきて、話を全く聞いていない。

「ああ、やっとだ。やっと理想の目が手に入った…」

「理想……?何の、事……」

「二年前は失敗した。君を手に入れようとしたのに、近くに男がいた。邪魔だったから排除しようとしただけなのに……まさか君に当たるなんて」

「に、二年、前?……まさか…」

 あの時の銃撃犯…!?

 という事は目の前の男は緑眼ハンター?

 エラの背中を冷たい汗が滑り落ちた。

 まさか、今から目玉を取られるの……!?

 想像してしまった恐怖に、は、は、とエラの呼吸が短くなるが、男は気にせずに恍惚とした表情を崩さずにエラの目元に触れた。

「ひっ……」

「焦っちゃったんだよ。ごめんねぇ。万能の魔石を作るには生きたままの目でないと意味がないのに。大切な目を殺しかけてしまった。だってすぐにでも手に入れたかったから」

「…め、目なんか、使っても…魔石はできない……!あれは、あれは…ただの伝説で……」

「それからは大変だったなぁ。君が運び込まれた病院は分からないし、警察どころか軍まで動いてたからさぁ……どうしても実験を続けられなくて……仕方なく中断してたんだ。でも今年の冬にやっと見つけたんだ。運命だと思ったよ!テレビで君を見た時は……魔石になりたいんだなってすぐ分かった!」

「ち、ちが……私は……」

 話が通じない。

 同じ言語を話しているはずなのに話が通じなくて悪寒が走る。

「さあ、そこに寝転がって。ああやっと万能の魔石が作れるんだ……素晴らしいね!」

「い、嫌……嫌………!」

 ここに寝転がったらお終いだ。目を抉り取られて殺される。

 でも今抵抗したら男の持っている銃で殺される。

 どうしたら……!?

「寝転がって……寝転がるんだ!早く!」

 恍惚とした表情から一転、男の顔は怒りに染まる。

 もうどうしていいか分からない。逃げたいのに体が、足が言う事を聞かない。逃げる方法を考えたいのに頭は真っ白で何も考えられない。

 私、殺されるの?

「いや……たすけ………」

 助けて……助けて……。

「……アルフィー……!」

 アルフィーに助けを求めた次の瞬間、エラの目の前の空間が歪んだ。

 そしてその一瞬の後、エラと男の間にもう一人の人物が現れた。

 その人の顔を見た瞬間、エラは恐怖に引き攣っていた顔をくしゃくしゃにした。

 エラのよく知る、優しい妖精の月の瞳。

 エラがずっと恋焦がれた人がそこにいた。





 手の中で黒水晶が砕けた。

 ぎゅう、と全身に圧力をかけられたような感覚がして、まさに飛んで行っているような錯覚をする。

 それが終わると知らない場所で誰かが目の前にいた。

 それがエラだと認識した瞬間にアルフィーは自分に今できる最大限の防御魔法を使った。

「お前っ……どこから!?」

 ガチャ、と金属の嫌な音が背後からして、アルフィーは後ろを確認する事なく、咄嗟に目の前のエラを抱え込むと磔台を乗り越えて反対側に飛び込む。

 発砲されたが、最初に張った防御魔法が防いでくれた。

「っ、アル……」

「伏せろ!」

 アルフィーは泣き顔のエラに短く告げて彼女の頭を押さえつけると、二発目の銃弾が台の上を掠った。

 すぐに防御魔法を張って台の上に少しだけ顔と手を出し、三発目を装填している男に向かって風の槍を作り出して飛ばす。

 堪らずに男が風に吹き飛ばされて、部屋の壁に体を強かに打ち付けると、アルフィーは手を空中に向けた。

「《その叡智を示せ》」

 ざあ、と水音がして水のドラゴンが顕現すると、すぐにそのドラゴンを男の元へ向かわせて氷の礫で攻撃した。勿論殺傷能力は抑えてある。

 だが飛んでくる氷の礫に男がギョッとして部屋から逃げ出したので、アルフィーは防御魔法と韜晦の魔法を併用し、警戒しながらもエラの方に向き直った。

 泣き腫らした顔をしたエラは手を結束バンドで縛られており、何度か抜け出そうとしたのか縛られた所が赤くなっていたし、鬱血でもしているらしく少し手の色が悪い。

「…アルフィー…どうして……」

「後で説明する。今はとにかく逃げよう」

 周りを見渡すとハサミがあったので、勝手に借りてすぐにエラの結束バンドを外した。

 ガタッ、と音がしたので二人は音の方を振り返った。

 物音に怯えてぶるぶると震えているエラに、アルフィーは周りを警戒しながら手探りでポケットに入ったスマホを取り出して渡した。

「マテウスに電話して。パスワードは俺の誕生日」

「マテウスさんに?警察じゃ…」

「ここの場所分かる?」

「あ……わ……分かんない…」

「だろ?マテウスなら来られるからさ」

「わ、わかった…」

 自分の背後はドラゴンに警戒させて、アルフィーは周りを見渡すと出口を探した。

 とにかく外へ出なければ。

 出て住宅街だったら、隣家へ助けを求められる。住宅街でなく畑など広い場所なら遠慮なく魔法が使える。

『もしもし、アルフィー?悪いけど今…』

「マ…マテウスさん…助けて…!」

『…エラちゃん?』

 ちら、と影が左手のドアで動いた。

 そちらに目を向けて、銃口を認識した瞬間にアルフィーは爆裂魔法で威嚇した。破裂音に驚いたエラが悲鳴をあげる。

 すぐにアルフィーは反省した。

 魔力で作られた炎でも引火はするので、もし銃の火薬に引火でもしたら暴発する恐れがある。

 というか、銃の中の弾丸に引火ってするのか?

「こんな事なら、マテウスに銃の扱いも学んでおくんだっ……た!」

 ちょっと後悔を口にしていると、男が同じ扉からまた覗いていたので、今度はまた風の槍で攻撃する。韜晦の魔法を使ってもこれでは意味がない。自分で存在を主張しているのだから。

 でも、あいつがそこにいるなら…!

「エラ!そこの窓から逃げろ!」

「え…!?」

「俺が守る!早く!!」

 エラが数瞬躊躇った気配がしたが、すぐに窓に向かって走り出した。

「待て!!」

「通すかよ!」

 気合いと共に今度は先程より大きな氷の礫で攻撃し、同時にドラゴンを操って攻撃させる。

 氷の礫とドラゴンの鋭い水流を壁の影に隠れてやり過ごした男は性懲りも無くまた銃口をこちらに向けた。

「逃すか!」

 また発砲音が響いたが、防御魔法が防いだ。

 それを確認した瞬間にまた新しい防御魔法を張る。

「クソッ!何で!」

 銃弾が当たらない事に男が苛立った。

 対してアルフィーは頭が冴え冴えしていた。

 ーーー攻撃ならともかく、守るだけならそう簡単に負けはしない。伊達に何年も最強(マテウス)相手に鍛えてないのだから。

 また発砲されたが、防御魔法が防いだと同時にアルフィーはドラゴンに命じた。

「ーーー押し流せ」

 水で出来たドラゴンが震えて猫ほどの大きさのドラゴンから多量の水が吐き出され、小さな津波となって男を襲う。

 男の溺れたような悲鳴が聞こえた。

「アルフィー!」

 呼ばれてエラを振り返ると、彼女は窓の外から手を伸ばしていた。

 アルフィーはドラゴンを伴って窓に向かって走り出した。




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