『修行始めました!』
□ヴァルハラ学園 暁 朔斗
神様が直々に教えてくれるというヴァルハラ学園。
俺はとんでもない学校に入学しようとしていた。
「さて、中に入るよ」
フェルトが俺の手を握りながら歩きだす。
歩くこと数分。俺はある場所に連れてこられた。
「オーディン! オーディンはいる!」
彼女がそう叫ぶとーー
「呼ばれてすぐ参上! ワシ、オーディン!」
小さい変なおっさんが突然現れた。
なんだこのおっさんは?
大きさはニ三歳くらいの子供。
体より長く白いあごひげを生やしている。
「お?フェルトではないか。どうしたどうした」
おっさんがそう聞くと、フェルトは俺の肩に手を置いて言う。
「この子をこの学校に入学させたいのだけど」
それを聞いたおっさんはあごひげを触りながら俺の方へ来る。
俺を見ながら周り一周すると。
「ふむふむ。どうやら人間から神魔族へ転生したようじゃな」
俺の周りを一周しただけでそれを見破った!?
「良かろう。元人間の神魔族を育てるのは何十年ぶりかの〜」
やっぱりマナさんが言ってた通り、人間から神魔族に転生した人は居るんだな。
「それじゃ、ここで頑張って色々なことを学んでおいて」
そう言い、フェルトは魔法陣を展開した。
「何年ここで勉強すればいいんだ!?」
そう聞くとフェルトは笑みを浮かべながら言う。
「サクトの頑張り次第よ。じゃあね〜」
そう言い残してフェルトは消えた。
俺の頑張り次第ってどう言うことだよ!?
動揺する俺をお構いなしにおっさんが俺に問う。
「さて、若者よ。お主の名は何と言う」
「えっ? 暁 朔斗だけど……」
「サクトか。ワシはここで見習い神魔族を鍛えておるオーディンと言う。気軽にオーディンと呼ぶがいい。よろしくな」
そう言って手を差し伸べるオーディン。
俺はオーディンの背丈に合わせて座って握手を交わす。
「どうも。よろしくお願いします」
握手を交わし終えると、オーディンは再び俺に問う。
「にしてもお前さんデカイの〜。身長はどれくらいじゃ?」
「えっ〜と……確か百七十二くらいだったかな……?」
そう言うとオーディンはーー
「わぁ〜! 凄い凄い!」
子供みたいにはしゃぐ。
はしゃいだ後、腕で目を隠し泣き出す。
いや、泣かなくてもいいだろ。
泣き終えるとおっさんは魔法陣を展開し、そこから杖を出す。
「さて、サクトよ。これからワシがお主を一人前の神魔族に育ててやる」
「はい! よろしくお願いします」
「ワシの教えは厳しいから気を引き締めるように」
現実世界でも体を動かす体育だけは得意だったんだ!
どんなに厳しかろうと成し遂げてみせる!
俺の修行の日々が続いた。
最初の修行。
それは神魔族の歴史について学ぶことに。
神魔族とは何なのか。
悪魔とどう違うのか。
それを一からみっちり学んだ。
テストで満点を取れなければ眠ることは許されず、ちょっと居眠りしただけで電気ショックを体中に浴びせられる。
そして一週間かかってようやく俺は満点を取ることが出来た。
「よし、では次の修行じゃ!」
しかし、休む間も無く次の修行に。
次の修行は基礎体力を身につけること。
基本的な運動を只ひたすらするだけ。
腹筋はもちろん、背筋、スクワットを千回。
次に学園の周りを千周。
それが終えると次は海の中に放り出され、そこで当たり前の様に活動するための練習。
これをひたすらやり続けた。
そして五ヶ月が経った。
死ぬかと思った第二の修行がようやく終わった……。
「よくやったサクトよ。では次の修行じゃ!」
あとどれだけ修行は続くんだ……。
次の修行は体術を身につけること。
神魔族の驚異的な身体能力を駆使した体術を身につけることで戦闘力を格段に伸ばす。
アイリスさんが一瞬でゴブリン達を倒すことが出来たのはこの体術が完璧だったからとオーディンは言う。
この体術を完璧にマスターすることで、魔術が使えずとも戦うことができる。要は拳と足は最後の武器と言うこと。
俺はオーディンに教えられた基礎的な体術を身につけるために必死で修行に取り組んだ。
「よし、サクトよ。この岩を拳のみで壊してみせい」
オーディンが指定したその岩は俺よりはるかに大きい岩だ。
三メートル近くはある。
「だあぁぁぁぁぁ!!」
俺は気合を入れ、その岩を殴る。
しかし、岩はびくともせずただ俺の手が痺れて痛かっただけだった。
それからと言うもの何度もその岩に拳を叩き込むも岩はびくともせず、俺の拳から血が出るだけだった。
何故だ。どうしてこの岩を壊すことができない?
俺はそれから考えた。
そして俺の考えついた答え。
それはオーディンに教わった基礎的な体術をもう一度完璧になるまで再び修行し直した。
そして俺はあることを思い出した。
そう、オーディンはこう言っていた。
『良いかサクト。効果的な打撃を与えるにはただ力を加えれば良いと言うものではない。明鏡止水の心で拳を振るえ。さすれば効果的な一撃を浴びせることが可能じゃ』
明鏡止水の心……心に邪念ややましさがなく、落ち着き払っている状態。
俺は呼吸を整え、心を無にした。
そして。
岩に渾身の一撃を叩き込む!
岩はみるみるうちにひび割れていき、そのまま粉々に粉砕された。
すげぇ……。これが俺の力?
感心しているとどこからか拍手が聞こえてくる。
辺りを見回すとそこにはオーディンが居た。
「ホッホホ。良く出来たの〜。いや〜関心関心」
「いえ、オーディン様の教えがあったからです」
「何を言う。ワシはただやり方を教えただけ。それをどう工夫したかはお前さんじゃ。胸を張れ。お主は強くなった」
そこまで褒められると心なしか照れてる。
でもこうして強さを手に入れられたのはやっぱりこの人のお陰だ。
オーディンはあごひげを触りながら言う。
「さて次の修行じゃ。次はお待ちかねの魔法についてじゃ」
おぉ! 待ってました!
ようやく俺も魔術を使えるようになるんだな!
「基本的な魔法の使い方を教えてやろう。これが出来ればあとはお主のイメージ次第じゃ」
「イメージ次第?」
俺がそう言い頭を傾げると。
「魔法を使うのに最も欠かせないものがある。それがイメージじゃ。イマジネーションが強ければより強い魔法が使えるようになる。お主のイメージが形になると、今は覚えておればよい」
そして俺は魔法に関する基礎的な知識を勉強することに。
魔法。それは使う者のイマジネーションを具現化させる魔術。
例えば『岩を壊せるような砲撃を手から放ちたい』と願い、それをイメージすることで自然と出来るらしい。
そのためにはイマジネーションは必要不可欠。
これが不得意な者は体術を極めるそうだ。
俺がオーディンから魔法を学んでから数年が経った。
気がつけば俺も二十歳になっていた。
想像以上に魔法の勉強に時間を掛けてしまった。
「どうじゃ?魔法は上手く扱えるようになったか?」
オーディンが俺の様子を見に来た。
「爺さんか。まぁぼちぼちってとこかな」
そう言い、俺は掌に魔力で作り上げた赤黒い玉を出す。
それを見たオーディンはあごひげを触りながら言う。
「ほぉ〜……。数年で魔力を自在に操るとわの〜」
感心したあとオーディンは続けて言う。
「サクトよ。ワシに付いてこい」
なんだ?
少し険しい顔をしたオーディンが気になりつつも、俺は爺さんに付いていく。
たどり着いた場所は闘技場の様な場所。
「あの、ここは?」
「見ての通り闘技場じゃよ」
「俺はここで何を?」
するとオーディンは杖をある方向へ向ける。
杖の向く先を見ると、そこには一人の青年が立っていた。
誰だ?見た感じは人間だが……。
「お呼びでしょうか?オーディン殿」
「よく来たのルシア」
ルシアと呼ばれるその青年は銀髪の絶世の美青年。
所謂イケメンと言うやつだ。
「早速で悪いがサクトよ。あそこにおるルシアにちょっとでいい。攻撃を当てることが出来ればお主は卒業じゃ」
「ーーっ!?」
動揺して驚く俺。
つまりこれが最後の試練と言う訳か。
「そうか……。君が暁 朔斗か?」
ルシアが俺にそう聞く。
「あぁ。お前は?」
「俺の名はルシア。君と同じ、現実世界から来た来訪者だ」
何だって!?俺と同じ現実世界から来ただと!?
するとルシアの身体の周りから青白いオーラが見える。
アレは魔力を使用する際に見えるもの。
オーディンが言うには普通の神魔族なら赤黒いらしいが、それ以外のオーラを纏う者は最上級クラス以上の神魔族のみ。
と言うことはアイツはーー
「最上級クラスの神魔族……だな?」
俺が彼にそう聞くと彼はこう答えた。
「なるほど。しっかり勉強したと言う訳か……」
そう呟いた。
その後、続けて言う。
「その通り。俺は最上級クラスの神魔族。さぁ、来い暁 朔斗。お前の力、試してやる」
面白ぇ……!!
俺は呼吸を整え、身体の底から一気に魔力を解放する。
俺は赤白いオーラをその身に纏う。
そして構える。
俺とルシアの戦いが今始まる。
俺は無事卒業することが出来るのか?