プロローグ
機械仕掛けの神殿、最奥……玉座に座るブラスはおもむろに顔を上げた。
「何か用事か?マジン」
虚空に声を掛ける。すると、その空間が急激に歪んでいき、やがて黒い人型の影が現れた。
二次元的な平面の影。人型の影がその空間に突如として出現する。
彼の名はマジン、ブラス=スペルビアの造り出した生体兵器であり概念兵器だ。
「二つほど言う事がある。一つは孵化の時が近付いている。もう一つは天の川銀河にあるアークで何やら動きが見られる、のでそろそろ俺自身も動こうと思っている」
「大丈夫?もし孵化に影響が出そうだったら、早急に撤退するように」
「大丈夫さ。俺も俺の役割を全うするだけだよ。孵化に影響を与えない程度に暴れてくる」
そう言って、平面的な影———マジンはそのまま空間に溶けるように消えていった。完全にマジンが消失したそのすぐ後、そっと息を吐くとブラスは玉座に深く腰掛けた。
その表情には楽しげな笑みが自然と浮かんでいる。実際、ブラスは楽しいのだろう。
その楽しげな感情は、声にもはっきりと出ていた。
「もうすぐだ、もうすぐ彼とまた会える。その時こそ、約束通りに世界を舞台にまた遊ぼう」
誰も聞く者の居ない機械仕掛けの神殿の玉座でブラスは心底楽しげに、しかし満身の覚悟と決意を持ちその名を口にする。強い意思の籠もった笑みで、
「ゼノ」




