エピローグ
後日、戦争終結を宣言し僕たちは日常へ戻ることになった。
だが、どうやらまだそれで終わりではないらしい。僕はクロノさんに呼ばれ、かつて僕の故郷だった滅びた星へと来た。其処には、クロノさんだけではなくユキさんやブラスも居る。
この星へ来ると、かつて自分の両親だった人達の事を嫌でも思い出す。だけど、それでもきっとそれは忘れてはいけない事なんだろうと思うから。僕は何時までもこの事は忘れない。
そう、忘れてはいけないんだと思う。ここで起きた全てを。悲劇を。
「クロノさん?ここで何を……」
「ああ、少し此処で心残りを払拭しておこうと思ってな……」
「心残り?」
クロノさんは、真剣な表情で頷いた。
「まあ、見ておけ。お前も無関係じゃないから……」
「…………はぁ」
そんな、よくわからない返答をして僕は滅びた星を眺める。資源が枯渇して滅び去った星。もう既に死んでしまった星。その星に、向き直る。
元々、この星はゼノとクロノさん達の間で起きた戦闘による余波で滅びてしまったという。辺境の惑星とはいえ、一つの星を滅ぼしてしまう程だったんだ。決して生半可な戦闘ではなかった筈。
なら、クロノさんの心残りとは?
クロノさんは地面に膝を着き、そしてそのままそっと目を閉じ地面に触れる。そして、乾いた風がその場をひゅうと吹き抜ける。その瞬間、地面から光の粒子が立ち上ってゆく。
「こ、これは……?」
「時間軸から当該惑星の全盛期を解析、時間軸から切り取りコピーする。現時刻へ貼り付け、惑星の再生を開始する。完了」
ほんの一瞬の間だった。クロノさんがよく分からない言葉を発した直後、ほんの刹那の間で一つの惑星が一瞬で再生してしまったんだ。
いや、これは本当に再生なのだろうか?どちらかと言えば、過去から全盛期の星をそのまま持ってきたかのような。そんな感覚がする。
そんな僕の疑念を他所に、クロノさんはふうっとため息を吐いた。
「さすがに初めてだからな、少し疲れたよ」
「ク、クロノさん?これは一体……」
「ん、ああ。俺の元々持っていた異能が時間に関する異能だったからな。今のは過去からこの惑星の最盛期をコピーして持ってきて現在に貼り付けたんだよ」
「……いや、良く意味が理解できませんが。つまりこの星が生き返ったという事ですか?」
「んー、まあそんな所かな?」
そんな滅茶苦茶な。そう思わなくもない。けど、クロノさんに常識は通用しない事なんて最初から理解していた筈だ。
けど、今回の奇跡はこれまでの比ではない。一度死んだ筈の星が、全盛期の姿で蘇ったんだ。
それだけで、十分に驚くべき事なんだろう。事実、それを間近で見ていたブラスも驚きに硬直してしまっているのが理解出来る。
そんな、愕然としている僕を他所にクロノさんはしばらく考え込んだ後で言った。
「まあ、かなり驚くだろうけど。今は置いておいてシイルの故郷が復活したんだ。今日からこの星で一緒に住もう。今度こそ、家族として……」
「あ……」
そう、か。クロノさんは僕の故郷を滅ぼしてしまった事をずっと悔やんでいたんだ。
だから、その後悔を払拭する為にこうして惑星を再生したんだろう。
そう思うと、少しだけ笑みが浮かんできた。
「はは、別に其処まで後悔しなくても良いですよ。クロノさん」
「む?」
クロノさんは怪訝そうな顔で僕を見る。そんな彼に、僕は満面の笑顔で言った。
「あの時、僕が空腹で倒れていた時にクロノさんとユキさんが優しく手を差し伸べてくれた。握り飯をくれた時のあの笑顔だけで、僕は救われていたんだ」
「…………」
「あの時から、僕にとってクロノさんとユキさんは僕にとってもう一人の両親だったんだ。だからそれこそが僕にとっての全てだよ」
「……そう、か」
そう言って、クロノさんは笑った。ユキさんも笑っていた。ブラスはよくわかっていないようだったけどそれでも苦笑を浮かべていた。
そして、僕も満面の笑みで笑っていた。
きっと、それこそが全てなんだ。そう、僕は結論付けた……




