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セシリア・フローレンスは諦めない  作者: 羽入五木
第一章
8/20

侵攻作戦、開始!


 侵攻作戦の日、来る。


 セシリアにとって魔王軍に所属してから初めての戦い。

 彼女は人間だった頃の初陣を思い出す。


 あの時は近くの村人たちに「助けてくれ!!」と懇願されて仕方なく杖を取った。

 だが、その村人たちはセシリアが処刑される際、醜く笑いながら石を投げつけてきた。

 セシリアは「過ぎた事です」と自分に言い聞かせる。


 憎しみは、戦いの中で発揮すれば良いと。


「おはようございます。セシリア様。お食事を持って参りました」

「お、おはようございます。カミラさん。うぅ……。その瞬間移動、未だに慣れませんよぉ」


 今日はアンヴェルド不在のため、自室で朝食を取るセシリア。

 「お一人では味気ないですから」と、カミラが一緒にいてくれる。


 彼女はダークエルフだが、どの辺りを指してダークなのだろうか。

 少なくとも心はとてもハートフルである。

 「ハートフルエルフに改名したらどうでしょうか」とセシリアは考えながら、柔らかいパンを齧りスープを飲み干した。


「いよいよご出立ですね。こちらをお召しください。魔王軍の戦闘服です。こちら魔女族専用のもので、少々の炎や冷気ならば弾いてくれる優れものでございます」

「ありがとうございます。わぁ、フカフカですね。とっても着心地が良いです」


「それは結構でございます。良くお似合いですよ」

「そうですか!? なんだか、皆さんの仲間になれた気がして、そう言ってもらえると嬉しいです!」


 戦闘用のローブに着替えて、セシリアは修練場へと向かう。

 そこで今回の侵攻作戦の責任者と落ち合う事になっていた。


「おはよー、セシリア! 今日は頑張ろうね!!」

「おはようございます! ユイナも今回の作戦に参加するんですね!」


「何言ってるのー? あたし、この部隊の指揮官だよ!」

「へっ!? ユイナってそんなに偉かったんですか!?」


「あはは、失礼だなぁ! こう見えてもあたし、魔王軍の幹部だからね! いっぱい頑張ったらちゃんと認めてくれるのが魔王様なんだよ!」

「すごい……。実力主義なんですね。人間の世界では、年功序列だったり階級制度だったりが優先されて、実力があっても冷遇される事の方が多いんですよ」


 ユイナは「えー。それはヤダねー」と応じて、集まったユイナ部隊のメンバーに号令をかける。


「みんな! 今日も魔王様のために頑張ろう! 魔王様はあたしたちのために領土を広げようとしてくれてるんだから、そのご恩には報いなくちゃだよ!!」


「「「おおっ!!」」」


 ユイナ部隊の士気は高い。

 だが、メンバーに若干の偏りが見られた。


 リザードマンやゴブリン。ウガルルムにオーク。そしてオーガ。

 どう見ても物理に特化している。


「作戦はいつも通り! パワーでどうにかする!! 大丈夫! みんなは毎日訓練してるんだから、その鍛えられた筋肉は裏切らないよ!!」


「「「うおぉぉぉっ!!!」」」


 ユイナが優秀な戦士なのは間違いない。

 だが、指揮官としては際立って有能であるとは言えないようだった。


「ええと、ユイナ?」

「あ、そうだ! セシリアはあたしの隣ね! 初めての作戦だから、魔法であたしの援護をしてくれればいいよ! ユイナ部隊は強いからさ、安心してね!!」


 なんとなく不安もよぎるが、新参者であるセシリアは部隊長を信じるのみである。

 それから一団は魔王軍発着場へと移動する。


 飛竜が何体も唸り声をあげており、「こ、これに乗るのでしょうか」と3歩ほど後退るセシリア。

 そんな彼女のローブの裾を「そっちじゃないよー」とユイナが引っ張る。


「これがあたしたちの移動手段! コカトリス!! 飛竜ほど大きくないけど、小回りが利いて乗り心地もいいんだよ! さあ、乗って乗って!!」

「あ、はい。おじゃまします」


「じゃあ、みんな! 行くよー!! あたしたちの目的地は、サウスユニス!!」


 コカトリスに乗り込んだユイナ部隊が出陣する。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 アルバルバ山脈を越えると、セシリアにとっては懐かしい帝国領が見えて来た。

 だが、郷愁の念に胸を満たす訳ではない。

 忌々しいと表現するのが適切だろうか。


「セシリアって、サウスユニスの事を知ってたりする?」

「そうですね。私の知る限りの情報で良ければ。小さな辺境の都市です。ただ、ルーファス・レスコーネ王子の息のかかった土地で、治安が悪かった記憶が。王子に特権を与えられた末端の王族が好き放題していた覚えがあります」


 「少なくとも、私は積極的に近づきたい土地ではなかったです」とセシリアは続けた。


「そっかー。じゃあ、軍備的な事情はどうかな?」

「そこまで詳しくはないですが、帝国から左遷された警備兵が権力を持つ都市でしたから。練度は低いかと思われます。ただ、一応外壁にバリスタ……大きな弓がいくつか備え付けられていたと思います」


 「ふむふむ」とユイナは顎に手を当てる。

 セシリアはコカトリスの飛行速度に慣れておらず、会話が途切れると怪鳥の背中にしがみつくので忙しい様子。


 ユイナには伝えていない事だが、セシリアはもう1つサウスユニスについて情報を持っていた。

 別に彼女に隠し立てするつもりはない。

 言う必要のない情報を具申して、戦局を乱すのは愚策だと考えたからである。


 サウスユニスには、ルーファス・レスコーネ王子の愛人が多く住んでいると聞いたことがあった。

 また、彼の地で起きた犯罪、特に強盗や強姦などの口にするのも憚られるようなものは、ルーファスの手によって握りつぶされていると噂になっていた。


 つまり、サウスユニスを攻め落とせば、必然的にルーファスの耳にその報は届くだろう。

 何の因果か、セシリアの復讐戦を始めるのにこれほど相応しい場所もないかと思われた。


「あっ! 見えて来た! 確かに、外壁だけは立派だね! みんな、あたしとセシリアがまず攻撃を仕掛けるから! それに続いてね! 一気に制圧するよ!!」


 サウスユニスが眼前まで迫る。

 コカトリスを乗りこなすユイナ部隊は、万事手回しよく散開していく。


「……ふぅ。ユイナ。私、頑張りますね!」


 セシリアはそう言うと右手に魔力を充填させ始めた。

 その様子を見て、ユイナも「うん! 頑張ろー!!」と拳を突き上げる。


 その時は拍子抜けするほど簡単にやって来た。


「全軍、突撃ー!! セシリア! よろしく!!」

「はい! 『メテオ・フォール』!!」


 魔女に転生して威力の上がった隕石弾がサウスユニスの外壁に襲い掛かる。

 それは開戦の合図だった。



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