3,更なる進化の果て
同時刻、大統領キングス=バードは側近であるフィリップ=クロス補佐官を引き連れ研究施設内を奥へ奥へと進んでいた。目的はもちろん、改変兵器デウス=エクス=マキナだ。
「フィリップ補佐官、準備は既に整っているだろうな?」
「はい、後は兵器を体内に取り込むだけです。問題は取り込んだ改変兵器が全身に定着するまでの時間がどれほど掛かるかでしょう」
フィリップ補佐官の言葉に、大統領は重々しく頷いた。例え、体内に改変兵器を取り込んだとしてもそのナノマシンデバイスが全身に行き渡り、無事定着するまで時間が掛かる。
それまでの間、施設を守り切れるかが問題だろう。
もし、守り切れずに防衛失敗となれば後は目も当てられない。下手をすれば天の川銀河の全てが皆殺しという凄惨な結末が待っているだろう。それだけは防がねばならない。
そうならない為にも、早急に改変兵器を手にする必要がある。
研究の結果、完成した改変兵器に適合可能なのは現時点で大統領のみと判明している。
故に、急いで施設の奥に。改変兵器を取り込む為の装置のある部屋に向かっている。
長い廊下を歩いた先、その奥に厳重なロックの掛かった扉があった。フィリップ補佐官は扉の横にあるキーボードにパスワードを打ち込んでいく。
『パスワードを認証しました。声紋認証に移行します』
「フィリップ=クロス大統領補佐官だ」
『認証確認しました』
電子音と共に、扉が自動で開いた。部屋の奥には、一見して機械の棺にも見える装置が横たわっているのが伺える。これこそ、改変兵器を体内に取り込む為の装置だ。
大統領はそのまま臆することなく装置へ歩いてゆく。そして、パスワードを打ち込み蓋を開くとそのまま中へと入っていった。その間、一切の躊躇もない。
一度覚悟を決めれば、それが後々民衆の為に繋がるなら一切躊躇わないし後悔しない。
それこそが、キングス=バードが大統領の器足りえた所以だろう。一国の長たるもの、民衆に恥じるような己は決して見せないしそんな人物にはならない。
それが、大統領が自らに課した鋼鉄の意思。決意の全てだ。
それを改めて認識し、フリップ補佐官は再び覚悟を決めた。
「では、始めます」
「うむ、では頼んだ」
そう言い、大統領は装置の中でゆっくりとその目を閉じた。
全ては、更なる進化の果て———更なる繁栄と発展を万民へ示す為に。
大国アークの君主は、一時の眠りへついた。