夢コントロール専門店
~今晩、あなたに好きな夢をお見せします~
そんな貼り紙があるお店を見つけた。ドアがガラスなので覗いてみると、店員と目が合った。よろしければどうぞ、ぐらいの反応だったけど立ち去るのも気が引けたので中へ。
「いらっしゃいませ」
いたのはその人だけだった。それと、カウンターの上に水晶玉がある以外は商品も何もない。
「あの、ここは…? 好きな夢を見せるとありましたけど」
「はい。300円にて、お客様のお望みする夢を、今晩お見せすることができます」
やっす。
「それで、どんな夢が見たいかは……」
「お伝え頂く必要はありませんので、ご安心ください。いかがなさいますか?」
断られるなら仕方ない、といった感じの表情。
「じゃあ、試しに今日だけ」
「ありがとうございます。では、目を閉じて、今晩見たい夢を思い浮かべてください」
言われた通りに、目を閉じる。自然と、顔が下の方に向いてしまう。
でも、どんな夢にしようか。せっかくだからいい夢を、思った時に浮かんだのは、目の前にいる人の顔だった。よし、この人とデートで。
「終わりました。目を開けて頂いていいですよ」
顔を上げると、目が合った。思わず逸らしてしまう。
「あ、300円でしたね」
「はい、ありがとうございます」
会計を済ませ、外へ。
「それでは、今宵はよい夢を」
その夢の中で会うことになるんだけどね…。
家に帰った後はいつものように過ごし、少し早めになったけど寝た。
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「お誘い頂いて、ありがとうございます」
とある喫茶店。小さなテーブルに、2人で向かい合って座っている。
「あ、いえ、こっちこそすみません。お店があるのに」
「それならお気になさらず。あまり繁盛していませんから」
やっぱりそうなのね。300円とは言え怪しいし。だからこそ、気になる。
「どうして、あのお店を始めたんですか?」
「やはり、不思議に思われてしまいますか」
「はい、まあ」
「そうですね…。入店を敬遠する方も少なくないですし」
それは本人も分かっているようだ。
「ですが中には、ご利用頂ける方もいらっしゃいます。せめて、夢だけでもいいものをと。翌日にもの凄い勢いでお礼を言って頂けることもありまして、その時はとても嬉しく思います。自分の力で1人でも多くの人を幸せにしたい、というのが私の夢ですから」
それでその人は肩をすくめ、自分自身に呆れているといった様子でこう言った。
「こればかりは、コントロールできませんね」
お読み頂いた皆様、ありがとうございました。