1,手記の内容より:前
以下、此処に真実を記す……
俺は此処とは異なる別の宇宙から来た、異なる文明に属する人類だ。同じ多元宇宙内に属する別の宇宙という訳ではない、全く異なる多元宇宙系より来た全く異なる文明の者だ。
とはいえ、別に自分を人外の異種族であると言っている訳ではない。自分が人類というカテゴリに属している事までは否定しない。あくまで、異なる宇宙文明に属する人間という事だ。
俺の所属していた文明は幾つもの宇宙を支配するに至った、云わば多元宇宙文明だ。
しかし、あくまで一つの多元宇宙内にある限られた宇宙を支配しているのみだ。そんな中、俺は全く異なる多元宇宙の存在に気付き、そして進出した唯一の人間という事になる。
他者からは天才と呼ばれる事もあった。まあ、実際それだけの事をした自覚はある。
とはいえ、異なる多元宇宙に気付けたのは切っ掛けがある。遠藤クロノの存在だ。
どうやら、彼が宇宙の根源においてある種の創造主と戦った時、その余波ともいうべき事象を俺は観測するに成功した。その余波の規模から察するに、どうやらその戦闘は根源世界すら破壊しうる規模の大戦であったらしい。
それを、偶然にも観測に成功した俺は一種の歓喜に震えた。
喜びのあまり、絶叫すら上げたさ。
何故なら、世界は自分の考えている以上に無限の可能性に満ちている事になるから……
世界はお前の思っている以上に広いと、そう断言されたと思ったから。
ああ、だからこそ俺は此処に誓おう……俺は、この広大無辺に広がる宇宙を遊び尽くそう。
全ての宇宙をあまねく超越し、根源たる零すらも超越し、世界の全てを徹底的に……
そう、徹底的に味わい遊び尽くそうと。たった一つの取りこぼしもしないと。
俺は誓おう。
・・・・・・・・・
そして、それから俺はあらゆる宇宙を回った。あらゆる宇宙を回り、あらゆる宇宙を渡り、そしてあらゆる人物と出会った。
異なる宇宙、異なる文明、異なる人類、そして異なる心……
あらゆるものに触れ、そしてその中で俺は全てを遊び尽くしていった。
最初に違う多元宇宙系へ渡った時、俺は既に気付いていた。世界の在りようを、根源にて全てを創造した存在が真に求めていた事を。俺は理解し最初の進化を果たした。
創造主は、究極の多様性を求めていたんだ。究極の多様性、或いは無限の可能性。
何も存在しない無ではなく、在るを求めていたんだろう。
違う多元宇宙系の別宇宙を見て、俺はそれを感じ取った。
故に、宇宙で生まれたあまねく人々は何者にもなれる。それでいて、自分はこうだと個性を主張する事で強固な自我を持つ事を許されている。
創造主が何を思い、何ゆえにそれを願ったのかは知らない。どのような怒りを経た結果、世界を創造したのかは知りもしない。
だが、これだけは理解出来る。全ての宇宙は心を重視している。心の在りようこそ、この宇宙で最重要な事象なのだろう。それはきっと、創造主がそれを望んでいたからというのも理屈の上ではあるのだろうと思う。
しかし、それだけではないだろう。
きっと、宇宙を創造する方法そのものに心が関わっていたのだろう。
宇宙を創造した方法論、それは量子論的に宇宙を在ると仮定しそれを観測する事。
それにより、無からゆらぎを起こし世界を創造したのだろう。無から在るを創った。
だが……
仮定した宇宙を実際に観測する為にはあまりにも強い自我が、云わば心の力が必要となる。
それ故、創造された宇宙においても心の在り方を重視するようになったのだろう。まあ、これに関してはあくまで推察の面が強いが。概ね間違いはない筈だ。
そして、だからこそ俺は何者にもなれるし何処へも行ける。
故に、俺は精神生命へ至り極めた結果死神という概念になった。宇宙を遊び尽くす為に。
あらゆる宇宙を渡り、死を運び、その中で抗う者達を見てきた。
そして、その中である時一人の少女と出会った……




