『初めての戦いを経験しました!』
□魔界城魔王集会場 暁 朔斗
フェルトがエリナという魔王を呼びに行っている間、俺は彼女ら以外の魔王と共に居た。
やべー……。ノエルって魔王以外なんかみんな殺気みたいなの感じるんだけど……。
特にアイリスって魔王の殺気は他の魔王とは一味も二味も違う。
腕組みしてるせいかめっちゃ怖い。
「ねぇサクトくん☆」
ノエル……いやノエル様って今は呼んだほうがいいのか。
ノエル様が俺に話しかけてきた。
「な、なんでしょうか?」
「なんで神魔族になったの?やっぱり永遠の若さを保てるから?それとも永遠の命?」
「いや、そうじゃないです」
話を聞いていたのか、アイリス様が俺の方を向いて言う。
「人助けをしたいからか?」
「えっ……まぁ、そうです」
そう答えるとアイリス様は俺の方へ歩いてくる。
俺の前に立つと。
「ちょっと来い」
「え?」
「さっさとしろ、私に同じことを二度も言わせるな」
睨んでくる。やっぱり怖い。
俺はとりあえずあの魔王様に付いていくことにした。
言うことを聞かないと殺されそうな気がした。
「少しコイツを借りて、出掛けてくる。フェルトが来たらそう伝えてくれ」
アイリス様が他の魔王にそう言うと。
「おいーっす☆」
ノエル様しか反応しなかった。
仲が悪いのかここの魔王は。
アイリス様は魔法陣を出現させると。
「魔法陣の中に入れ」
と言ってくる。傲慢の魔王ってみんなこんなに偉そうなのか。
とりあえず魔法陣に入ると、どこかへ転移した。
□人間界·人里離れた森深く 暁 朔斗
転移した先は人間界。
辺りには人や街、村は当たり前のように居ない。
めちゃくちゃ気味悪い場所。
「あの、ここは?」
俺がアイリス様にそう問うと。
「ここの周辺はゴブリンが住処にしている。お前はそのゴブリンを駆除してもらう」
「俺一人で!?」
「当たり前のこと聞くな」
若干怒り気味に言うアイリス様。
やっぱり怖い。多分一番苦手だ。
彼女は腕を組みながら続けて言う。
「神魔族になると決めたのだろ?ならお前の覚悟見せてもらう」
「俺まだ戦い方とか習ってませんし」
俺がそう言うとアイリス様はため息をした。
「……なら手本を見せてやる。魔法が使えずとも戦う方法はいくらでもある」
すると、森の奥の方から物音が聞こえる。
何か生き物が走ってくるような音。
次の瞬間――
「エモノダァァァ!!」
森の中から複数のゴブリンが飛び出してきた。
見た感じで五匹いる。
アイリス様は一歩も動く素振りを見せない。
あのままじゃやられるじゃ!
――刹那。
気がつけば五匹のゴブリンの胴体は真っ二つになっていた。
ゴブリン達は断末魔の叫びを上げることなく死んだ。
アイリス様の方を見ると、彼女はただ右足を空高く上げていただけだった。
「何したんだ今?」
俺が感心しているとアイリス様は足を地面に下ろすと、俺の方を見て言う。
「魔法が使えないなら拳や脚を使った格闘技主体で戦えばいい。お前も少しはこういうの見たことあるだろ」
「いや、でも俺ただの人間ですよ!?そんなこと――」
「人間?何寝言言ってる。貴様はもう人間じゃない。辞めたんだろ?人間」
アイリス様がそう言った時、彼女の背後から一匹のゴブリンが飛び出してきた。
「モラッタァァ!!!」
しかし、アイリス様はそのばを動かず裏拳だけでゴブリンを跡形もなく粉砕した。
なんなんだよこの人の怪力。
「やってみろ。下級の神魔族でもゴブリン一匹殺すことなんて容易いことだ」
容易いことって。本当なのか?
俺は疑心暗鬼になりつつも構えた。
すると、またゴブリンの群れが森の方から飛び出してきた。
今度は十匹ほどいる。
俺は右拳を握りしめ、そのまま突き出した!
殴る瞬間、周りがスローモーションになった感覚がした。
交通事故に合った際に、周りの景色がスローモーションになって見える。アレと同じ感覚。
俺の拳は一匹のゴブリンの腹部に直撃、そのまま勢いよく森の彼方へ飛ばされていく。
次は背後に居るゴブリン達に回し蹴り。
横一列になっていた四匹のゴブリン達の頭部を吹き飛ばす。
仲間が殺されたのを目の当たりにしたゴブリン達は襲うのを止め、俺の方を見て怯えた表情を見せる。
そのまま残りのゴブリン達は森の方へ逃げようとした。
「逃がすか!!」
俺が追いかけようとした時ーー
背後から黒みがかった紫色のエネルギー砲の様なものが逃げていくゴブリン達を一瞬で消滅させていく。
その衝撃で俺は後ろに吹き飛ばされる。
後ろを振り返ると、さっきの攻撃はどうやらアイリス様がやったこと。
「これが本当の戦いだ。わかったか?」
これが本当の戦い……。正直言うと怖かった。安易に転移するって言った俺が馬鹿みたいだ。
アイリス様が俺の方へ寄ると、手を差し伸べた。
「今日はこのくらいでいい。帰るぞ」
俺は彼女の手を握り、立ち上がる。
「ありがとうございます」
そう言うとアイリス様は失笑したあと、魔法陣を展開した。
「行くぞ。早く来い」
俺は駆け足で魔法陣の方へ向かった。
そして城へと戻っていった。
□魔界城魔王集会場 暁 朔斗
俺はアイリス様と元居た場所へと帰ってきた。
フェルトもどうやら戻ってきていた。
「サクト!大丈夫だった?どこも怪我してない?」
「大丈夫大丈夫。無傷だから」
「よかった〜……。ノエルが『サクトとアイリスが何処か行った』って言うから何かされたんじゃないかと心配したよ」
フェルトがそう言うとアイリスが歩きながら彼女に言う。
「勝手に変な妄想するな。ただ戦い方を教えただけだ」
「そうなの?」
フェルトが俺に問う。
俺は頷く。
「まぁそれならそれでいいんだけど」
「心配させて悪かったよ」
フェルトに謝罪したあと、俺はアイリス様の方へ行く。
彼女は目を閉じたまま腕を組みながら、柱にもたれかかっていた。
「あの、一つ聞いてもいいですか?」
「なんだ?」
「なんで俺に戦い方を教えてくれたんですか?」
そう聞くと目を開くアイリス様。
目線を俺の方へ合わせる。
「気まぐれだ。気にするな」
気まぐれか……。なんか他に答えあると思ったんだけど、まぁいいか。
「ありがとうございました」
そう言い一例すると彼女は再び目を閉じ、小声だが「フン……」と言いそっぽを向いた。
「さぁ、これで全員集まったな。これより全魔王による魔王会議を始める!」
フェルトが高らかに宣言する。
彼女は俺の手を握り、城にあるステージの様な場所に連れてくる。
「ここに立ってて」
何故かステージの真ん中に立たされる俺。
「まず最初に我がラスト眷属に新しく入った新人下僕を紹介します!異世界の人間界からやって来た暁 朔斗くんです!では、サクト。挨拶をどうぞ!」
どうぞじゃねぇよ!挨拶するなんて聞いてねぇぞ!
つーか、こんなとこでか!?
めちゃくちゃ恥ずかしいんだが……。
アイリス様以外の魔王がみんな俺の方を向いている。
とりあえず言われたとおり挨拶するか。
「えーっと、はじめまして。暁 朔斗です。人間から転生したばかりの新人ですが、どうかよろしくお願いします」
挨拶を終えると、まばらな拍手が起きる。
拍手がないよりかはマシかも知れないが、絶対歓迎ムードではないな。
「えーっと……サクトくんありがとう!」
フェルトは困惑したままそう言った。
そのまま俺は彼女の方へ駆け足で向かう。
「何あのまばらな拍手。完全に殺されそうな雰囲気だったけど」
「あはは……。ちょっと機嫌悪いみたい。あとは私がなんとかするからここで座って見てて」
そう言ってフェルトは椅子を用意する。
俺はその椅子に腰をかける。
フェルトはステージに上がり、他の魔王に言う。
「では、これより各眷属の報告をお願いします。まずはプライド眷属の魔王アイリス、お願いします」
そう言われるとアイリス様は目を開き、もたれかかっていた柱から離れて小さな魔法陣から一枚の紙を出す。
「プライド眷属は特に変わったことはない。人間界での異常は最近ゴブリンが村の住人に危害を加えていた為これらを全て駆除。また都市部にはぐれ悪魔らしき者が居たとの報告があった為現在調査中。以上だ」
報告を終えるとアイリス様は再び小さな魔法陣を展開し、紙をその場所へとしまった。
「続いてラース眷属魔王ディアーナ。報告をお願いします」
感情を表に出さないジト目の少女が手に持っていた紙を広げ、その内容を朗読する。
「ラース眷属も特に変わったことはない。人間界でドラゴンが頻繁に目撃されいた為、調査したところ旧魔王軍の下僕だった為これらを全て駆除。後に神魔族へ転生を試みるも灰となって消えた。以上」
朗読し終えると紙を跡形もなく燃やした。
あれも魔法なんだろうか?あんなの覚えてみたいな〜。
報告を聞きえ終えるとフェルトが次を指名する。
「続いてエンヴィー眷属魔王ノエル。報告お願いします」
「はいはーい!☆」
元気よく挨拶するノエル様。
この人だけはいつも明るい。
彼女も手に持っていた紙を朗読する。
「エンヴィー眷属も特に変わったことはないでーす☆人間界の海にて旧魔王軍の使い魔レヴィアタンが居た為これを捕縛して神魔族へ転生できないか実験中でーす☆以上!キラーン!☆」
ノエル様は朗読し終えるとそのまま後ろに下がる。
この魔王様だけはどこへ行ってもマイペースなのだろう。
この様な報告会や会議が体感で五時間ほど続いた。
そして魔王様による魔王会議と呼ばれるものは幕を閉じた。
めっちゃ疲れた〜……。
クタクタの俺に飲み物を渡すフェルト。
「疲れたでしょ?飲みなさい」
「ありがとうございます」
そう言って俺は渡された飲み物を手に取り、すぐ様飲む。
至って普通のシンプルな水だ。
魔界にもシンプルな水ってあるものなのか。
「さて、私たちの城に帰りましょうか」
「はい!」
俺とフェルトは魔法陣でラスト城へ転移した。
□ラスト城 暁 朔斗
ラスト城へと帰ってきた俺とフェルト。
「さて、これからサクトの部屋に案内するから付いてきて」
流石にこんなに大きな城だと部屋あるんだな。
俺はフェルトに付いていく。
彼女に自分の部屋に案内される途中この城について教えてくれた。
このラスト城は七百メートルもの高さがある。これはどこの眷属の城も同じ高さらしい。
違うと言えば見た目だけ。
城の中には温泉や食堂、眷属達が睡眠や自由時間を取るため自室など高級ホテル並の設備。
しかも食堂は絶品料理ばかりで食後には美味しいスイーツなんかもあるらしい。
また地下には俺のような眷属に入りたての見習い神魔族が通うための学校もあるらしい。
俺はどうやらその学校に何年か通う必要があるらしい。
まぁそうだろうな。転生したばっかだし、魔法もロクに使えないし。
城の中を歩いていると妙に女性が多い。やっぱり色欲の魔王だから……か?
男性を見たとしてもほんの数人程度。
「フェルト。ラスト眷属って男の数少なくねぇか?」
「え?あぁ……。そうね、大半は女性さ。男は……サクトも含めても数十人くらいかな?」
「そんなに少ないのかよ……」
何だか女子校に誤って紛れ込んだ男子みたいでなんか興奮半分、不安半分。
そしてフェルトはある部屋の前で足を止めた。
「ここがサクトの部屋よ」
そう言うとフェルトは扉を開く。
中へ入るとそこはまさに高級ホテルの様な部屋だった。
俺の家より豪華だ……当たり前だけど。
「今日はゆっくり休みなさい。明日また玉座の前に来て」
「明日は何するんだ?」
「明日は地下の学校に案内するわ」
異世界転生してまでも学校に行く羽目になるとは。
でもまぁ数学とかないからいいとするか。
俺は疲れていた為、そのまま布団に倒れ込むとそのまま眠りについた。