5,改変兵器の本領
影の顔面を横合いから殴りつけた大統領。彼は現在、自らの体構造を細胞から超高密度のプラズマへと変換する事で圧倒的戦力を得ていた。
その力はまさに銀河を一撃で砕くと形容して余りあるだろう。そんな大統領は、僕たちの前に現れると豪快な笑みで笑い掛けた。まるで……いや、まさしく僕たちをねぎらう為に。
「よく耐えてくれた。おかげで間に合った」
「間に合ったのは良いんですが……」
大統領に言いながら、僕は敵が吹き飛んでいった場所へ視線を向けた。其処には驚いた事に平然と立つ敵の姿があった。どうやらあの程度では何の痛痒も感じないらしい。
しかし、
「しかし、どうやら全くの無事という訳でもないらしいな?」
大統領の言葉の通り、平面的な影である敵の頭部に亀裂のようなものが出来ている。
どうやら今の一撃で砕けかけているらしい。
改変兵器……その本領は、不都合な現実を根底から否定し都合の良い現実のみを実行する。
即ち、現実を根底から創り変える事。
「……今のは効いたぞ。中々良い一撃だった」
「そうかよ。その割には平然としてるじゃないか」
大統領の言葉に、影はきゅうっと口元を三日月に歪め笑う。相変わらず、濃密な死の気配を漂わせながら影は楽しげに笑っているのだ。まるで、全ての事象を純粋に楽しむかのように。
その姿が、僕には無性に不気味に思えてならなかった。
「そんなことはないさ。この俺にダメージを負わせられる者は今まで居なかったんだぜ?それが可能な奴は幾らか居たがな。残念な事に俺は機会に恵まれなかったけど」
「?どういう事だ?」
「まあ気にするな。こちらの話だ」
言って、影は己の身体を無数の刃へと変えて大統領へ襲い掛かった。
しかし、今の大統領は超高密度のプラズマへと体構造を変質させている。いや、そもそも今の大統領は改変兵器の力により強力な現実改変の力を得ている。
並大抵の攻撃では、そもそも戦闘にすらならないだろう。事実、無数の刃へと変形した影は大統領の身体に触れた瞬間、逆に攻撃を弾かれダメージを受ける事になった。
影の攻撃を否定し、大統領の攻撃のみが一方的に通ったのだろう。
「がっ⁉」
「止せ、お前の攻撃はそもそも俺には通用しない」
大統領の言葉の通り、影は今の一撃だけでかなりの大ダメージを負ったようで。
しかし、それでも何故か楽しげに笑うのだけは止めない。それが、僕の不安を掻き立てる。
「織り込み済みだ。だが、お前の方こそ一つだけ失念しているぞ?」
「何をだ?」
「この俺が、奴の切り札であるという事実をだ」
言って、再び影は大統領へと攻撃を仕掛けた。影である己の身体を変幻自在の刃へと変形させ四方八方から斬撃の雨を降らせる。
影は、大統領に触れた瞬間に容易く砕け散った。




