5,緊急議会~終幕~
「無からのエネルギー抽出、だと……?」
そのあまりにも突拍子のない話に、大統領ですら絶句していた。それもそうだろう、無からのエネルギー抽出は原則的に不可能だ。それは熱力学の第一法則に真っ向から反している。
だが、ヤスミチさんの表情には反論を絶対に許さないという気迫すら感じた。一体何が其処までの気迫を生み出すのだろうか?分からないけど、ともかく彼からすれば可能らしい。
ヤスミチさんは、絶句する首脳陣を無視して話を続けた。
「皆の疑問も分かる。だが、此処は話しを聞いて欲しい。クロノの想定していた未来では、どの道科学技術の発展と共に無からエネルギーを生み出す必要が必ず出てくるらしい」
「と、するとそれほどの大規模なエネルギーが必要となる時代が来ると?」
「その通りだ、クラウン代表。手記の内容によれば、その時代では全人類が個人単位で宇宙の創造主と成りえる時代となるらしい。無からエネルギーを生み出す技術、それはつまり無からのインフレーションによりビッグバンを引き起こす技術という事だ」
「……なるほど?凄まじいな」
クラウン代表の頬には、冷や汗が流れ落ちている。どうやら、予想した以上にかなり凄まじいレベルの技術らしい。
まあ、確かに無からエネルギーを抽出して宇宙を創造するとなると凄まじいだろう。
そして、どうやらその技術の要となるのが架空塩基らしい。
「架空塩基には意思の力で物質世界を掌握する力がある。その技術の到達点が物質界における各種エネルギーの変換だ。そのエネルギーの変換技術の発展形こそが無からのエネルギー抽出らしい」
「…………そう、か。話は理解した。で、その話は今回の緊急議会にどういう意図をもって持ち込んだ話なんだ?もちろん、相応の意図があるんだろう?」
大統領が、意識的に話の内容を切り替えた。これ以上この話を続けるのは現状危険と判断したのかもしれない。ともかく、話を強引に軌道修正した。
そして、当然それはヤスミチさんとて承知しているようだ。至極真面目な表情で頷いた。
「分かっている。俺もいたずらに会場を混乱させる為にこの話題を振った訳ではない。もちろん相応の意図があってこの話題を振ったんだ」
「それは?」
「……今回の事件の黒幕、ゼノと名乗る男が引き起こそうとしている全宇宙規模の大戦争。それにより全ての宇宙は文字通りに滅びの危機に立たされている」
その言葉に、会場は困惑によりざわついた。当然、クラウン代表も困惑を隠せずに問い返す。
「滅び、だと?」
「そうだ。この宇宙だけではない、文字通り全ての宇宙がゼノ一人によって滅びの危機に立たされているんだよ。ゼノの保有する異能、死の異能によって」
「死の、異能……?」
思わず、僕の呟いた言葉にヤスミチさんは端的に頷いた。
そう、死の異能だ。奴の保有する異能は死だ。始めたゼノに会った時、死神を連想したのは決して偶然でも錯覚でもない。文字通り、奴は死神だったのだ。
死を司る、超越種。人知を超越した者。個で世界に死を運ぶ者。
「それを乗り越える為には必要なんだよ。人類が人類として、次のステージに上がるのは」
そう、ヤスミチさんは話しを締め括った。
そう、今の人類は二つの道を提示されている。滅びか、次のステージへ進むか。
僕達は選ぶ時が来たのだろう……




