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疑惑の魔石 2

 エラはルークの指導の元、魔石の魔法付与を練習していた。

「要領としては魔力付与と変わらん。送り込んだ魔力で呪文や魔法陣を書く、それだけだ」

「それが難しいんじゃないですか……」

「それは練習あるのみだ。とりあえず、一番簡単な浮遊の呪文を込めてみろ。発動条件は手に握ったものを十センチ浮かす、これだけだ」

「はい」

 エラは水晶を手に取り、包むように石を待って眼を閉じた。その手を通じて己の魔力を石に少量ずつ入れ込み、呪文を石の魔力に書いていく。少しずつ、少しずつ。己の魔力を送りすぎると石の魔力が負けて、石が砕け散る。

 この作業、かなり危ない。石が内側から砕けるので手を怪我するし、飛んだ破片で顔や体を傷つけたり、近くにあった物を壊したりするからだ。

 そして。

「あ」

 エラの声とバリンッ、と音が鳴ったのはほぼ同時で、エラの手の中には砕け散った水晶があった。

 失敗に肺が空っぽになるほど溜息を吐き出す。手も少し破片で切ったらしく、血が滲んでいた。

 エラはもう何回も失敗している。一応、失明だけは洒落にならんから、とルークに言われて目にはゴーグルを掛けているが、手だけは手袋をすると魔力探知の感覚が鈍るので毎回傷だらけになってしまう。

「また失敗……」

「魔力を細く送り込むのは難しいからなぁ。エラは魔力を送る事はできてるんだから、あとは練習あるのみだ。水晶ならいくらでもあるから存分に失敗しろ」

「はぁーい…」

 落ち込みながらも、もう一度頑張ろうと手の中の水晶片をゴミ箱に捨てて、練習用に用意した水晶を一粒取る。

 その時、カラン、と店のベルが鳴った。

「お客さん?」

「見てくるから練習してろ」

 ルークが工房側から店側に顔を出す。さすがに血が滲んでいる手を絆創膏で覆ってからでないとエラは店に出れない。エラは魔法付与の練習をしようと水晶を両手で包みながら目を閉じた。

「何だ、お前さんか」

「こんにちは」

 が、聞こえてきた声が知っている人のものだったので閉じた目を開ける。

 アルフィー?

 どうしたんだろう。エラから古代文字の事で接触する事は多いが、アルフィーからエラに接触する事はほぼないのだ。

 思わずエラは腰を上げて、早歩きで店側に通じる入口に向かった。

「何の用だ?」

「実はちょっと魔石の鑑定を頼みたくてーーーあ、エラ」

「久しぶり」

 ひょっこりと顔を出すと、すぐにアルフィーが気づき、ルークが顔だけ振り返った。

 それよりもエラは『魔石の鑑定』と聞いて心躍った。

「それより魔石の鑑定に来たの?店長、私がやってもいい?」

 エラは魔石を作る工程はまだ一人ではできないが、魔石鑑定はできるようになった。だが魔石鑑定の依頼は稀で、せっかくできるようになったのに、ルークが作った魔石以外で鑑定をした事がなかったのだ。どうしても他人が作った魔石の鑑定をやってみたい。

「やってみるのはいいが、お客様の前でそんな事を言うんじゃない」

「あっ………すみません」

 思わぬ方向からお叱りを受けた。確かにアルフィーが知り合いだからといって、自分の好奇心を丸出しにするのは接客業として良くない。

 叱られて落ち込むと、ルークがまったく、と言わんばかりに溜息をついた。

「アルフィーはエラの鑑定でいいか?エラならタダにしてやる」

 落ち込んだエラだが、ルークの発言に再び目を輝かせた。それはアルフィーさえ許可すればやらせてもらえるという事だ。

「鑑定はできるようになったが、まだ見習いだからな。俺がやるとなると金は取る。もしエラが失敗したら俺がやり直す。その時は金は取らん」

 や、やりたい……!

 破格の条件にエラの魔石工としての向上心と好奇心がむくむくと大きくなる。

 思わずアルフィーを見るとバッチリ目が合った。視線に『やりたいです!』と思いを込めて見つめると、思いが通じたのか、思いっきり吹き出した。ルークも呆れたようにまた溜息をついた。

「エラ…っ……そんなに、やりたいの?」

 喉の奥で笑いながら、本当に可笑しそうにアルフィーに問われ、エラは迷わず頷いた。

「やりたい!お願い!!」

 手を組んでお願いすると、よほど面白かったのか、やっぱり笑いながらアルフィーが了承してくれた。

「あー笑った。エラって本当に魔石好きだよね」

「そりゃ将来は店長みたいな魔石工になりたいから」

 恥ずかしげもなくそう言ってのけ、ルークが少しばかり満足そうにした。

 だが、アルフィーは笑いが引っ込むと「エラが鑑定をやってもいいけど、今回は正規料金払うからルークさんもやって欲しい」と言った。

 エラはきょとんとし、ルークが片眉を上げる。

「エラは見習いだが、鑑定の腕は確かだぞ」

 弟子の腕を補償するルークに、アルフィーは首を振った。

「エラの腕を信用してないわけじゃないんです。ちょっと物が問題で、エラが信用しているルークさんに鑑定して欲しいんです」

 そう言ってアルフィーは鞄から小さな袋を取り出し、ルークが差し出した魔石を置くトレーの中に中身を出した。

 トレーの上には何か模様の入った赤い石があった。大きさ的にはフランマで扱うビーズ状の天然石より少し大きいくらいか。

 それをひょいとルークが摘んで持ち上げ、模様を見てから目を見開いた。

「確かに魔石だが……これは王家の紋章か?」

「え!?」

 エラは驚いて声を上げた。

 王家の紋章入りの魔石は確かにあるし、エラも見た事がある。ただし博物館の中で。

 王家の力が強かった頃は特別な働きをした者に下賜品として与える事があったのだ。そういう下賜品には王家の紋章が入れられていたらしい。今もそんな物を王家は功労がある人に贈ったりするのだろうか。

 魔石は石の中に込められた魔力の量によって持ちが変わってくるが、この大きさなら全く使ってない状態で百年持つくらいだ。魔石の中の魔力は時間経過と共に外に流れ出て消えてしまう。

 だからこれはここ百年以内に作られた魔石だとエラは踏んだ。

「いや、それはティモシー王の紋章だよ」

「何だと!?」

「あり得ない!!」

 ルークは珍しく声を荒げ、エラも同じく大声を上げた。

「あり得ない?」

 不思議そうにするアルフィーにエラの方こそ分からないアルフィーを不思議に思い、説明する。

「あり得ないわよ。だってティモシー王って歴史で習った王様よね?三百?いや四百年前?くらいの北側の国の……」

「そうだよ」

「だからあり得ないのよ!このサイズの魔石は百年もすれば魔力が流れ出て全て消える。ただの石になるのに!」

「エラの言う通りだ。これが本当にティモシー王の魔石で今も使えるなら歴史的大発見だぞ。魔石の常識が覆る」

 興奮する師弟の会話にアルフィーがポカンと口を開け、すぐに額に手を当てて項垂れた。

「……そうだった。魔石は使ってなくてもいずれは普通の石に戻るんだった……」

「気づかなかったの!?」

 アルフィーの呟きにエラが反応すれば、

「言い訳にしかならないけど、普段は魔石使ってないから……魔法には半永続的な物もあるし、すっかり抜け落ちてた……」

 と返ってきて、エラとルークは顔を見合わせた。魔石工からすると常識だが、確かに客の中にはずっと前に買った魔石が使えない、と言ってくる人もいるので、最近魔石に興味が出てきたばかりのアルフィーがうっかりするのも仕方のない事かもしれない。

 だが、アルフィーの事情を知らない師弟にとっては目の前の魔石が摩訶不思議な魔石である事に変わりない。好奇心が刺激される。

「でも歴史的大発見には変わりない」

「そうですね!どんな魔法か鑑定しまーーー」

「待った」

 ワクワクしながら鑑定する気満々だった師弟をアルフィーが止めた。

 何で止めるんだ、と師弟がアルフィーを見れば、アルフィーはさっきまでの情けない顔とは打って変わって、厳しい顔をしている。

「それは絶対に歴史的大発見じゃない」

 そう言い切ってアルフィーは事情を説明した。

 もうこの魔石がティモシー王には関係ない事は確定していた。




この世界における魔法は数学や国語みたいなもんです。誰だって中学生くらいまでの知識はちょくちょく使うと思いますが、高校以上の五教科の知識って、それを使う職業にでもならない限り使いませんよね?私は微分積分なんて忘却の彼方です。古文の活用形も忘れました。そんな感じです。

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