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グリーンスクール - Let It Be  作者: 辻澤 あきら
1/8

Let It Be-1


Let It Be


 某月某日―――晴。風向、南南西。


 麗らかな陽射しの下を賑やかな一群が通っていく。真新しい制服の群れは、楽しげに校門をくぐっていく。甲高いソプラノの笑い声は空に舞い上がって、陽射しの中に拡がっていく。

 「おはよう!」

ひときわ、甲高い大きな声が響き渡る。その声に驚いて振り返った生徒たちは、その声の主の姿を見て一層驚いた。漆黒の学生服は、朝陽の光を浴びて輝いている。そのシルエットは、短ランの様相を示していて、新入生には似つかわしくはない。特に、この私立の名門といわれる緑ヶ丘学園の新入生の群れの中では、一種独特の雰囲気を醸していた。しかも、背丈はさほど大きくない、くるくるくせっ毛の少女が纏っているということに、誰もが奇異の目を向けた。

 少女は気にすることなく、堂々と通学路を闊歩して行く。おはようと、元気良く声を出しながら。

 校門をくぐると、上級生からも冷やかな目が向けられた。くすくす笑いも漏れている。しかし、少女は委細気にすることなく歩いていく。

「なんだ、オマエ。女だろ」

不意に少女の後ろから声が投げ掛けられた。少女はくるっと振り返り声の主を睨んだ。そこには三年の、同じような短ランを来た背の高い男が薄い鞄を小脇に抱えて見ていた。

「おい、オマエ、何年だ」

男は突っかかるように少女に問い掛けた。少女は、きっと睨みながら、

「一年」と、ぶっきらぼうに答えた。

「名前は?」

「あんたは?」

「なんだ、その言い種は。上級生に向かって、タメ口きくんじゃねえよ」

「人の名前訊くんなら、先に自分の名前くらい言いな。親の躾けがなってないな」

「なんだ、生意気なやつだな」

男は近づいてきて、間近で少女を見下ろした。少女は臆することなく睨み返した。

「ち」と舌打ちすると、男は名乗った。

「俺は、大野。三年だ。お前は?」

「アタシは、西川美智子。一年B組」

「なんで、そんなカッコしてるんだ?」

「アタシの趣味だ」

「バカかぁ、オマエ?」

「なんだよ、その言い方は」

「ここは宝塚じゃねえんだぞ」

「うるさい」

「女の制服は違うだろ。ナニ、短ランなんて着てるんだ」

「いいじゃないか」

「バーカ。さっさと帰って、着替えてきな」

大野はそう言うと背を向けて立ち去ろうとした。すると、美智子は持っていた学生鞄を振り上げて、いきなり大野の頭を殴った。つんのめって倒れた大野の横に立ちながら、美智子は言い張った。

「うるせえ、おまえなんかに指図されないよ」

大野は倒れた状態で振り返り、美智子を睨むと、

「ナニしやがるんだこのヤロウ」と怒鳴って立ち上がった。途端に、美智子はまた鞄で殴りつけた。真新しい学生鞄の角が頭を直撃して大野は地に伏した。美智子は委細構わず殴り続けた。慌てた周囲の学生が間に入って制止してようやく止まった。まだ突っかかる美智子を何人かの生徒が抑え、怒鳴り散らす大野を数人が押さえ込んでいると、ようやく先生が駆けつけた。



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