2,後悔との決別
アルファの話を聞き終え、僕は考える。
アルファとブラスの兄妹。その境遇は十分に不幸と呼べるものだっただろう。その上でアルファがそのような異能を獲得したのも納得のいく話だ。
しかし、僕には分からなかった。いや、話を聞いて余計に分からなくなったというか。何故妹のブラスがそのような異能を獲得したのか?いや、何故そのような境遇にあってそのような異能を獲得出来る程の思考に至ったのだろうか?それが分からない。
ブラス=スペルビア。彼女がそのような異能を獲得するだけの精神性を獲得したのに、果たして本当に何も理由はないのだろうか?理由がなかったのか?
「………いや、それとも」
「?何だ、何か思う事でもあったのか?」
「いや、まだ何も分からない。それよりも、どうして僕にそんな話をしようと思った?」
僕の問いに、アルファは僅かに悩む素振りを見せる。果たして、それを言うべきか否かを悩んでいるのかも知れない。しれないが、僕は真っ直ぐ彼を見据える。
彼を真っ直ぐ見据えて続きをうながす。
「………これは、俺の身勝手だ。だから、本来お前に押し付けて良いものではない」
「教えてくれ。それから先は僕が考える」
そう言うと、やがてアルファはそっと溜息と共に何かを決意したような表情を浮かべる。
「………分かった。だけど、もし話を聞いて気に食わなければ逃げてくれても構わない」
「……………………」
「ブラスは、妹は何かを成し遂げようとしている。しかし、それにはどうやら宇宙全土に居る生命や銀河を捕食し己に取り込む必要があるらしい。いや、或いはその先にこそ意味があるのか」
「…………暴食の、異能」
「ああ、けど俺はそんな事欠片も望んではいない。俺は、俺としては妹にもっと普通の幸せを手に入れて欲しいとそう考えているんだよ。だから、だから………」
———妹を、止めて欲しい。
そう、アルファは震える声で告げた。その言葉を言うのにどれだけの覚悟を要したか。
それは分からない。けど、それでも彼の言葉に一切の偽りはないだろう。
そう、彼は嘘も偽りも言ってはいない。だからこそ、アルファ=スペルビアは覚悟を決めこの事態に臨んでいるのだろうと思う。そう、思う。
ああ、だからか。
「………僕も、覚悟を決めるべきか」
「?」
「いや、何でもない。話の内容は理解した、ブラス=スペルビアは僕が止める」
「………本当に良いのか?それは、」
言い掛けたアルファを僕は片手で遮った。
僕は、真っ直ぐ彼に笑みを向ける。一切後悔のない笑みを。後悔を振り切った覚悟を。
「決めたよ。クロノさんは、父さんは僕にとって間違いなく英雄だった。だからこそ僕はそれを継いで新たな英雄になってやる。いや、」
父さんと同じでは、全く意味がない。だからこそ、僕は僕として決意を告げる。
「僕は僕として、父さんとは違う英雄性を示す。僕は、勇者になる」