4,暴食暴走
僕とブラスの戦いはより激しさを増してゆく。僕の持つ豊穣の異能により生み出された霊体の大樹や異形の群れが、ブラスへ襲い掛かる。だが、それ等全てをブラスは一瞬で捕食する。
互いにまだ、一切の手傷は負っていない。だが、それでも疲弊はする。僕もブラスも既に疲弊の色が濃厚になってきている。
さて、どうしたものか?まだ切り札を切るには少しばかり早いだろう。そう考えていると。ブラスがはたと動きを止めた。何だ?
それにより、一瞬で異形と大樹が殺到するがブラスはそれを軽々と避ける。
「……そう、ですか。彼が、ゼノが敗北しましたか」
「……?っ‼」
瞬間、ブラスの存在感が一瞬で肥大化した。そう錯覚する程の強烈な殺意。だが、それ以上にブラスの存在感が増大した瞬間、僕の身体に無数の斬撃が走った。
いや、それだけではない。斬撃が走った直後、僕の身体を炎が纏わりつく。
あまりにも鋭い斬撃。そして、全てを焼き尽くすが如き炎。
高温の炎が僕の身体を焼いていく。だが、僕はその炎に自身の生命力を流し込むことにより逆に掌握して異形の魔物へと変化させる。
お返しとばかりに、炎の魔物をブラスへ返す。だが、それをブラスは一瞬で切り刻んだ。炎の魔物は一瞬にして消滅した。
しかし、今の攻防により僕は疑問を感じた。
どういう事だ?ブラスの異能は暴食の筈だ。捕食以外の攻撃なんて出来ただろうか?
それとも、この土壇場で新たな異能を発現したとでも?いや、ありえない。
そんな疑問を考えていると、ブラスは鬼気迫る表情で宣言した。
「もう、何もかもどうでもいい。ゼノが居ないなら、全てを滅ぼして終わらせる」
「―――っ!?」
瞬間、圧倒的なまでの水が僕へ殺到する。圧倒的な大渦が、僕を押し流す。抗う事すら叶わずに僕はただ流されてゆく。
無論それだけではない。水の勢いが治まったと思った瞬間には、無数の斬撃が僕へと走る。鋭い斬撃が僕の身体を切断せんと襲い掛かる。
続いて、全てを焼き尽くさんばかりの業火が僕へと纏わりつく。
水、斬撃……炎?調理?まさか……
「まさか、お前のその技。調理か‼」
「今更分かってももう遅い!全てを滅ぼして、終わらせる‼」
「……くっ‼」
そう、先ほどの攻撃は調理に分類される攻撃なのだろう。恐らく、暴食の異能から派生した技なのだと思われる。
水は食材を洗う工程を、斬撃は包丁で切る工程を、そして炎は焼く工程を表している。つまりは全てを喰らう為に調理するという過程を挟む行為だ。
生きる為に他者を捕食するという概念は人類が現れる以前から存在した古い概念だ。だが、より安全に美味しく捕食する為に調理するのは人間だけだ。
つまり、人間が人間であるという証明の一つであり業の一つだ。
さて、このままでは流石に僕がやられてしまうな。けど……
まさか、此処で使う羽目になるとは……
そうして、僕は切り札を切ることにした。




