ナギサとユイナのシナジー
帝国領の南西部に位置する都市・ハイセントリム。
巨大な冒険者ギルドがあり、居住区には腕利きの冒険者が多くハウスを構えている。
「調子はどうだ、グロック」
「それは何人殺せるかって意味だな? だったら全員丸焼きにしてやる」
「やだやだ。ハイセントリム最強の冒険者パーティーなのに、品がなーい」
彼らはハイセントリムを拠点に活動している冒険者パーティー。
南部一番との呼び声も高い、リーダーの剣士、マテルス。
電撃魔法を得意としている魔導士、グロック。
つい先日高位の防御魔法を習得した僧侶、カリーナ。
彼らは《ハイセントリムの翼》と言う名前で、近隣の都市でも勇名を轟かせている。
普段は魔王軍の魔物を相手に戦い功績をあげている彼らだが、大衆には知られていない裏の顔を持っていた。
ルーファス・レスコーネ王子の優秀な手駒として、彼らは闇の依頼を受ける。
この夜もルーファスが指示した貴族の家を襲撃するための準備を整えていた。
彼らに正義感などない。
だが、虚栄心と自己顕示欲は人一倍。
支度も整い、彼らはハウスを意気揚々と出発した。
時を同じくして、空が暗雲に覆われ月が隠れる。
続けて街の中心に出現したのは、巨大な転移門だった。
魔王軍のユイナ部隊とナギサ部隊の合同チームが、人間界へと降り立った瞬間である。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「さあ、みんな行くよ! 負傷者は無理しないで撤退! だけど、怪我するまではガンガン戦うからね! ユイナ部隊、突撃!!」
ユイナの号令で足の速いリザードマンとウガルルムが先行して飛び出した。
呆気にとられる街の人間たち。
だが、この都市は前述の通り冒険者の街である。
彼らも黙ってやられてくれはしない。
「て、敵襲だ! 女子供は家ん中に入ってろ! 冒険者は武器を持てぇ!!」
ハイセントリムの住人の対応は早かった。
数人がリザードマンの尾で背中の骨を砕かれ、ウガルルムの牙で腹を噛みちぎられたが、その間に数十人が戦闘態勢を整える。
「全隊! ここからは防御に徹して! 人間だからって甘く見ちゃダメだよ!!」
「うぉぉぉ! 了解だ、隊長!!」
ユイナ部隊は奇襲攻撃を終えると、一転してガードを固める。
オークにゴブリンロード、そしてオーガ。
外皮が固く防御力の高い兵を前面に押し出して、冒険者たちの足を止めた。
守るだけでは戦いには勝てない。
だが、防御する者が攻撃役も兼ねなければならないルールなど戦場には存在しないのだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「へぇー。結構やるじゃん。良い感じの陣形だわ! ナギサ部隊! 魔法の一斉射撃するわよ!! ユイナのとこの兵士には当てないようにね! 後で文句言われるの嫌だから!」
「了解しました! 各分隊、魔力を放出するんだ!」
ナギサは満足そうに部下の様子を眺めて、自慢の杖を振り下ろす。
「あたしに続けー!! 『レッドサイクロン』!!」
ナギサの放つ炎と風の複合魔法。
その威力は単体でも小さな町ならば焼き払える力強さを持つ。
「よし! 隊長の竜巻に風魔法を叩き込め!」
「了解であります!!」
そこにナギサ部隊の魔法兵団がさらに属性を重ねる。
みるみるうちに竜巻の規模は増し、その鋭さは悪夢となる。
「ひぎゃあぁああぁぁっ!! う、腕がぁぁ!! おい、お前! 助けろ!!」
「バカ、引っ張るんじゃねぇ! ああああああああっ!! 体が、バラバラ! 足が、腕がぁ!!」
ナギサ部隊の魔法斉射の威力は凄まじく、冒険者を次々に斬り刻んでいく。
◆◇◆◇◆◇◆◇
ユイナ部隊とナギサ部隊の後方で転移門を維持しているセシリアは、その様子を見ていて気付いたことがあった。
周りに誰もいないので、仕方がない。彼女はひとりごとを言う。
「魔王様はユイナとナギサの部隊の相性の良さをお分かりになられていたんですね。それで、今回の作戦を契機に両部隊がお互いを認め合うように仕向けられた。素晴らしいご判断ですね!」
アンヴェルドの真意は不明だが、セシリアはそう感じたらしい。
そして、セトリアの予測は人間だった頃からほとんど外れた事はない。
どうやら、両隊長も同じように思い始めている様子だった。
「全隊、いい感じだよ! しっかり攻撃を防ぎ切れてる! かなり余力があるから、負傷者は軽傷でも交代してあげて! ……ナギサのヤツ。後ろでちまちまなんてものじゃないよ。……すっごく頼もしい!」
ユイナ部隊は現状、普段の戦闘に比べて負傷者の数が4割以上も少ない。
それは、ナギサ部隊の後方からの攻撃によるものだとユイナは認めている。
「……なんて言うか。アレね。脳筋って役に立たないと思っていたけど、こんなに丈夫な盾があるとあたしたち魔法使いは精神的にかなり落ち着けるわよね。魔力は精神に影響されるから、こんなに安心できると魔法も冴えるってわけよ!」
ナギサ部隊もかつてない程に連携のとれた魔法を立て続けに放っていた。
いつもならば前衛の防御魔法兵団は死を覚悟して送り出さなければならないのだが、今日は全員で攻撃魔法に集中できている。
ユイナ・ナギサの合同部隊は圧倒的な力をもって冒険者たちを屠る。
「ナギサ! いい感じですね! 人間たちの悲鳴が心地いいです!」
「えっ、ああ、そう? あんた、なんかキャラ変わった? って、そうじゃないわよ! セシリア、あとどれくらい転移門の維持は出来そう?」
「んー。3分が限度でしょうか」
「そう。じゃあ、全滅させるのは難しいかもだわ。さすが冒険者が集まっているだけあって、防御魔法の使い手もいるみたいだし。でも、これだけの戦果を残せば魔王様も」
「ダメですよ。ナギサ。ちゃんと人間は根絶やしにしなくちゃいけません」
「でも残りが3分じゃ……!? あ、あんた、頭の上にあるそれ、なに!?」
セシリアは超巨大な火球を創り出していた。
直径にすると10メートルはあるだろうか。
「こんなものですかね」と冷たい口調で確認した彼女は、その火球を爆ぜさせる。
「人間は根絶やしにしなくちゃですよ。『プロミネンス・エクスプロード』、さらに自動追尾を付与」
セシリアが放った炎は、もはや魔法ではない。
それは災害だった。
意志を持つ悪魔の炎は人を見つけると消し炭に変える。
教会やギルド本部、そして民家までもを火の海に変貌させる魔女の大魔法。
その様子を隣で見ていたナギサは戦慄した。
「こ、こんな魔法、あたしじゃ絶対に使えない……!!」と、彼女は身震いをする。
これまで、自分よりも優れた魔法はいくつか見てきたナギサだったが、誰かの魔法に恐怖したのは初めての体験だった。
「まだ足りませんかね? 一応、もう一撃ほど。『ライトニング・レイン』」
更にセシリアは雷の雨を降らせる。
もうそこに有機物が存在する事を許さないような、容赦のない追撃だった。
「ちょ、せ、セシリア!? やりすぎよ! こんな……! 炎に巻かれてユイナ部隊までやられちゃうじゃない!!」
「ふふっ。大丈夫ですよ、ナギサ。私はそんなミスしませんってば。大事な仲間に火傷の1つでもさせたら大変ですから、ちゃんとコントロールしています」
「や、でも! もう充分だってば!」
「そうですね。もう人間は残っていなさそうです。そろそろ時間ですし、皆さん、引きあげましょうか」
セシリアは維持していた転移門を再び解放した。
ナギサは「転移門を出したままあんな魔法を使ったの!?」と、何度目か分からない驚愕に襲われた。
その後、部隊は速やかに撤退。
ハイセントリムの街は地図から消滅した。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「……嘘でしょ。マテルス? グロック? あなたたちが、こんなに呆気なく死ぬの!?」
魔王軍が去った後。
かつて街だった場所の片隅で、僧侶のカリーナは呆然と立ち尽くしていた。
彼女が覚えていた高位の防御魔法の効果か、それとも単純に運が良かったのか、どうにかあの災厄を生き延びた唯一の生存者が彼女である。
恐怖の記憶の中でも、特に脳裏に焼き付いているのは魔女の放った大火球。
その射手の顔には見覚えがあった。
「……あれって確か。……処刑された、賢者?」
消え入るような声で、カリーナは呟いた。
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