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”豊穣”を冠する後継の勇者  作者: ネツアッハ=ソフ
王国~アドナイ・メレク~
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1,出会いと始まり

「シイル、知っているか?(ほし)は生きているんだぞ?」


 ある日、クロノさんが僕にそう言ったのを(おぼ)えている。何故そんな事を突然言ったのか?それは未だによく分からない。けど、彼が意味の無い事を言った記憶(きおく)は僕には無い。


 少なくとも、僕は()らない。きっと、これも何か意味があるのだろうと思う。だから、僕はこの時出来るだけ彼の言葉の意味を理解(りかい)しようと質問を返したんだ。


「えっと、ガイア理論(りろん)ですか?星と生命は、互いに影響(えいきょう)を及ぼしあっているっていう?」


「ああ、けど事実として星は一個の生命(いのち)として生きているんだ。シイル、今の時代の人間には言わずとも理解出来ると思うけどな、万物にはそれぞれ波があるんだ」


 それを聞き、僕は頷いた。それは、今の時代では幼い子供だって知っている事だ。


 この世の全ては波長(はちょう)が存在する。粒子で構成された物質だって言わずもがなだ。


 この世の全てはそれぞれ波長が存在する。だからこそ、架空塩基は精神の波長で物質界に働きかける事が可能なのだろう。精神の波長で物質界の波長に干渉する訳だ。


 だが、それがこの話にどう関係するのだろうか?結局、分からないので素直に()いた。


「えっと?それが今の話にどう関係するんですか?」


 そう問い返すと、クロノさんは苦笑(くしょう)を返しながら言った。


「まあ、(いず)れ分かるさ。要するに、生きている者には精神の波長が存在するんだ。そして、それは星にも存在しているのさ。つまり、星にも自我(じが)が確かに在るという事だろう?」


「えっと、星も思考(しこう)しているという事ですか?」


「ああ、事実として星の思考により大自然は(はぐく)まれているんだよ。まあ、端的に言えば自然そのものが星が生きているという事実を補強(ほきょう)している事になる」


 つまり、この時クロノさんは星が一個の生命である事を(つた)えたかったんだろう。


 けど、何故この時それを伝えたのか?結局その意味を知る事がその時僕には出来なかった。


 そして、(いま)だにそれは理解出来ないままだ。


 すぐ傍で、何故(なぜ)かユキさんが苦笑を浮かべていたのも結局分からなかった。


          ・・・・・・・・・


 それから、数年の時が過ぎ去った。そろそろ、僕は18歳の誕生日を(むか)える。


 現在、僕達は辺境の惑星で三人静かに()らしている。そんなある日の事、草原で遊んでいた僕は其処で不思議な少年と出会(であ)った。


 不思議な少年。というより、その少年は明らかに普通(ふつう)の人間ではなかった。


 というより、明らかに彼は人間ではなかった。


 辺境の惑星。この惑星は未開(みかい)の惑星だ。故に、自然豊かな(うつく)しい星だった。


 そんな中、人外の少年は草原のど真ん中で一人(たたず)んでいた。ただ、呆然と立っていた。


 白髪に赤い瞳。その後頭部からはねじくれた二本の角が生えており、肌には鈍色(にびいろ)の鱗が生えて全体的に灰色をしているのが分かる。明らかに、人間(ヒト)ではない。


 しかし、そんな事はどうでも良い。心底どうでも良い。その少年は、草原のど真ん中に立ちぶつぶつとしきりに独り言を呟いている。まるで、(ほか)に誰かが居るかのように。


 思わず、怪訝な表情で少年を見詰(みつ)める。すると、その視線に気付いたのかそれとも気付いていたのか少年の視線が僕の方へ向いた。


 しばらく、見詰め合う僕と少年。やがて、最初に動いたのは少年の方だった。


「っ‼」


 瞬間、少年は心底驚いたように目を見開いて脱兎(だっと)のごとく()げ出した。


 思わず、反射的にそれを()いかける。自然、追いかけっこが始まった。


「いや、何でだよ。僕」


 思わず、自分で自分にツッコミを入れる。何故この時反射的に追いかけたのか?


 そう思うけど、とりあえずそのまま少年を追いかける。少年の顔が、引き()った。


「こ、()ないで‼」


「いや、そんな暴漢(ぼうかん)に追われるような事を言われてもな?」


「じゃあ、追いかけてこないでよっ‼」


「じゃあ、逃げないでよ!」


 自分で言っていて、中々屁理屈(へりくつ)が過ぎると思った。思ったけど、追いかける。


 そうして、しばらく追いかけっこは続く。やがて、互いに(つか)れ切ったのか息を切らせながら草原の中央で二人共に(たお)れ込んだ。


 二人共に、声を出す事も出来ない程に息を切らせている。


 心臓が、バクバクと鼓動(こどう)を打つ。ロクに声を出す事も出来ない。


「ぜぇ………ぜぇっ…………」


「っ、はぁ…………はぁ…………っ」


 しばらく、倒れ込んだまま起き上がる事も出来ずに並んで(あら)い呼吸を繰り返す。


 やがて、僕は少年の方を向いて一言(つぶや)く。


「………シイル」


「…………っ、いきなり何だよ?」


「僕の名前(なまえ)は、シイル=クリフォードだ。君の名前は?」


 問われた少年は、少しの間(だま)り込んでいた。しかし、やがて照れ臭いのか頬をぽりぽりと掻きながらふてくされたような表情で(こた)える。


「ジン。俺の名前はジン=クリストフだ。少なくとも、星は俺をそう()んでいる」


「星は?」


 その言葉に、僕は思わず首を(かし)げた。


 少年、ジンはむすっとした表情で続きを話した。まるで、事実のみを端的に話すように。


「俺は、”星”と話せるんだよ。俺は魔物(まもの)だからな………」


 これが、僕と魔物の少年との出会い。やがて共に広大な宇宙(うちゅう)を駆けまわる事となる、壮大な冒険の始まりとなる出会(であ)いであった。

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