革命の始まり
「この革命を成功させる為には大きな壁がある」
俺達、外の国から来た冒険者はその辺の事情を知らないかも知れないからとロミオが説明してくれる。
それを俺達とソフィアが椅子に座って聞いている。
ハムレットは元々この国の生まれで、故郷の情報を気に掛けていた様でかなり詳しく事情を知っているらしい。
「皆も現国王、リア・フォン・ヤナバルが民を犠牲にして邪悪な実験を繰り返している事は聞いていると思う」
「ああ、錬金術で人間と魔物を融合させるってヤツだろ?」
カートが答えを返す。
この国の王は胸糞の悪い事に自国の民を錬金術の実験台にして兵力としているらしい。
「そうだ。
兵士は自堕落で家柄が良いだけの雑魚がほとんどだが、その代わり錬金術で造られたキメラ兵が城を守っている」
「そのキメラ兵はどれ位の強さで数は何体ぐらいいるのよ?」
マーリンがロミオに問い掛ける。
「強さは弱いものでオーク、強いものでオークジェネラルくらいだ。数は現在323体いるらしい」
「そんなに詳しい数がわかってるの?どこの情報よ?」
「この情報に関しては、まだルートを開かせない。だが、確かな情報だ」
どうやって手に入れたかはわからないが、おそらく王宮内に内通者が居るのだろう。
それならば情報の出所を話せないのも当然だ。
「オークジェネラル並みの強さか、強敵だが倒せない程ではないな」
「ま、待って下さい!
キメラ兵は元々何の罪もない一般人なのですよね?ならば捕縛して救う方法を考えるべきではないですか?」
ソフィアがロミオの言葉を遮った。
彼女は人々の為にレジスタンスに参加した冒険者だ。
キメラにされた人達も助けたいのだろう。
「いや、1度キメラにされた者を元に戻すのは不可能だ。
キメラにされた奴らを救うには殺してやるしか無い」
「そんな……」
ロミオの答えを聞き、ソフィアは顔を伏せた。
「とにかく、オークジェネラルクラスの相手なら何とかなるんじゃ無いか?」
カートが強引に話を戻す。
「いや、それだけでは無い。
国王は強力な魔物を使って巨大なキメラを造り出したらしい。推定だがAランク以上のキメラだ」
「Aランク以上……いくら俺が世界最強になる予定とは言え、勝てるからどうか……」
「不味いな……」
「私もダンジョンでAランクの魔物を倒した事がありますが、それは仲間のベテラン冒険者と共に戦ったからで、しかも周りの被害を気にする必要のないダンジョンでの話ですから……」
話を聞くとソフィアはミルミット王国の迷宮都市ダイダロスで活動していた事があり、その時Aランクのキマイラを討伐した事があるそうだ。
だが今回はBランクやCランクの仲間が沢山いる訳ではない。
レジスタンスは情報が漏れない様に慎重に行動している為、雇っている冒険者も少ないのだ。
仲間の冒険者の内、最もランクが高いのはハムレットのCランク、その次が俺達とソフィアのDランクだ。
後はD以下の冒険者となる。
このメンバーでは、他のレジスタンスを護りながらAランクの魔物を倒すのは不可能だろう。
「キメラ兵は冒険者を中心に複数の戦闘員で戦えば倒せるだろう。
しかし、Aランクのキメラはそうは行かない。
このAランクキメラを倒せるかが、革命成功の鍵だ」
ロミオの説明を聞いた限りでは今の所は手も足も出ない。
何か状況を打開する手立てを考えなければならないだろう。
王宮のキメラの話を聞いてしばらく経った日、俺達はまた集めらて居た。
今回は前の様な隠れ家ではなく、王都の集会所だ。
こんな場所に堂々と集まって良いのかと思うかも知れないが、問題ない。
これから王家を打倒する戦いが始まるからだ。
俺とマーリン、カート、そしてソフィアは集団の前の方を陣取る。
ソフィアは今日、俺達と組む事になっているので、出会ってから今日まで連携の訓練を重ねてきた。
彼女は最初に会った時とは違い、フルプレートメイルを身に付けている。
兜は被っていないが重装備だ。
ソフィアのパーティとしての役割は壁役なので兎に角防御力重視の装備にしたらしい。
俺達のパーティには防御力上昇や回復などをこなせるマーリンがいるので壁役が入るととても安定する事がわかった。
近くに立っているハムレットはレジスタンスの戦闘員を率いる冒険者達の纏め役だ。
俺達とロミオが主要人物を拘束する間、キメラ兵や兵士と戦って貰う事になっている。
そして、主要人物の元に向かうのは俺達とロミオだけでは無い。
このレジスタンスを組織したリーダーが加わる事になっている。
俺はレジスタンスのリーダーが誰かは知らない。
他のメンバーも知らない様だ。
話を聞いてみるとリーダーの正体を知っているのはロミオを含めた幹部数名だけだと言う。
「皆、よく集まってくれた。
今日、我らの故郷であるこの国は生まれ変わる。
我らの手で新たな国に造り変えるのだ!」
わぁぁぁあ!
ロミオの演説は風の魔法によって周囲に集まったら人々に余す事なく響き渡る。
「それから、今日は皆に俺達レジスタンスを導いて来たリーダーを紹介する」
ロミオがバッと手を入り口に向けると、1人の男が入ってくる。
どぉよ⁉︎
その男を目にしたレジスタンスのメンバーは困惑と怒りの感情を露わにする。
そして、近くに居た男がリーダーに飛びかかろうとした時、それを遮る様に幹部のオセロが立ちふさがる。
混乱の最中にあるレジスタンスのメンバーに対してロミオが声を上がる。
「紹介しよう、ヤナバル王国第3王子マクベス・フォン・ヤナバル様だ」
噴火する火山の様だった熱気が消え失せて、辺りを静寂が支配する。
ギィン!
張り詰めた弓糸の様な緊張を破ったのはハムレットのレイピアだった。
マクベスへと突き出された鋭い切っ先を逆手に持ったロミオのナイフが受け止めている。
「ちっ! コレはどう言うことだ、ロミオ!」
ハムレットはそこで動きを止める。
それは対話を選んでの事ではなく、ジュリエットの短槍の矛先が喉元に突き付けられた為、仕方なく問い掛けている。
「落ち着いてくれハムレット。
キチンと説明する。ジュリエット、君も槍を退くんだ」
ロミオは、そう言ってナイフを下げる。
その様子にマクベスを鋭く睨みつけたままだが、ハムレットもレイピアを退く。
「ハムレット、皆も聞いてくれ!
マクベス様はこの国を憂いている。
腐ったこの国を正す為、マクベス様はレジスタンスを組織されたのだ」
「嘘だ!なら何でそいつは民を食い物にしているんだ!」
「マクベス様が気に入った女性を無理やり攫っていると言う噂の事だな?
あの噂はレジスタンスの間で故意に流した噂だ。
マクベス様が更生を声高に主張すればリア王やゴリネルやダンカンにすぐさま謀殺されていただろう。
そこでマクベス様は、自らも同類の振りをして奴らの目を欺いていたのだ。
皆の中にも『マクベス様の気まぐれ』で助かった者もいるのでは無いか?」
あちこちからざわざわと戸惑う声が聞こえる。
しかし、俺にも確かに覚えがある。
この王都に着いたその日、マクベスがジュリエットを連れ出そうとした時、ついでとばかりに町娘に、手を出そうとした衛兵を不機嫌そうに止めていた。
「ロミオ」
「はい」
「いろいろと言いたい事はあるが先ず、前にも言っただろう?
そのマクベス『様』をやめろ」
「いえ、しかし……」
「構わん、むしろ俺はその権威を捨てたくて仕方ないんだ」
「…………わかった」
ロミオとマクベスは2人で何やら話した後、ロミオがマクベスにも風の魔法を掛ける。
「皆、取り敢えずマクベス様……」
「ロミオ」
「す、すみません、つい。
え~同志マクベスの話を聞いて欲しい」
ロミオが一歩下がると入れ替わる様にマクベスが前に出る。
「皆、この様な事態になったのは全て我らの王族の責任だ。本当にすまなかった」
マクベスは集まったらレジスタンスに対して深々と頭を下げた。
「先ず皆に宣言しておく。
この度の革命が成った後、俺は王になるつもりは無い。新たな王は皆の中から選んでくれ。
それでも許せないと言うのなら俺の首を刎ねてかまわない。
この革命には皆の力が必要なんだ。
頼む、俺に力を貸して欲しい」
俺は集まった人々にそう願うマクベスの姿に確かにカリスマを感じるのだった。




