エピローグ
「さて、積もる話もあるだろうけど先ずはこっちから先だな」
そう言って、クロノさんとユキさんはブラスの方を向いた。ブラスは相変わらず、地に膝を着いたまま顔を伏せて沈黙している。どうやら、今のでかなりの大ダメージを受けたらしい。その回復には少しばかり時間が掛かるようだ。
そんなブラスに、クロノさんは鷹揚に語りかけた。
「……どうだ?俺たちとしては、もう此処で降参して投降してくれれば嬉しいんだが」
「……そんな、事。私たちが―――」
「俺たちがするとでも?」
高々と空間に鳴り響く声。
瞬間、ブラスと僕たちの間に割って入るように一人の少年が現れた。不吉な死神の如き気配を纏って現れたその少年を、僕は知っている。
そう、あの銀河連合の大艦隊を一瞬にして沈めた張本人。ブラス=スペルビアと共に、すべての宇宙に戦争を仕掛けた本当の意味での黒幕。精神生命のさらに先へと進化を果たした、この世の超越種とでも言うべき存在。
死神ゼノだ。
「ゼノ……」
「よう、ブラス。なかなかピンチのようだな?どうだ、此処は俺に任せてお前は退くか?」
「いえ、私もゼノと肩を並べるべくして此処に立っているのです。そんな私が少し追い詰められた程度で退くわけにはいきません。私にも戦わせて下さい……」
気丈に言い放ち、ブラスは立ち上がる。
ブラスのその言葉に、ゼノは笑みを浮かべる。どうやら、彼らの戦意はまだ消えてないらしい。
なら、僕だって。クロノさんとユキさんの息子として戦う覚悟を決めるべきだろう。
英雄の後継者として……僕が僕らしくある為にも……
「クロノさん、ユキさん、ブラス=スペルビアの相手は僕に任せて下さい。二人はどうかゼノの相手をよろしくお願いします」
「……やれるか?」
「はい」
「うん、じゃあシイルも気を付けて。無理だけは絶対にしないでね?」
そう言って、クロノさんとユキさんはゼノと向き合った。そんな二人に、ゼノは心底楽しそうな笑みを浮かべて真っ直ぐ視線を向けている。
「何だ?お前たちが俺の遊び相手か?」
「ああ、俺たちがお前の遊び相手だ。相手してやるよ」
「今度はあの時みたいにいかないよ?」
「へえ?そりゃ楽しみだ」
ゼノは凄惨な笑みを浮かべ、指をぱちんと弾く。瞬間、ゼノとクロノさん、そしてユキさんはその場から消失した。どうやら、別の場所に転移したらしい。
その場には、僕とブラスの二人が残される。ブラスはすでに、準備を万端に整えているよう。僕だって戦意は十分だ。既に、覚悟は決めてきている。
それに、準備もすでに万全だ。
「さあ、そろそろ僕たちも戦おうか」
「はい、そうですね。改めて、貴方を喰らい、その魂の輝きを私の中で永遠に」
「僕は、戦いの中で君と……君たちともっと分かり合いたいよ」
「では……」
「じゃあ……」
そして、僕とブラスは互いに身構えて。そして、一瞬で意識を切り替えた。
「行くぞっ‼」