課長兼マスコット?
『本日午後7時頃、16歳の少年3人が無断でダンジョンに侵入し、怪我をする事故が発生しました。
保護された少年達は幸い軽傷で・・・』
会社の遊戯室のテレビから聞こえるニュースをBGMに、俺を含む3人で卓を囲み麻雀に興じている。
俺は懐から葉巻を取り出し、吸口を切り落として火を着けて咥える。
「にしても減りませんね、アレ」
下家にいる後輩、無駄にムキムキな田辺がテレビを指して言う。
右上の字幕には『主人公症候群について』と表記されている。
主人公症候群、2ヶ月前に突如世界各地に出現したダンジョン、今現在各国の政府が管理しているが興味や好奇心で突撃する若者がちょいちょい出てきている、そんな状況を皮肉って主人公症候群と名付けSNSに書いたら何処ぞこゲーム好きな有名人によって拡散され定着した名称だ。
「気持ちは分からんでもないがな」
そう言いながら牌を引き、目的の物ではないため捨てる。
「つかお前のその格好何とかなんないのか?」
対面にいる同期の山中が俺をジト目で見ている。
「無理だな、服はキャラデザの女共が持っていった、トランクスは何とか死守したが」
そう言いながら右にある大鏡で自分の姿を見る。
艶のある黒髪をツインテールで束ね、服はクラシックロリータ、見た目は美少女であるが口には葉巻を咥えている。
今から一週間前、朝起きたら男の娘になっていた。
それ以前は普通に一般男性していたんだがな・・・。
それもこれもあのダンジョンが原因だ。
ダンジョンが出現した経緯は何処ぞの阿呆な女神様が『あの文化面白そう』とか『その料理美味しそう』とかそんな理由で世界を混ぜた結果、異世界へと繋がる道としてダンジョンが出来たそうな。
これでも一応配慮したらしいが魔素と呼ばれるモノの流入は考えていなかったらしく、魔素に触れた事のない地球人類は大なり小なり影響を受け、適応するために変異した。
例としては『少し容姿が変わったかな?』程度から田辺のように『一晩でヒョロヒョロからゴリマッチョ』になったり、俺のように『骨格・容姿が大きく変化』したり。
「しかし天辻も災難だな、そんな女の子みたいになって」
「まぁな、外でタバコ吸ってると職質されるし、アダルトコーナー行ったら変な目で見てくる奴がちょいちょい居るわ、女共に捕まって服剥ぎ取られて女装させられて・・・」
ほんと良い事がない。
が、悪い事ばかりでは無い。
魔素の適応に際して容姿が大きく変化した場合、魔素との親和性が高く能力値が高くなる傾向があるらしいとダンジョン周辺の研究で解っている。
「でも、天辻先輩より凄いのが居ますよね」
「あぁ、姫宮ん所の弟君か」
「今は妹になってるがな」
同期であり、俺をこんな姿にしたキャラデザ課の女共の一員である姫宮の弟さんは何と美少女になってしまったのだ。
まぁ、元から男の娘っぽい感じではあったが。
「姫宮姉からの情報だが、ウチのゲームで使っているアバターがそのままの抜け出た感じだそうだ」
「それってステータスもですか?」
ステータス、魔素流入により追加されたモノの一つ、ゲームでよくあるレベル、能力値、スキルが表示されるアレだ。
「らしいな、しかもゲーム内で所持していた物全て取り出せるストレージもあるそうだ」
「それ、ヤバくないですか?国とか企業とか善からぬ考えの輩とか、それに何処の主人公ですか」
「だよな、今の所は身内と信頼出来る奴等にしか話していないらしいな。
面倒はゴメンだがダンジョンで無双出来そうなのは羨ましい」
件の阿呆な女神様は事もあろうにウチのゲームの干渉し、あちらの世界に似るように運命操作の真似事をしていたそうだ。
クリエイターとしては複雑だが会社としてはゲームが大ヒットし、出現したダンジョンの予習になると言う事でさらなる売上が約束されている。
「あ、積もりました。七対子です」
田辺が和了。
「俺の大三元がぁ」
山中が吼える。
「そう言えば、明日重要な発表があるらしいが聞いてるか?」
俺の問い掛けに牌を雀卓の中央の穴に入れながら二人が考え込む。
「んー、聞いてはいないが予測はある。
今度ダンジョンが一般に開放されるだろ、それと関係あるんじゃないか?」
「そうかもしれませんね」
「俺もそれは考えたが、そうなったら新しい課が増えるのかね」
「かもな。俺はこれから少し仕事を進めてから寝るが、お前等はどうする?」
「俺はもう寝るわ」
そう言いながら葉巻の火を切り落し、ケースに入れて懐にしまう。
「僕は山中先輩と同じです」
「そうか、あんま無理すんなよ、お休み」
俺はそう言いながら遊戯室の隣りにある仮眠室へと入り、ベッドに潜り込む。
「あ、この服どうしよう・・・まぁ良いか」
皺になるとか、寝汗とか気になったがこれは無理矢理着させられた物だ、すぐに思考を放棄して眠りについた。
翌日 7:20
スマホのアラームが鳴る少し前に起きた俺はベッドから出て伸びをする、関節がパキパキと音をたてた。
服に皺が出来ているがあいつ等が悪いので仕方ない。
とりあえず仮眠室を出て売店に寄り、適当に大きめな弁当を買って仕事場に向かう。
モデリング課、俺の所属している所だ始業時間まで1時間程あるが同僚がちらほら居る。
身体が変わってから1週間、まだ見慣れないのか数人がこちらを2度見する。
「先輩おはよう御座います、その格好のまま寝たんですか?」
「おはよう、仕方ないだろ、変えの服も全部持ってかれたからな」
挨拶をしながら自分のデスクを見ると紙の束が置かれている。
紙は右上をホチキスで止められており、表紙には『新課創設と職務の概要』と書かれている。
「昨日の予想が当たったな」
「はい、パラパラと読んで見ましたがやはりダンジョン素材の利用ですね」
椅子に座り、弁当を食べながら読み進めていく。
やはり内容はダンジョン探索課の創設と取得した素材の利用、危険手当も出るし探索時に使う道具、機材の購入費も出るそうな。
そんなこんなで始業二十分前。
「あー、皆揃ってるか?」
課長がホワイトボードの前に立ち、その手にはデスクに置いてあった冊子を持っている。
「揃っているみたいなのでちょっとしたミーティングを始める、質問しても構わないが区切りの良い時にしてくれ」
そう言うと課長は冊子をめくる。
「皆読んだとは思うが新課の創設についてだ。
この話はダンジョン出現辺りから練られてた物だ、近々ダンジョンが一般開放される、そこで得た素材を使いゲーム内のキーアイテムを再現した物を作り限定版に入れるというものだ」
そこで遠くの席に座る同僚が手を挙げ発言する。
「それって採算取れるんですか?」
「最もな質問だな、予定としては通常版、限定版、超限定版を作り超限定版に入れる予定だ、超限定版は完全受注生産で予約数以上は作らない」
「超限定版は売れると思いますか?」
「逆に聞くがゲーム内のキーアイテム、例えばヒロインが身に着けているストーリーの行く末を左右するペンダントのレプリカや、ライバルキャラとの死闘の末譲り受ける重要アイテムのレプリカ、それをダンジョンから取れると思われる幻想金属、魔物素材で作るんだ、欲しいと思わないか?」
その言葉を聞き、皆が息を飲む。
「その反応で答えはわかった、では話の続きだが新課創設に伴い内から2名転課となる、天辻秋斗、田辺良明の2名は明日付でダンジョン探索課リンドブルムに転課となる」
「ちなみにチーム名の由来と転課の拒否権は・・・」
「チーム名は社長の趣味だ、拒否権はない。
そう言えば天辻は新課の課長兼マスコットな、やったねアキちゃん、部下が増えるよ」
「「「おいやめろ」」」
課内から一斉に声が上がる。
俺、これからどうなるの?
てか、マスコットって何!?