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セシリア・フローレンスは諦めない  作者: 羽入五木
第一章
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魔王に報告


 レスコーネ城が大混乱に陥っている一方で、セシリアを含むユイナ部隊はアルバルバ山脈を越え、魔王城に凱旋していた。

 発着場にてコカトリスから降りたユイナは、侵攻作戦中に頑張ってくれた怪鳥たちへのご褒美として「しっかり美味しいご飯を食べさせてあげたら、ゆっくり休ませてあげてね!」と部下に命じる。


「了解しました!」

「それじゃ、わたしたちは魔王様に報告に行こう!」

「分かりました。うぅ……。初陣でテンションが上がってしまって、今になって恥ずかしいです……」


 ユイナは「テンションが上がるってレベルだったかなぁ?」と、狂乱のセシリアを思い出すものの、すぐに考えるのをヤメた。

 怖いからである。

 目の前のセシリアはおっとりとしていて、温厚で礼儀正しい。


 こっちのセシリアの方がユイナは好きだった。

 もっと言えば、ユイナ部隊のメンバー全員が同じ意見である。


 ユイナとセシリアは並んで長い廊下を歩く。

 門番が2人に気付き、敬礼をした。


「ユイナ様、セシリア様! 遠征任務、お疲れさまでした!」

「ありがとうございます! 魔王様に報告に来ました!」


「かしこまりました! 開門せよ!! ユイナ様とセシリア様、ご入来!!」


 謁見の間では、魔王アンヴェルドが玉座にて待ち構えていた。

 まるで2人が帰って来るタイミングを予見していたようである。


「魔王様! ユイナ部隊、全員が無事に帰還しました! 負傷者が数名出ましたが、サウスユニスは制圧完了です!!」

「そうか。ご苦労だった」


 短く労いの言葉を口にするアンヴェルド。

 セシリアは「私も何かしなければ!」と考える。

 そんな必要はないのに、彼女の勤勉さがそう駆り立てるらしい。


「あ、あの! 転写魔法でサウスユニスの様子を映し出してもいいでしょうか!?」

「すごい、セシリア! そんな事も出来るんだ!」

「……ふむ。では、やってみるが良い」


「ありがとうございます! ……『トゥムナリアス』!!」


 セシリアが両手で魔力を放出すると、サウスユニスの現状が、と言うよりも惨状が細部までしっかりと投影された。

 アンヴェルドは黙って頷く。

 傍らに控えているカミラが代わりに感想を述べた。


「これはこれは……。セシリア様は随分と張り切られたようですね。まるで火山が噴火した後を見ているようです」


 カミラの言葉を拾うように、アンヴェルドも口を開く。


「……セシリア。かなり派手な仕事ぶりであるな」

「あ、うぅ……。その、つい力が入ってしまいました……」


 自分の仕事を「見て下さい、見て下さい!!」と躍起になって披露している事に気付いたセシリアは、急に恥ずかしくなってくる。

 頬を赤く染めながら「も、もうよろしいでしょうか」と魔王に聞いた。


「余はもうしばらく見ていても構わぬが?」

「うぅ……! 魔王様、私が浅はかでした! お許しください!!」


「まあ、良かろう。セシリア。貴様の実力は充分に確認できた。まあ、この程度はやってもらわねば困る。でなければ、貴様を見出した余の目が曇っていた事になるからな」


 アンヴェルドは片手を挙げて、カミラに合図する。

 彼女は「かしこまりました」と頭を下げた。

 続けて、セシリアに魔王の言葉を代弁する。


「これほどの戦果を挙げられたセシリア様は、魔王軍のどの部隊でも問題なくやっていけるでしょう。ゆくゆくは上級幹部として活躍される未来をわたくしもアンヴェルド様も望んでおります。そこで、まずは部隊に正式な加入をして頂きたいのですが、希望はありますか? 例えば、魔法に特化した部隊でしたり。常に最前線で戦う部隊もよろしいかと存じます」


 セシリアは数秒の間もなく、即答した。


「でしたら、私はユイナ部隊を希望します!」


 その言葉に驚いたのは、他ならぬ部隊を統べるユイナである。


「へっ!? わたしの部隊で良いの!? 自分で言うと悲しいけど、うちよりも強くて待遇の良い部隊はいっぱいあるんだよ!?」

「ユイナは私に初めて出来たお友達です。魔王様が許して下さるのならば、その親友を支えて、ユイナと一緒に上級幹部を目指したいです」


 セシリアの言葉には迷いがなかった。

 自分とユイナは必ず出世して、魔王軍の中核を担うと疑いもしていない。

 「なるほど」とアンヴェルドは答えた。


「良いだろう。大言壮語を吐いたからには、実現して見せよ。セシリアはユイナ部隊に正式加入させる事とする。……カミラ」

「かしこまりました。手続きはわたくしが済ませておきます」


「あ、ありがとうございます!! ユイナと一緒に頑張ります!!」

「うぇっ!? あ、えと、わたしも隊長として頑張ります!!」


 理想に燃え、野心を抱く少女2人を眺めるアンヴェルド。

 感想めいたものは口にせず、代わりとして彼女たちにささやかな褒美を取らせる。


「ユイナ部隊には充分な馳走を。飲酒も許可する」

「かしこまりました。そのように手配いたします。魔王城の第3食堂を貸し切らせますので、祝勝会を開かれるのがよろしいかと」


「わぁ! お心遣い、感謝いたします! セシリア! 行こう!!」

「あ、はい! 待ってください、ユイナ! では、魔王様、失礼します!!」


 謁見の間から慌ただしく退室するセシリアとユイナ。

 魔王アンヴェルドの無機質な赤い瞳は、彼女たちを見て何を思うのか。

 それは彼にしか分からないが、悪い感情ではない事は想像に難しくなかった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「それでは、みんなー! グラス持った!? では、我が隊の勝利を祝してー! かんぱーい!!」


「「「うぉぉぉぉぉっ!!!」」」


 ユイナ部隊の祝勝会は会場こそ食堂だったが、内容は豪華絢爛であった。

 どうやら給仕長にカミラが命じてくれたらしく、魔界では珍しい牛や鶏の肉が並び、帝国暦708年もののワインも寄与された。

 毒と瘴気が蔓延る魔界において、そのどれもが貴重品である。


「セシリアー! ちゃんと飲んでるー!?」

「はい、頂いています。お酒なんて久しぶりの味ですから、格別です」


 部隊の隊長と、いきなり殊勲賞を挙げた期待のルーキーが並ぶ。

 ユイナ部隊のメンバーは荒くれ者の集まりだが、皆が空気を読むのは得意としていた。

 口々に「2人きりにさせて差し上げようぜ!!」と言い合い、彼らは肉を貪る事にシフトした。


「実はね、セシリア。あなたがうちの部隊に入るのって、普通は絶対に無理なんだよ? それがどれだけすごい事か分かってないでしょ?」

「えっ、そうなのですか!? だって、カミラさんが希望の部隊にって」


「その時点で超の付く特例だからね? 通例だと、魔王軍に入ったら2年は下働き。その後、ようやく新兵として配属されるの。基本は特攻部隊に。そこでどうにか生き残って、ようやくスタートライン!」


 ユイナの言葉で、アンヴェルドが自分の身の上を慮ってくれた事をセシリアは理解する。

 生気を感じさせない魔王が、自分を裏切り謀殺した人間たちよりも余程優しい事に戸惑いながらも、胸を熱くするセシリア。


「そうだったのですね。……それなら、なおさら頑張らなくてはです! 私、ユイナの部隊を魔王軍のトップに押し上げるお手伝いをします!!」


「大きく出たなぁー。魔王軍のトップかぁ。でも、セシリアと一緒なら本当にそれが叶っちゃいそうだから不思議! わたしもね、オーガの劣等種だって今も陰では言われてるんだけど、いつかはこの曲がった角がオーガ族最強の証だって事を魔界中に知らしめたいの!!」


 ユイナは秘密にしていた野望を語った。


「私も人間たちを根絶やしにするためなら、どんな事でもする覚悟です! ふふっ、私たちって似てますね!!」


 セシリアの野望はユイナのものとはベクトルが変わる。

 純度100パーセントの怨恨で出来たそれと同列に扱われるのは何となく違う気がしてならない。


「に、似てるかなぁ? わたしのはセシリアみたいに怖くないよ?」

「あ、ひどいですよー! 私、別に怖くないですよね!? 魔族として当然の考えじゃありませんか!?」


 セシリアが忘れていた、いや、もしかすると知らなかったかもしれない楽しいひと時。

 それは日が暮れて、夜のとばりが下りてきてもしばらくの間続くのだった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 王子の扱い方が、良いのとオマケのザマァを無駄に先延ばしにしない点 [気になる点] ここまで一気読みしたんですが、魔獣の餌の下の所為で魔王側とセシリアのストーリーに感情移入出来ません。魔王側…
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