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”豊穣”を冠する後継の勇者  作者: ネツアッハ=ソフ
王国~アドナイ・メレク~
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5,星の女王

 其処(そこ)は、一言で表現すれば神殿(しんでん)だった。果ての見えない広大無比な、機械仕掛けの神殿。


 そう、機械仕掛けの神殿の中央にその青年は一人()していた。神殿の中央、青年が一人玉座に座すその姿はまさに神域を()べる神の如き様相だった。


 そして、その例えはあながち間違(まちが)いではない。そう、この神殿は文字通り機械仕掛けの神域でありこの青年の保有する領域だった。青年、ブラス=スペルビアの保有(ほゆう)する概念兵器。


 数ある概念兵器の中でも、最大にして最高位。究極にして至高の兵器だった。


 其処は一種の超次元空間だ。根源(ゼロ)から切り離された、根源とは一切関係を持たない空間。


 それこそが、この機械仕掛けの神殿の本質(ほんしつ)だ。


 そして、その玉座(ぎょくざ)に腰掛ける青年。白髪に青い瞳の童顔、そしてそこそこ高い背丈の身体に白衣を纏いその美貌に笑みを浮かべている。その姿は、背筋が(こお)る程に美しい。


 まるで、一枚の絵画から抜け出したような神秘的な容貌(ようぼう)だった。


 ブラスは笑みをその顔に張り付けたままおもむろに口を(ひら)いた。


「はじめまして、とでも言いましょうか。私の名前はブラス=スペルビア、この神殿の領主であり世界の敵とでも名乗りましょうか。遠藤クロノに白川ユキ」


 青年、ブラス=スペルビアはにこやかに笑みを浮かべてそう()げた。


 その先には、二人の人物が。遠藤クロノと白川ユキの二人だ。


 クロノは決して油断する事なく、視線をブラスから離さないまま言った。


 ブラスはにこやかに笑っている。しかし、クロノの直感が一切の油断や慢心を(ゆる)さない。


 クロノの(ほお)に、冷や汗が一筋。


随分(ずいぶん)とまあ規模のデカい概念兵器だな?これは、云わば人工的な根源世界か?」


「ご明察(めいさつ)。ですが、そのプロトタイプとも呼べる存在がすぐ(となり)に居るじゃないですか」


「………何?」


 心底驚いた表情で、クロノはユキの方を見た。ユキも、目を見開いて愕然(がくぜん)とする。


 その表情に、ブラスは満足(まんぞく)したように頷いた。そして、そのまま話を続ける。


「そもそも、星のアバターとはこのために()み出された存在でしょう?いや、そもそもは根源たる零へと反逆する為に。いやいや、そも地球という惑星(ほし)を根源から切り離すというコンセプトから無価値が生み出した生体兵器なのですから」


 無価値が生み出した。その言葉に、クロノははっとする。


 星のアバター。それは白川ユキが保有している異能の名前だ。それ故、その名前で彼女を呼ぶ事自体はなんらおかしな話ではないだろう。しかし、無価値となれば話は別だ。


 その名は歴史が改変(かいへん)された事により、歴史そのものから()かった事になった筈だから。


 なのに、ブラスは知っている。それはつまり、この神殿がそのような機能(きのう)も保有しているという何よりの証明だろう。つまり、改変前の世界の記憶(メモリー)すら再現しているという事になる。


「お前、一体何処(どこ)まで………」


「何処までも知っていますよ。私はこの神殿の(おう)なのですから」


 そう言い、ブラスは(おだ)やかに………しかし他者からすればぞっとするような美しく淡泊な笑みを浮かべその真実を話し始めた。


 かつて、無価値という魔物が星のアバターを生み出したその真実(しんじつ)を。


          ・・・・・・・・・


「ジンが、ユキさんを(つく)った?」


「いや、正確(せいかく)には俺がまだ無価値の魔物だった頃、彼女の父親として生み出した生体兵器の内その一体であり完成体だけどな?」


 生体兵器。その言葉に、僕は思わず驚きに目を見開(みひら)いた。


 ジンによる精神鍛錬の最中。僕はジンから彼が魔物だった頃のエピソードを聞いていた。


 そして、そのエピソードに白川ユキが(かか)わっている事も………


 ユキさんが星のアバターという環境操作の異能を保有している事は知っている。その異能が惑星規模の出力を誇るのも僕は聞いている。


 しかし、その星のアバターに生体兵器という背景(はいけい)があったのは知らなかった。


何故(なぜ)、そんな事を………?」


「理由はまあ、言ってみれば根源への復讐(ふくしゅう)反逆(はんぎゃく)かな?」


「復讐と、反逆?」


 僕の言葉に、ジンは(うなず)いた。


 その表情には、若干の(にが)みが含まれている。


「俺のオリジナルとなった人間はな、根源が原因で恋人を()くしていたのさ。だから、その根源に復讐する事を決めその反逆ののろしとして魔物へと(いた)った」


 そして、とジンは言って更に()げた。


「そして、その更なる一手(いって)として生み出したのが星のアバター。白川ユキだ」


「ユキさんが、根源への反逆の一手に?」


 そうだ、とジンは頷いた。


 ユキさんの異能は星のアバター。その力は云わば惑星規模の環境操作能力だと()いている。


 だけど、ジンの言い方だとそれ以外にもある気がするのは何故か?


 その疑問(ぎもん)に、ジンは答えた。


「彼女の能力は惑星規模の環境操作能力だ。しかし、本当にそれだけか?」


「……と、言うと?」


「星のアバターは、応用すれば神話(しんわ)の世界法則を再現してそれを現実に適応可能だ。それほどの力が惑星規模の環境操作能力なんてものの付随品(ふぞくひん)だと思うか?」


「つまり、そうではないと?」


 僕の言葉に、ジンは(だま)って頷いた。


 つまり、そうではないらしい。


「つまり、だ。彼女の能力は本来それこそが本質(ほんしつ)だったって事だ。その能力により、地球という惑星を根源から切り離された別次元へと変質させるのが本来の目的(もくてき)だったのさ」


「それ、は………」


 かなり壮大な計画だったらしい。()たして、ジンは何を思いその計画を進め何を思い自分の娘を生体兵器になんて転用(てんよう)したのだろうか?


 分からない。分からないけど、それでもこれだけは言えた。


 きっと、ジンは後悔(こうかい)しているのだろう。


 計画を進めていた当時こそ、一切の後悔や迷いなんて無かっただろうけど。それでもオリジナルが救われ魔物としての自身が存在意義を失った時、初めて後悔を(いだ)いたのだろう。


 だからこそ、僕の鍛錬に付き合う事で(わず)かでもその罪を清算しようとしているのだ。


 そんな彼に、どう声を掛ければ良いのか?さすがに今の僕には()からなかったけど。


          ・・・・・・・・・


 そして、場面は(うつ)り変わり再び機械仕掛けの神殿へ。


「オロチ、ツチグモ、セイテンタイセイ、チェシャ、ゲオルギウス、五体の習作を()て生み出された生体兵器の完成体こそが星の女王(じょおう)、星のアバターですよ」


「っ、な…………」


「あ、っ………え?」


 話を聞き終えたクロノとユキは、共に言葉を失っていた。驚きに愕然と目を見開き、そしてただ呆然と口を開いては閉じるだけだった。


 そんな二人に対し、そっと玉座から立ち上がったブラス。


 そして、そのままクロノとユキに対して手を()し伸べ告げた。


「さあ、答えを聞きましょう。遠藤クロノに白川ユキ、我が軍門に(くだ)ってください」


 それは、丁寧(ていねい)に言っているようでそれでいて一切の拒否を許さない覇者(おう)からの勅令。


 その笑みは、一切の拒否拒絶を許さない覇気(はき)に満ちている。しかし………


 その言葉に、意識を何とか持ち直したクロノとユキは共に表情を引き締めブラスを(にら)む。


 そして、その手に各々の武器を顕現(けんげん)させ構えた。


 クロノは灼熱の炎を纏う漆黒(くろ)の太刀を。ユキは神雷を纏う金剛杵(ヴァジュラ)を。


「残念ながら、それには(こた)えられない。俺は帰るべき場所があるんだ」


「私も、貴方と(とも)には行けない」


 その言葉に、ブラスは笑みを浮かべた。その表情には、残念そうな色は一切無い。


 むしろ、嬉々(きき)とした………危険(きけん)な色を含んでいた。


「そうですか、残念です。では、私も武器(ぶき)を取りましょう」


 そう言って、ブラスはその手を()るった。その手には、何時の間にかブラスの背丈ほどもある巨大なデスサイズが出現していた。


 漆黒の、常に()を滴らせた不気味極まりないデスサイズ。それを手にブラスは笑う。


 否、(わら)う。


「では、貴方たちの()を以ってこの宇宙全土に宣戦(せんせん)を布告しましょう」


 瞬間、クロノとユキVSブラスの戦いが幕を()けた。


 この戦いは、一瞬で幕を()じる事となる………

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