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セシリア・フローレンスは諦めない  作者: 羽入五木
第二章
16/20

愛弟子との生活


「さあ! 残るはあなただけだよ! 言っておくけど、逃がさないからね!」

「……ちっ。使えねぇ部下を持つと頭は苦労するぜ」


 先ほどのウルミが放った火球で盗賊団は壊滅状態になった。

 辛くも生き延びているのが、この盗賊団の首領である。

 彼は大きな鉄の槍を振り回しながら、ユイナと向き合っていた。


「その考え方はどうかと思うな。リーダーは部下の出来ないところを補って、サポートするのが仕事でしょ!」

「うるせぇ小娘だ! お前、オーガ族か? それにしちゃあ、角が妙に曲がってやがるな? ははあ、さては劣等種か」


 首領はいやらしく顔を歪める。

 既に死が目前まで迫っているにも関わらず、ユイナを挑発するとは。

 その根性だけは人の上に立つ資質アリと言っても良いかもしれない。


「だったら何なの!?」


「オーガの角はなぁ、コレクターの間では高値で取引されるんだ! 特に、鋭く尖った真っ直ぐな角がな! お前みてぇなひん曲がった角にゃ、値が付かないんだよ! さてはお前、他の同族から迫害されてるだろ? だろうな! 劣等種に冷たいのは人間でも魔族でも同じってもんよ!」


 ユイナの心は、穢れた魂を持つ薄汚い人間によって傷つけられる。

 彼女は「自分は劣等種だから、他のみんなより何倍も頑張らなくちゃ」と決意している。

 その事実を受け止めてもいる。


 だが、やはり声高に真実を指摘されると、まだ若い彼女の心は鈍く痛む。

 その痛みをかき消すように、ユイナは気合を入れた。


「黙って! やぁぁぁぁぁっ!!」

「あがぁぁぁぁぁぁっ! い、痛ぇぇぇぇぇぇっ!! ちくしょう! ちく、しょう!!」


 首を刎ねられた後も、首領はしばらく喚き続けた。

 呪いの言葉を散々吐いたのち、目から光が失われる。


「ユイナ! 大丈夫ですか!? 怪我してませんか!? 治癒魔法使いましょうか!? ……へくちっ」


 それから数分。

 セシリアがユイナの元へ駆け付けた。

 彼女は未だに薄手のパジャマ姿であり、この夜何度目か分からないくしゃみをする。


「ぷっ、あはは! わたしなら大丈夫! 傷ひとつ受けてないよ! セシリアは風邪をひいちゃいそうだね!」


 セシリアの間の抜けた姿に、自分を心配して走って来てくれた姿に、ユイナの心は癒される。

 そこにウルミが少し遅れて合流した。


「お師匠様、このコートをどうぞ。お借りして来ました」

「うわぁー! ウルミちゃん、助かりますー!! あー、暖かいですねぇ。生き返ります」


「そうだ! さっきの大きな火の玉! さすがセシリア! 助かったよ!!」

「ふっふっふー。あれは私の魔法ではありません! ウルミちゃんの魔法です!!」

「あ、あぅ……。ちゃんと撃てなくてごめんなさい」


 ユイナは驚いたが、それよりもまず幼き才能を称賛する。

 それが正しいリーダーとしての行動であると確信しているからである。


「すごいじゃん、ウルミ! 魔法覚えてまだ数時間なのに、あんな威力なの!? セシリアの見立ても流石だけど、その期待に応えるウルミはもっとすごい!!」

「は、はい。……その、ありがとうございます」


 両親の居ないウルミは、あまり褒められる事のない生活を送って来た。

 そのため、無償の拍手を浴びせられるとどう反応して良いのか分からない。


「ウルミちゃんがいれば、ユイナ部隊の戦闘は選択肢が増えますよ! 絶対に今より強くなります!」

「……あー。それなんだけどね、セシリア。ウルミが魔王軍に入るのは賛成。だけど、うちの部隊で引き取れるかは微妙なんだよね。と言うか、難しいかも」


「ええー!? ど、どうしてですか!? 私の可愛い弟子をどうするつもりですか!?」

「お、落ち着いて! ほら、覚えてる? ナギサが言ってたでしょ? 魔王軍の優秀な人材は各部隊で取り合いになるって。セシリアは魔王様の勅命って事で済んだけど、ウルミは正規のルートだと、競争率が超高くなりそうなんだよね」


 セシリアは「ぐぬぬっ」と悔しそうに唸る。

 ウルミも「わ、私、お師匠様と離れるのは嫌です……」と一気に悲壮感で溢れる。


 こんな時こそリーダーの出番だとユイナは知恵を絞った。

 そこで妙案を閃くのだから、ユイナと言う乙女もなかなかに優秀である。


「いいこと考えた! ウルミはセシリアの世話役って事にしちゃおう! えっとね、魔王様にとってのカミラさんみたいな感じ! それだったら、軍隊には入ってないから他の部隊には奪われない! けど、セシリアの向かうところには付いて行ける権限があるから、わたしの部隊の遠征には帯同できる!! どう!?」


 セシリアとウルミは両手を組んで、ユイナを拝んだ。


「すごいです、ユイナ! 頼りになります!! 天才です!!」

「お師匠様と離れずに済むのなら、お世話係、喜んでやらせて頂きます」


 後日、このルールの隙間を突いたユイナの作戦は会議で問題になるのだが、魔王アンヴェルドの「……まあ良い」の一言で不問にされる。

 ほとんど反則のような発想だったが、その柔軟な発想を評価されての1度きりの措置だった。


 それからエルフ族の青年団が盗賊たちの死体を集め、セシリアが「ウルミちゃんにばかり目立たれると師匠としての威厳が!」と言い、超火力の魔法で一気に掃除した。

 日が昇る頃にはユイナ部隊の小隊が飛竜に乗ってベルリコットに到着し、彼らとバリケードと頑丈な門を作ったのち、ユイナとセシリア、そしてウルミは魔王城へと帰って行った。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 翌日。

 セシリアの部屋で暮らす事になったウルミは、朝の戦いに挑んでいた。


「お師匠様、起きて下さい。朝です。お師匠様」

「んぬぬ。分かりました。あと2時間だけ寝かせてくださいー」


 寝起きの悪い師匠を相手に奮戦するウルミ。

 人間の盗賊団の何十倍も彼女の師匠は強敵だった。


 それから30分でどうにかセシリアは起床し、ウルミと一緒に朝食を取る。


「うんうん。ウルミちゃんも魔術師のローブがよく似合いますね! さすが私の弟子!」

「は、はい」


 ウルミの仕事はセシリアの世話以外にも与えられている。

 主なものは、ユイナ部隊の雑務。

 武器を運んだり、給仕をしたりである。


 ユイナの計らいで、空いた時間はセシリアとの特訓をしても良いとされており、ギリギリ反則判定でやって来たウルミにとって、その程度の条件はあってないようなものだった。


「いいですか? 他の幹部の人の前では、ローブで顔を隠すんですよ? と、ユイナが言っていました。面倒事になるので、それは絶対だそうです」

「わ、分かりました。なるべくお師匠様のお部屋から出ないようにします」


 セシリアは「うんうん。それなら大丈夫そうですね!」と笑顔で頷く。

 その笑顔が数分ののちに凍り付く事となるのだが。



「失礼します。セシリア様。サイズ違いのローブをお持ちしました」

「う、うひゃああああっ!? カミラさん!? ち、違うんです! これは、その、何と言うか!!」



 魔王軍での正確な序列は不明であるが、多分相当に偉い、部隊の幹部よりは確実に地位の高いカミラに早速ウルミの存在がバレる。

 慌てふためくセシリア。


「こ、この子は! ええと、そう! 私の娘です!!」

「お師匠様……」


 セシリアは嘘がつけない。

 相手を欺く行為自体に慣れていないので、そもそも嘘をつく機会が極めて少ない。

 そんな彼女に言い訳をさせるとどうなるのか。



 このように酷い事になる。



 カミラは「セシリア様。そのレベルの申し開きならば、黙秘を貫いた方が利口でございます」とため息をついた。

 セシリアも「はい……。すみませんでした」としょんぼりする。


「エルフの子、ウルミ様でしたね? あなたのサイズのローブをご用意させて頂きました。セシリア様のものですと大きすぎて、逆に目立ちますので」

「えっ、あれ!? カミラさん、ウルミちゃんの事に気付いていたのですか!?」


 カミラは「まったく……」と首を横に振る。


「わたくしも、そして当然アンヴェルド様も、ウルミ様が魔王城の結界に入った時点で気付いております。これほどの魔力をお持ちなのですから」

「でも、あの! ウルミちゃんはお料理もできて、朝は早起きですし! いい子なんですよ!!」


「あの、セシリア様? わたくしはウルミ様をあなたから奪いに来た訳ではありませんよ?」

「えっ、そうなんですか!?」


「しっかりとお世話してくださいませ。そうですね、まずは魔力の制御からでしょうか。他の幹部に露見しそうになった場合は、出来る限りわたくしが協力いたします」

「か、カミラさん……!!」


 カミラは善人だが、無条件に慈愛を与える訳ではない。

 ダークエルフの彼女が同種であるエルフのウルミに対して思うところがあるのは違いないが、彼女の方針は常に一貫している。


 魔王アンヴェルドの有益となる行動を取る。その一点のみ。


 カミラは「それでは、失礼いたします」と涼し気な表情で去って行くのだった。



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[良い点] カミラ神、降臨!! ウルミたん、尊い…
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