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”豊穣”を冠する後継の勇者  作者: ネツアッハ=ソフ
勝利~アドナイ・ツァバオト~
20/61

1,究極の多様性

 シイル=クリフォードとヤミの戦いが(はじ)まった。丁度その時———


 何処とも知れぬ隔絶(かくぜつ)された空間で遠藤クロノは目を()ました。


「っ、此処(ここ)………は…………?」


「ようやく目を覚ましたか、クロノ」


 声が聞こえた。そちらに目をやると、クロノにとって(なつ)かしい人物が立っていた。そのあまりにも懐かしい姿にクロノは思わず()び上がらんばかりに(おどろ)く。


 それもその筈。彼はかつて、クロノがアインと呼びイデアという()を持っていた超越種。この時点では既に消滅した筈の存在だからだ。本来、この場にいる筈のない存在だ。


 しかし、そんな彼はまるでそんな些細(ささい)な事とでも言わんばかりに平然と立っている。


 おかしい。ありえない。何故此処に?


 しかし、それと同時に彼ならばと納得(なっとく)する自分も(たし)かに存在している。


 彼と再会したことに、ある種の安堵(あんど)を覚えている自分も、


「お前、何故此処に?それに、どうして………」


「言いたいことは()かる。しかし、今はそいつを先に()こした方が良いんじゃないか?」


「?……っ⁉」


 彼が指差した方向、其処には白川ユキが(たお)れていた。


 クロノは慌ててユキに駆け寄り、抱き起こす。ユキに怪我は()い。確か、ブラスとの戦いで致命傷を受け既にその命は風前の灯火(ともしび)だった筈にも関わらず。


 白川ユキの身体(からだ)には、傷一つ付いてはいなかった。


「ユキ?おい、ユキっ!」


「う、んんっ………っ‼?」


 目を覚ました瞬間、ユキは何かを思い出したかのように周囲を見渡(みわた)す。そして、次の瞬間には首を傾げて怪訝な表情をした。


 そんなユキに、クロノは心配そうな声を()ける。


「大丈夫か?身体の調子は何処(どこ)もおかしくないか?」


「え、ええ………私は大丈夫だけど。クロノ君は?私達、たしかあの時ブラスに敗北(はいぼく)して」


 そう、クロノとユキはブラス=スペルビアに敗北し()われた筈だ。しかし、こうして 無事に存在してましてや会話している。一体これはどういう事なのか?


 しかし、クロノはこの状況に何処か納得すらしていた。


「ああ、それは恐らくだがこいつの仕業(しわざ)だろうな」


「こいつ?………っ⁉」


 その時、初めてユキは彼に気付いたようだ。僅かに身構(みがま)えるが、しかしそれをクロノは片手で制止して一先ず落ち着くよう(うなが)した。


「落ち着いて。こいつはアイン、今は取り合えず俺の知り合いとでも認識(にんしき)してくれ」


「知り合い?クロノ君の?」


「ああ、恐らくだが奴に敗北し()われたところをこいつが俺達を保護(ほご)してくれたんだろう」


 そう言い、クロノは彼を真っ直ぐ見る。ユキも、同様に彼に視線を向けた。


 彼は、アインはその言葉に頷きそして口をゆっくりと(ひら)いた。


「ああ、その事だがクロノ。お前に俺から一言言いたい……お前、随分とまあ無様(ぶざま)だな」


「っ‼?」


「っ‼‼」


 アインから(はな)たれた言葉に、クロノは脳天に直接落雷(らくらい)を受けたような衝撃を受けた。


 そして、ユキの表情が激しい(いか)りに染まる。


 しかし、ユキが何かを言う前にアインはそれを片手で(せい)した。どうやらまだ、言いたい内容は終了していないらしい。そのまま話を(つづ)ける。


「おっと、まだ話は()わっていない。文句はその後で受け付けよう。クロノ、お前はどうして俺がお前を俺の後継として見出したのか正しく理解(りかい)しているのか?」


「それ、は………俺がお前の後継者たりえる資質を生まれながらに保有(ほゆう)していたから?」


 その言葉に、アインは(あき)れ果てたように溜息を吐いた。


 どうやら、(ちが)うらしい。


「やはり(わす)れているようだな。ならば、再度教えよう。遠藤クロノが俺の後継たりえたのは俺の後継たる資質を保有していたからではない。後継たる資質を持ちながら、俺とは対極(たいきょく)だった。ただその一つに尽きるだろう。故に、俺はお前を後継者として(みと)めたんだ」


 資質を持っている。それだけでは後継者たりえないと、アインは強く(だん)じる。


「対極………」


「そうだ。今一度思いだせ、お前と俺が最後に交わした約束(やくそく)を。そして、お前自身が俺に対し宣言した誓いの一部始終を。(すべ)て」


 そう言い、アインはクロノの額にその指先を()き付ける。


 瞬間、クロノの脳内に直接かつての記憶(きおく)が閃光のように蘇った。それは、白川ユキと別離し根源たる座標に着いたすぐ後の記憶。


 そう、クロノはこの時………アインと———


「そう、だ……思いだした、全てを。俺は、俺一人では決して(つよ)くなんかない。何時だって仲間と共に居たからこそ何処までも行けたんだ。仲間との(きずな)こそが、俺の力だったんだ」


「そう、云わばお前の強さとは究極の多様性(たようせい)だ。全てがただ一人で自己完結している俺とは違いお前は何時も仲間と共に居た。その絆と多様性こそが、お前の何よりの(つよ)みの筈だろう?」


 そして、それこそが本当の後継者としての資質だとアインは()げる。


 そう、遠藤クロノは単独(ひとり)では決して強くはない。クロノの強みは仲間との絆だ。


 あの無価値(むかち)の魔物と戦った時だって、共に戦う仲間が居たからこそ勝利したのだ。


 そっと、クロノの肩に手が()れる。ユキが、心配そうにクロノを見ていた。そんな彼女にクロノは力強い笑みで頷き返した。


「クロノ君……」


「大丈夫だ、もう俺は大丈夫(だいじょうぶ)


 そう、クロノは全てを思いだした。自身の強みを真に自覚(じかく)した。


 自身の本来の異能(いのう)を取り戻し、本当の意味(いみ)で蘇ったのだ。


「もう、大丈夫そうだな。なら俺は此処で失礼(しつれい)しよう」


「ああ、そう言えば結局此処は何処(どこ)なんだ?」


 クロノの問いに、アインは思わず苦笑を()らした。


 それは、もっと(はや)くに聞くべき事ではないだろうか?そう、彼の瞳が暗に告げている。


「此処は、全てから隔離された何処とも(つな)がっていない空間だよ。ブラス=スペルビアに食われたお前たちを保護する為に、この空間に二人とも(ほう)り込んだんだ」


「そうか、ありがとう。じゃあ、先ずは此処から()け出せば良いんだな?」


「ああ、正確には此処を抜け出しても其処は奴の胃袋(いぶくろ)の中だ。先ずは完全に回復するのを待ちそれから力を十分に(たくわ)えて脱出するのが良いだろう」


「分かった、ありがとう」


 それだけ言うと、アインはクロノの中へと()けるように()えていった。


 その場には、クロノとユキの二人だけが(のこ)された。

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