3,クロノからのメッセージ:下
「こんなモニター越しでしか話せない事を、まずは謝罪しようと思う」
そう、モニター内のクロノさんは沈痛な面持ちで語った。モニターの向こうではそんなクロノさんをユキさんが不安そうな表情で隣に寄り添っている。
けど、それでもクロノさんは覚悟を決めたのか表情をきゅっと引き締め真っ直ぐこちらを見た。
「この映像を見ている頃には既に知っているかもしれない。俺がシイルの故郷である惑星が滅びた原因の一端を担っている事を……それも謝罪しないといけないな」
「———っ⁉」
クロノさんの言葉に、改めて僕は息を呑んだ。そう、きっとクロノさんはずっとそれを僕に謝罪したかったのだろう。ずっと、僕に対して負い目を感じていたのだろう。
けど、同時にそれだけでは無かった筈だ。僕とクロノさん、そしてユキさんとの毎日は決して辛い事ばかりではなかった筈だ。事実、僕もクロノさんもユキさんもずっと楽しかった筈だから。三人ともその暮らしに満足していた筈だから。
けど、だからこそ同時に辛かったのも事実なのかもしれない。
僕達の毎日が充実していたからこそ、負い目が肥大化していたのかもしれない。ああ、だからこそクロノさんは僕に言い出せなかったのか。
「けど、それでもお前との毎日が幸せだったのは嘘ではない。決して嘘なんかじゃないんだ。俺はお前の本当の親ではない。むしろ、俺がお前とお前の親を引き離した一因なのかもしれない。でも俺はそれでもお前の事を実の子供のように愛していた」
「———っ、私も!私もシイルの事をずっと愛していたよ。クロノ君も、私も、ずっとシイルの事を実の息子のように愛していた。それは絶対に変わらない!」
耐え切れないように、ユキさんが言った。
分かっている。僕だって、クロノさんとユキさんの事を実の親のように愛していた。実の親のように慕っていた。幸せだったのは変わらない。それだけは嘘ではない。
「ああ、本当はこんな事は自分の口で面と向かって言うべき事だった筈だったんだがな。それをこんな映像越しでしか話せないのは俺自身の未熟さ故だろう。本当に済まない」
そう言って、クロノさんは頭を深く下げた。ユキさんも、一緒に頭を下げていた。
やはり、根は誠実なのだろう。クロノさんもユキさんも、本当はずっと負い目を抱えて生きていた筈なのに。それでも、こうして映像越しとはいえ謝るのは二人の誠実さの現れだ。
ずっと苦しかったのだろう。ずっと辛かったのだろう。そんなものを抱えて、ずっと僕と一緒に過ごしてきたのだろう。
でも……きっと同時に幸せだったのも嘘ではないのだろう。それだけは、本当だった。
「こうして、この映像がお前の許に届いているという事は俺達は敗北したのだろう。けど、只で俺達も敗北するつもりはない。時間が掛かるかもしれないが、復活の目処も立っている。だから、心配しないで欲しい。帰ったら、きっとまた面と向かって話し合おう」
「最後に一言、私もクロノ君も貴方の事を愛しているよ。だから、また必ず会いましょう」
そう言って、映像は其処で途切れた。どうやら、それで終わりらしい。
僕は、万感の想いを噛み締めて一言だけ告げた。
「僕も、僕だってクロノさんとユキさんの事を愛していました。二人は僕にとって、第二の親だと確信しています。ですから、また必ず会いましょう」
必ず、絶対に―――




