4,垣間見える本性
敵と交戦に入ってもう既に一時間以上が経過している。そろそろ僕たちも疲れ初めていた。
しかし、奴は未だ疲労の一つも見せてはいない。どころか、僕たちの怒涛の攻撃をその不定形の身体で捌いてまだ余裕を見せているのが理解出来る。
いや、一応収穫はある。どうやら奴の身体は半ば概念や現象に近いらしい。要するに奴の体構造は文字通り三次元上に投影された影のようなものという訳だ。
実体のない影だからこそ、その身体は変幻自在に形を変えるという理屈だ。
だが、逆を言えば奴が攻撃するその瞬間だけは実体化するという事だろう。
それに、
「……ふむ、どうやらお前達は最初から俺を倒すつもりで攻撃してはいないようだな?察するに俺をこの先へ行かせない為に時間稼ぎと足止めをしているという事か」
「ばれたか。だが、だからと言って通すつもりは無いけどな」
僕たちの目的を察したらしい奴に、僕は平然と軽口を叩いた。しかし、そんな僕の軽口すら奴はまるで想定の範囲内だとでも言わんばかりに嘲笑う。
「通れないとでも?」
「通さないさ。僕達が絶対に通さない」
万感の覚悟を以って、僕はそう断言する。
しかし、次の瞬間。まるで宇宙全てを覆い尽くさんばかりの物理的重圧を伴い、余りに濃密な殺意が僕たちへ押し寄せてきた。
それは、次元が違いすぎて別の何かだと錯覚してしまいそうな。まるで、死神が穏やかな微笑みを向けながら刃を喉元へ突き付けてくるかのような。
そんな異次元すぎる死の気配が僕たちへと襲い掛かった。
「へぇ?面白いな。楽しいな…………これだからこの娯楽は止められない」
「なんっ…………」
何だ、これは?今までの奴とは明確に異なる。ほんの一瞬だけ垣間見えたこの気配は。
ああ、これが恐怖。今、僕は確かに怯えている。
それが、否応なしに理解出来る。
「何だ?もう終わりか?もっと俺と遊ぼうぜ」
分かる。嫌でも僕は理解した。こいつは今、生まれ出るには異質過ぎるこいつは今、この世界に誕生しようとしているという事を。
駄目だ。それだけは絶対に駄目だ。こいつの誕生は、即ちこの宇宙の。
いや、存在しうる全ての宇宙……物語の死を意味する。それだけは理解出来る。
こいつが一歩、近付いてくるごとに。まるで物理的な重圧を以って死の気配が大波のように僕たちへと押し寄せてくる。王五竜も、飛一神も、目の前の死に一歩も動けないでいる。
これが奴の本性か。そう、死の覚悟と共に僕は理解した。その瞬間、
「其処までだ……」
今までとはまるで別次元の力の発露だった。
銀河を覆い尽くさんばかりの超高密度のプラズマ。その化身となった大統領が、瞬時に現れ奴を横合いから強襲したのは。その莫大な力により、不定形の影が地面をバウンドしながら吹き飛び建物へと衝突していった。それを、僕たちはただ呆然と見ているだけだった。
そして、其処に立つのは全身に超高密度のプラズマを纏った大統領。
キングス=バード、その人だった……




