4,緊急議会~人類の進む果て~
「……クロノさんの残した手記、ですか?」
「うむ、お前がクロノの息子だな?前々から会いたいと思っていた」
そう言って、ヤスミチさんは席の一つにどっかりと座った。そして、手に持った手記を開きながらその内容を手短に話し始める。
クロノさんの残した、手記の内容を……
「で、だ。肝心の手記の内容だが、簡単に要約すると我々人類がこの先進むべき進化の果てについて言及されているんだ」
「我々人類の進むべき進化の果て、だと……?」
キングス大統領の怪訝な声に、ヤスミチさんは首を縦に振った。
人類の進むべき進化の果て。それはつまり、今後僕達人類がどのように進化するのかクロノさんはあらかじめ予測していたという事になるだろう。
なら、この手記の意味する所とは……
「つまり、その手記の内容次第では今此処に居る我らは人類として。霊長として次のステージへと早急に進めるという事になるのかね?」
「ああ、端的に言えばそうなるな」
クラウン代表の言った問いに、ヤスミチさんは平然と答えた。平然と答えてはいるものの、ヤスミチさんの言及した内容はそう単純なものではないだろう。何故なら、霊長として次のステージへ早急に進めるという事はつまり、未来への道が開けたというに等しいからだ。
人類とは生きているだけで先へと進み続けるもの。そう、かつてクロノさんが言っていた。
生きている以上、人類は先へ進み続けるしかない。先へ進めなければ人類に待っているのは滅び以外の何者でもないからだ。故に、人類とは生きている限り先へ進むしかないのだと。
そう、クロノさんは言っていた。
そして、当然それは今回の議題と無関係ではないだろう。
だからこそ、こうしてヤスミチさんは議会に手記を持ち込んだのだろうから。
そして、その話に興味を抱いたのは当然クラウン代表だけではない。他の代表達ももちろん全員興味を抱いているようだった。
「まあ、肝心の手記の内容だが。要するに架空塩基の技術の発展と変換技術の発達が今後の課題になってくるらしいな」
「……文明の発達には、それに伴う膨大なエネルギー量が必須となるだろう。つまり、変換技術の発達とはそのエネルギー変換の事を示しているという事か?」
「そうだ。架空塩基により進化した人類は、個人で星のエネルギーを掌握可能だ。より厳密に言えば架空塩基という人工因子により人類がかつて利用していた全てのエネルギー資源は統合されて過去の遺物と成り果てたという」
「ああ……主に電力、水力、風力、火力、太陽光、石油、原子力などのエネルギー資源は架空塩基の登場により過去の遺物と成り果てた」
クラウン代表の補足した通り、架空塩基の台頭によりかつてのエネルギー資源は過去となる。
架空塩基とは、精神の波により物質界へ干渉する為の高次因子だという。つまり、それにより精神の波がそのままエネルギー資源となるだけでは当然ない。
精神の波により干渉される事により、物質界におけるあらゆるエネルギー資源は統合されて一つのエネルギー資源として運用されるに等しい。
かつて、とある物理学の権威が言った質量とエネルギーの等価性。
その物質的エネルギーが精神という新たな手法により掌握されるに等しいのだという。
「そう、そして架空塩基により進化した人類はその力により個人で銀河全体のエネルギーを掌握する事も決して不可能ではないのだと。そう書かれている」
「何だと?」
個人で銀河全体のエネルギーを掌握する。それは言葉で言うよりも遥かに壮大だろう。
それこそ、人類がすぐにでも次のステージへと文明を発展させることだって不可能ではない。
だが、其処でヤスミチさんは首を横に振った。
「だが、クロノの奴が想定していた人類の進化はもっと先にあるようだ」
「……人類の、進化?」
思わず呟いた僕の言葉に、ヤスミチさんは端的に頷いた。
「そうだ。それこそが、変換技術による無からのエネルギー抽出だ」
そう、とんでもない事を語った。