出会った2人
アルザックさんの声が上がる。
突如現れたゴブリンキングは近くに居た冒険者の少女に肉厚な大剣で斬りかかった。
しかし、冒険者の少女は慌てる事なく、剣を構える。
するとゴブリンキングの左側、視界の外から小さめの【ファイアーボール】がゴブリンキングのこめかみに直撃した。
小さく威力は低い【ファイアーボール】だったが、突然の衝撃にゴブリンキングは一瞬硬直した。
その隙に冒険者の少女はゴブリンキングから距離を取る。
「引き裂け 疾風 【エアカッター】」
冒険者の少女の魔法を受けてもゴブリンキングの肌には浅い傷しか付かない。
「嬢ちゃん、退がれ!」
アルザックのおっさんが冒険者の少女と入れ替わる様に前に出る。
「グギィ!」
ゴブリンキングの大剣をアルザックのおっさんはショートソードで受け止める。
剣を受ける瞬間に身体を深く沈めて衝撃を受け流すが、片腕では受けきれず弾き飛ばされ壁に叩きつけられる。
「アルザックのおっさん!!」
「ぐっ!」
「来るわよ!」
冒険者の少女の忠告で慌ててゴブリンキングに剣を向ける。
「グォ!!」
上段から振り下ろされる大剣を反射的に掲げた剣で受け止めようとした。
不味い!
受け切れない!
「【パワーエンチェント】」
「ぬぉ!」
冒険者の少女が力を上昇させる魔法を掛けてくれた事で事なきを得た。
「ぬぉおお!!!」
俺がゴブリンキングの剣を押さえていると、アルザックのおっさんが背後から首を狙って剣を振るう。
「【スラッシュエンチェント】」
その斬撃に冒険者の少女が付与魔法を合わせる。
強化されたアルザックのおっさんの斬撃は片腕とは思えない程の威力でゴブリンキングの首に深い傷をつける。
「グギィ!!!」
「大地よ 縛りつけよ【アースバインド】」
大剣を取り落とし首を抑えるゴブリンキングを拘束魔法が押さえつける。
「今よ!」
「やれ!アーサー!」
「うぉぉお!!」
俺はアルザックのおっさんが付けた傷目掛けて全力で剣を振った。
ガキッ!
俺の剣が折れるのとゴブリンキングの首が落ちるのは同時だった。
「はぁ、はぁ、はぁ」
ゴブリンキングが倒された事を知ると、戦いを遠巻きに見ていた生き残りのゴブリン共は蜘蛛の子を散らす様に逃げて行った。
これも放置すれば被害が出るかも知れないが、今は有難い。
周囲のゴブリンの気配が消えると冒険者の少女が近づいて来た。
「ありがとう、助かったわ。
まさか、ゴブリンキングまで居るとは思わなかったから、私だけだと危なかったわ」
「いや、礼を言うのは俺の方だ。
俺はアルザック、こっちはアーサーだ。
俺はそこの娘達の村の門番でな。
あの子達がゴブリンに拐われたと聞いて、偶然居合わせたアーサーに協力してもらい助けに来たんだ」
「そう、私はたまたまゴブリンに捉えられたあの子達を見つけてね。
放って置くわけにも行かなかったし」
「そうか、ありがとう。
アーサーも済まなかったな。
助かったよ、今日はもう暗くなるから村に泊まっていくと良い」
「俺の方こそ勉強になったよ」
アルザックのおっさんは冒険者の少女に向き直る。
「君も是非村に寄ってくれないか?
大した持て成しは出来ないがせめてもの礼がしたい」
「いえ、別にお礼は良いんだけど……。
ねぇ、あなた。アーサーだっけ?
あなたは村の人間じゃないの?」
「え?ああ、俺は手紙の配達で村に来ていただけだ」
「じゃあギルドが有る町に戻るのね?」
「そうだけど……」
「そう、良かったら私を町まで連れて行ってくれないかしら?
実はここがどの辺りかも分からなくて」
どうやら彼女は道に迷ってこの場所に着いたらしい。
「分かった。
もちろん構わないぞ」
「助かるわ。ああ、まだ名乗ってなかったわね。
私はマーリン。
師匠を探して旅をしているわ」