アーサーとマーリン
「アーサー、マーリン、世話になったな」
「気にすんなよ。
何せ俺は世界最強になる男だからな」
「ははは、お前はなかなか筋が良いからな。
きっと俺よりも強くなれるさ。
それとコレを持って行け」
アルザックのおっさんが手渡してくれたのは一振りの剣だった。
「あら、いい剣ね。
かなりの魔力が込められているわ。
マジックアイテムよ」
「え、良いのかよ⁉︎
マジックアイテムって高いんだろ?」
「構わないさ。
どうせ俺にはもう扱えない」
アルザックのおっさんは少し寂しそうに失った腕を摩る。
「そいつは『雷の剣』だ。魔力を込めると雷を生み出す。
折れちまったお前の剣の替わりに使ってくれ」
「ああ、ありがとう」
俺はアルザックのおっさんとがっしりと握手を交わした。
「じゃあ、私達は行くわ」
「ああ、ありがとうな。
お前の師匠ってのが見つかる事を祈ってるぜ」
ゴブリン退治の翌日、昼前に俺とマーリンは村を後にした。
「じゃあマーリンは王都に住んでたのか?」
「住んでいたって言うか、学院に通っていたのよ。
それで卒業して師匠の所に帰ろうとしたら手紙が来て旅をして師匠を探せって書いててね。
あーもう!
絶対見つけてぶん殴ってやる!」
マーリンと他愛もない話をしながら歩いていると前方から馬に乗った集団が近づいて来た。
揃いの鎧を着ている。
どうやら騎士の様だ。
俺とマーリンは街道の端に寄り道を開ける。
騎士達は走り去ると思ったのだが、俺達の少し前で止まると他の騎士より少しだけ豪華な鎧を着た騎士がこちらに近づいて来た。
「私はパーフェ男爵様に仕える騎士、ソイルだ。
お前達は冒険者か?」
「はい、そうですが……」
「ならば、ギルドカードを確認させて貰おう」
俺とマーリンは下馬したソイルにギルドカードを見せる。
「確かに確認した。
問題ないだろう」
「何かあったのですか?」
マーリンの問いにソイルは頷き答える。
「パーフェ男爵領にある村が2つ、壊滅している事が分かったのだ。
村人は全て身体が石になっていた。
中には粉々に砕けている者も居る」
「身体が石に!」
マーリンが驚きの声を上げる。
「ああ、私達はパーフェ男爵様の命により、各村を回り、村人の安否を確認しているのだが何か知っている事はあるか?」
「はい、私は学院に通っている頃に身体が石になる奇病を患った友人の妹の為、石化について調べた事があるのですが、身体が完全な石に変わる事はなかなか有りません。
友人の妹は特異体質から来る病でした。
石化と言われるバジリスクの視線やコカトリスのブレスは石化の様に身体が固まる麻痺の事です。
そうなると村人全員を石に変えられる物と言えば……」
「心当たりがあるのか?」
「考えられるのは【石化の邪眼】です」
「【石化の邪眼】?【石化の魔眼】なら有名だが?」
「【石化の魔眼】はバジリスクやコカトリスと同じ麻痺の一種です。
しかし、【石化の邪眼】ならば完全な石に変える事が出来るはずです」
「そうか……実は森に入っていて難を逃れた村人が魔族を目撃したと証言しているんだ。
もしかしたら村の壊滅に魔族関わっているかも知れんな。
この情報はパーフェ男爵様に伝えよう。
協力、感謝する」
ソイルはそう言うと馬に乗り、仲間の騎士と駆けて行った。
町までの道中は数回、ゴブリンやコボルトに遭遇したが問題無く討伐した。
インベの町に戻って来た俺とマーリンはギルドに向かった。
ギルドで手紙の配達の報酬とゴブリンやコボルトの魔石を売却金を貰った俺は、売却金をマーリンと分けながら尋ねる。
「町に着いたけどマーリンはこれからどうするんだ?」
「そうね、取り敢えず路銀を稼ぐ為に暫くはこの町で仕事をしよう思うんだけど…………アーサーは特に目的とかは無いのよね?」
「目的ならあるさ。
冒険者として名を上げ、世界最強になるって目的がな」
「でも、目指している場所とかは無く、漠然とした目的でしょ。
なら、暫くわたしと組まない?」
俺はマーリンの意外な提案に尋ね返す。
「マーリンと?」
「ええ、道中の戦闘で分かったと思うけど、私は元々支援系の魔法使いなのよ。
もちろん、今まで一年近くソロでやって来たから剣も使えるけど補助魔法や遠距離魔法での援護の方が得意なの。
だから戦士系の前衛と組む方が戦い易いのよ」
「そうか、確かにマーリンの補助魔法が有ると戦い易いな」
マーリンの付与魔法や援護魔法は強力だ。
1人で戦うよりも良いかも知れない。
「そうでしょ?」
「分かった。これからよろしく頼む」
「ええ、よろしく。
取り敢えず、宿を取って休みましょう。
明日は休憩にして、明後日から依頼を受けるって事で良いかしら?」
「ああ、それで構わないぜ」
「そう、じゃあ行きましょう」
俺とマーリンは宿を探しに行く為、ギルドを後にした。