4,魔を冠するもの
その頃、機械仕掛けの神殿にてブラス=スペルビアは玉座に座していた。
しかし、その顔色は若干紅潮し息も僅かに上がっている。よく見れば、僅かにその身体から蜃気楼のようなものが立ち込めているのが見える。
そんな異常な状況にあって、それでもまだブラスは平然とした表情で状況を考察する。
「ふむ、なるほど?どうやらまだ消化しきれていないようですね。これは盲点でした。確かにあの二人は人類で最強の英雄と怪物に相応しい力を持っているようです」
「主よ、それで大丈夫なのですか?計画に支障はありませんな?」
ブラスに声を掛ける声。それは、ブラスの背後から聞こえてきた。
しかし、そんな声にもブラスは平然とした声音で答えた。
「大丈夫ですよ、マジン。それに心配しなくても貴方の出番は必ずあります」
「なら良いのですがね?私は私の役目を全うするまでですよ」
声には何処か嘲りの色が見える。ほんの僅か、トリックスターじみた側面を持ち合わせているのだろうそれは影絵のように平面的な人型の魔物だった。
しかし、やはりそんな魔物の言葉にもブラスは一切気を悪くした様子はない。むしろ、何処か自信に満ちているような気配を纏っている。
「貴方は私の切り札です。心配せずとも切る時にしっかり切りますよ………」
いつの間にか、魔物の消え去った背後にブラスは言葉を続ける。
ブラス=スペルビアの、偽らざる本音を。
「貴方は、ヤミという試作を経て製造された生体兵器の完成品なのですから」
マジン———ヤミという試作を経て製造された人工の魔物。確かな自我を持つ、概念兵器。
その生体兵器が牙を剥く日は近い。