6,星の恒常性
「どのような力を手にした所で、私の力の前では―――」
そう言い、ブラスが力を解放した。だが、何も起こらない。その事実に当のブラス本人が驚きに目を見開いた。まあ、それも当然だ。
今の僕は星々の力を宿す。云わば星の代行者だ。故に、その力は銀河にすら匹敵する。
もちろん、それだけではこれまで幾つもの銀河を捕食してきた超生物であるブラスにはもちろん通用しないだろうけど。
其処にももちろん秘密がある……
「一体、何をしました?」
「今の僕は星々の代行者だ。そして、今のは星の恒常性に基づいた異能の無力化だ」
「異能の、無力化……?」
そう、あらゆる異能を無力化させる星の恒常性。それは即ち、星の自浄作用でもある。
惑星自体に存在する星の環境を一定に保とうとする自浄作用。それを応用する事で、異常な力を排除しようとする働き。それこそが、星の恒常性だ。
ホメオスタシス。星の意志たるガイアの持つ、星の環境を保全する力。人間が科学の発達とともに手にした異能とは全く異なる力。あまねく全ての生命の母たる星ガイアに許された、環境制御能力の極致とも呼べる最上位権限。
人の持つ異能ではなく、星の異能だ。
その強大無比な力に、ブラスは大きく動揺する。その一瞬を、僕は見逃さない。
「ああああああああああああああっ‼‼」
「っ、く‼」
ブラスに向けて真っ直ぐ突撃する僕。それに応戦するように、ブラスは僕に腕を伸ばす。
だが、そんなブラスを掠めるように一発の弾丸が通る。呆然と僕を見つめるブラス。いや、彼女が見ているのは僕ではない。僕の背後に寄り添う一人の幻影……
その幻影に、僕は薄く笑みを零す。
「ああああああああああああっ‼‼」
そして、僕の手がついにブラスへ届いた。
・・・ ・・・ ・・・
「……………………」
「……………………?」
恐る恐る、ブラスが目を開く。ブラスは無事だ。何処も怪我はしていない。
当然だ、僕はブラスに一切攻撃を加えていないのだから。
そっと、ブラスを抱きしめる腕に力を籠める。
「なんの、つもりですか?」
「この戦い、僕の勝ちだ。だから、もうこれ以上戦う必要はどこにもないだろう?」
「それは……」
ああ、分かっている。僕は結構都合のいい事を言っている。これだって、僕がわがままを言っているに過ぎないから。
でも、僕はそれでいいと思っている。
僕はそれでいい。結局のところ、僕は暴力で相手を従わせるのは向いていないんだ。
だから……
「もう、此処で全て終わりにしよう。戦争遊戯なんて、もうこれで終わりだ」
「……………………」
まだ、納得できない様子のブラス。だが、其処で背後から声が掛かった。
「そう、これでもう戦争遊戯は終わりだ」
「……クロノさん。ユキさん」
其処には、クロノさんとユキさんが居た。いつの間に、というのはここでは意味を成さない。
此処は科学的に再現された、根源世界だ。物理的な空間構造は意味を成さないだろう。
「……遠藤クロノ、しかし私は」
「ゼノからの伝言だ。ブラス、お前は生きろ」
「―――っ!?」
「お前は生きて、また俺が復活する時まで生き続けろ。それが奴の伝言だ」
「……………………分かり、ました……」
僕の腕から解放されたブラスが、膝から崩れ落ちる。どうやら、もう戦闘の意思はないよう。
そうして、戦争遊戯はあっけなく終結を迎えた。だけど、それでも得るものはあった。
僕もクロノさんも、そしてユキさんもこれで本当の家族になる事が出来たのだ。
それで、良かったんだと思う。




