動き出す世界
◆◇side『アーサー&マーリン』
藪の中に身を隠した俺とマーリンは前方の洞窟の様子を確認する。
洞窟の前には篝火が焚かれ、見張りがダルそうに立っている。
俺は緊張を押さえ込む様に剣を握り直した。
「覚悟は出来てる?」
「ああ」
マーリンに短く返事を返す。
「じゃあ、行ってくるわ」
「気を付けろよ」
「ああ」
俺とマーリンは同行者であるリンドさんと別れ、見張りから見つかり難い位置に移動する。
今は、俺がマーリンと同じDランクに上がる為、対人戦を経験する為、盗賊の討伐に来ている。
リンドさんはギルドから派遣された見届け人だ。
俺がきちんと盗賊を殺せるかを審査している。
コレはDランクに上がる為、避けては通れない道だ。
俺の長い夜が始まった。
数日後、俺は無事Dランクに昇格する事が出来た。
「だいぶ資金も溜まったしそろそろ移動しないか?」
俺はギルドに併設された酒場で夕食を食べていた時にマーリンに切り出した。
「どこに向かうとか決めてるの?」
俺には特に目的地などは無いから師匠を探しているマーリンの行先について行く事になる。
今、俺とマーリンはDランクなので、出来れば目的地の方角に行く商人の護衛の仕事を探したいところだ。
護衛ならば移動しつつ金を稼げるし、条件が良ければ移動中の食事を出してくれる商人もいる。
「王都に行くのはどうだ?
王都なら国中の情報が集まるだろ」
「王都か。確かにそろそろ一度戻って情報を整理するべきかもしれないわね」
まぁ、俺は王都に行った事が無いので行ってみたいだけなのだ。
「じゃあ、明日ギルドで王都の方に行く護衛依頼が無いか探しましょう」
こうして俺達の王都行きが決まった。
翌日、朝から旅の準備をした俺達は夕方、依頼を探してギルドにやって来た。
俺とマーリンは、クエストボードに張り出された依頼の中から護衛依頼を探す。
「次は王都に行くんでしょ、ならこの護衛依頼を受けたら良いじゃない。王都の近くの街までの護衛よ」
それは王都の近くの街までの護衛依頼だった。
しかし、その依頼には人数に条件が付いている。
「よく見ろよ、この依頼の最低人数は3人じゃないか、あと1人足り無いぞ」
「そんなの誰か適当に誘えば良いわよ」
マーリンが呆れ半分にそう言った時、突然背後から声を掛けられた。
「なぁ、お二人さん。その依頼、俺も交ぜてくれないか?」
そう言って来たのは俺達と同じ位の年の冒険者だった。
カートと名乗ったそいつも王都を目指して依頼を探していたらしい。
少し話し合った結果、俺達は共同で依頼を受ける事になった。
依頼書によると、出発は明日の昼前だ。
俺達は護衛をしつつ、王都を目指すのだった。
◆◇side『フリードリヒ王』
書類の山を切り崩しながら深く息を吐く。
まったく、面倒としか言えないが、これも王としての責務なので仕方がない。
トントン
ノックの音が飛び込んで来た事で俺の集中が切れる。
「ふぅー」
俺……いや私は気持ちを切り替え入室を許可する。
「入れ」
「失礼致します」
入室して来たのは文官の1人だった。
何の用か尋ねると、文官は少々歯切れが悪そうに口を開く。
「それが……陛下に謁見を申し込みたいと……」
「謁見を?
そんな予定は有ったか?」
「いえ、私も申請をお出しになり、順番をお待ちくださいとお伝えしたのですが、どうしても急ぎ謁見出来ないか陛下にお尋ね頂きたいと……」
「ふむ、一体何者なのだ?」
「はい、パーフェ男爵様です」
「なに!パーフェ男爵だと!」
俺は驚き、つい立ち上がってしまった。
なんとか平静を取り戻そうとするが、心臓が早鐘の様に鳴って静まらない。
俺……私はカラカラになった喉を震わせ文官に指示を出す。
「直ぐにパーフェ男爵を応接室へ通せ。
この後の予定は全て中止だ」
「え⁉︎し、しかし……」
「構わん、全て中止だ。
直ぐにパーフェ男爵を通せ。
これは王命だ」
「は、はい!」
パーフェ男爵が領地を離れ王都にやって来たと言う事は、16年前のフリジオの話が現実になった可能性が高い。
彼の地の山奥には次代の勇者を育てている村がある。
そして、精霊の予言によれば勇者が旅立つ時期にその村は魔族の襲撃を受け、壊滅すると言われている。
おそらくパーフェ男爵の要件もその関係だろう。
私は足早に応接室へと向かうのだった。
◆◇『???』
「本当にありがとうございました」
ある田舎の村の入り口で深々と頭を下げているのはこの村に住む村娘だった。
彼女と、彼女の家族、村の村長からも丁寧な礼を受けているのは十代後半くらいの青年だ。
まだ若い青年は細身だが良く鍛えられた引き締まった身体をしている。
しかし、その身体つきとは裏腹に青年の髪はまるで老人の様な白髪だった。
彼は山菜採りの最中に人攫いに襲われていた娘を助けて村まで送ってくれたのだ。
「あの……少ないですがこれを」
娘の父だと言う男が硬貨が入った袋を差し出した。
「いや、俺には礼を受け取る資格は無い。
それよりも一つ聞きたい」
白髪の青年は袋を父親に突き返しながら尋ねた。
右腕に手の甲から肘に掛けて痣のある冒険者を知らないか?
多分魔術師の女と行動している筈なんだが?」
「冒険者……すみません。何分田舎な物で、冒険者など滅多に……」
「そうか、なら良い」
白髪の青年は村に背を向けて歩き始めた。
「あ、あの!お名前は!」
娘が声を上げて問うが白髪の青年は答える事も、振り向く事も無くたちさっていった。