3,英雄の所以
さて、此処で遠藤クロノの真の異能。星の英雄に関して語ろう。
遠藤クロノの異能、それは反エントロピーの生成と完全制御だった筈だ。では、星の英雄とは一体何なのか?真の異能とは一体どういう意味なのか?
そもそも、遠藤クロノが反エントロピーの生成と完全制御を司る異能を手にした背景には遠藤クロノの身体に宿っていた潜性遺伝子が関係している。
遠藤クロノの潜性遺伝子がクロノの異能の発現に関与しているのなら、本来クロノが潜性遺伝子に関係なく発現していたであろう真の異能がある筈だ。
即ち、潜性遺伝子に関係しないクロノの本来の異能こそが星の英雄という事になるだろう。
遠藤クロノが心から望んだ力の形。遠藤クロノの真の英雄性。
それこそが、星の英雄。その能力とは、神羅万象全ての生命あるものの受け皿であり器。全てを背負い全てと共に永劫を歩み続ける英雄としての宿命。
星を背負う者。それこそが、遠藤クロノの異能の真価だ。
相手の目を見て、声を聞き、全てを背負う英雄としての星辰。
相手の全てを知り尽くし、理解して心を繋ぐ。理解した相手の情報体を構築し、その情報体の入れ物として自身の魂そのものへ保存する。
構築された情報体は本体と等しい為、本体と時間と空間を超えた繋がりが発生する。云わばペアリングという奴だろう。それにより、遠藤クロノは個にして全なる存在となる。
そして、遠藤クロノは自身が理解した相手に対し完全な耐性を獲得する。
というより、クロノが理解し繋がりを持った相手から傷つけられないという特性を持つ。それこそが遠藤クロノの纏う特殊な概念の正体である。
そして、遠藤クロノは他者を救う為ならその過程で剣を交える事を躊躇しない。
更に言えば、相手を知り尽くすという性質上理解した相手に対して特攻能力とは似て非なる力を遠藤クロノは獲得する。それこそが、ゼノがクロノ達の戦力が大幅に向上したと感じた正体だ。
遠藤クロノの異能に炎が深く関係している理由。それはつまり、仲間たちと共に何処までも駆け抜けたいという遠藤クロノの精神性が関与している。
それは即ち、遠藤クロノの精神性が炎と強い親和性があったという事実だ。
……だが、此処で一つ問題点が存在する。
相手のことを理解し尽くすという特性上、その過程で偏見や独自解釈が混ざってはいけないという裏の事情がある。それはつまり、相手のことを理解する過程で独自解釈や偏見が混ざった時点で自身の内へ保存した情報体が完全でなくなり、ペアリングが上手くいかないという事だ。
つまり、逆説的に言えば遠藤クロノの理解力や解析能力は相手の内面を全て独自解釈や偏見を挟まずに見ることが出来るということに他ならない。
それがどれほど凄まじい事なのか?言わずとも理解出来るだろう。
本人ではない他者が観測をする以上、其処に独自解釈や偏見が混ざるのはある程度仕方がない事なのだろう。人の数があればその数だけ、物の見え方や感じ方に違いが生じるのも仕方がない。
それ故に、人の世は多様性が生まれたのだろう。
では、その他者の視点を一切の独自解釈を挟まずに観測する事が出来る遠藤クロノの視点をどう形容したものだろうか?それは、まさしく超越者の視点と形容すべきだ。
ましてや、遠藤クロノは他者の視点や主観を一切の独自解釈を挟まずに観測しながらも明確に我を通している。他者の主観を深く観測しすぎれば、それに呑まれてしまうのは自明にも関わらず。
遠藤クロノは明確に我を保っている。それが一体どれほど困難なのか?言うまでもない事だ。
あるいは、それこそが遠藤クロノが英雄たる真の所以なのかもしれない……