プロローグ
その瞬間、空間の揺らぎと共にそれは現れた。
「っ、師匠‼?」
「こいつが、件の生体兵器か‼」
天地を震わせる咆哮と共に現れたのは、件の黒い獣。ヤミだった。王五竜と飛一神は共に武器を構え臨戦態勢へと入る。しかし、それを僕は片手で制した。
怪訝な表情をする二人に真剣な表情で返す。二人にこいつを倒させる訳にはいかない。何故ならこいつだけは僕の手で倒す必要があるからだ。
こいつは、僕の獲物だ。他の誰にも譲らない。
「こいつの相手は僕がします。どうか邪魔をしないで下さい」
「………それは、お前の意地か?」
五竜の言葉に、僕は小さく頷いた。
「はい、こいつだけは僕の手で倒す必要がある。僕自身の手で決着を付けないと」
瞬間、空間そのものすら歪める殺気が飛んできた。五竜の放つ殺気だ。
なるほど、これは凄まじい。これが船団国家を統べる長たる飛一神を鍛え上げた師匠。その実力は既に人類の限界を大きく超えていると言えるだろう。
しかし、それでも僕は退く訳にはいかない。僕にだって、退けない意地がある。
「…………退かない、か?」
「退けません。これは、僕の戦いです」
「違う、奴等は既に宇宙全土に宣戦布告している。もう、お前一人の喧嘩じゃない」
これは、戦争なんだと五竜は言った。
そう、奴等は既に宇宙全土に喧嘩を売っている。もう、僕だけの喧嘩じゃない。いや、そもそもここまで来れば喧嘩などというレベルを大きく逸脱しているだろう。
もはやこれは、宇宙規模の大戦争だ。そう、大戦争なんだ。
「………分かっています。けど、それでもこれだけは僕が一人で戦わなければならない」
「何故?」
「友達の為だ」
そう、これは何てこともない。普遍的な友情の為。
僕との友情の為に散った、友達の為でもあるんだ。その為の意地だ。
「……………………」
「……………………」
しばしにらみ合う僕と五竜。やがて、深い溜息を五竜は吐いた。
「まったく、本当に意地っ張りだな。クロノによく似ている」
「義理とはいえ、あの人の息子ですので」
「ああ、分かったよ。好きにしろ」
そう言って、五竜は後方へ退いた。一神とアルファもそれに続く。
そして、僕はヤミと向き合う。其処には、静かに唸る奴が居た。
「もう、準備は終わったか?」
「ああ、そろそろ始めよう」
次の瞬間、僕とヤミは同時に動いた。